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ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
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 13
 


二人の女官は、真夜中にもかかわらず来客にお茶を入れに台所へ走った。
エッジは手早く頭から水をかぶり、酒の臭いを逃し身づくろいをしてサロンへ向かった。

「お待たせしました。」
サロンには薄暗く明かりが灯されており、奥のソファに来客の姿があった。衣擦れの音が静かに響き、女性はゆっくりと立ち上がりエッジに向き直る。
「幻界女王…アスラ殿…」
エッジはつぶやく様にその面を確認すると、跪いた。女官二人も後ろに従い、膝をつく。

「お久しぶりです。エドワード殿。この様な時間の来訪、ご無礼お許し下さい。」
「と、とんでもない!!こちらからお伺いしなければならぬ所を…」
ベールで覆われた全身は人間の姿だが、佇むのは紛れも無く幻界の女王アスラだった。
「エドワード殿…いえ、エッジ。どうか、共におかけ下さい。心づくしの書簡をありがとう。そのお返事に、こうして参りました。」

「恐れ入ります―――リディアは、幻界の方に?」
ええ、と頷き、アスラは静かに幻界の様子を語り始める。
幻界に帰ったリディアは、真っ先にアスラとリヴァイアの所へ赴き、地上の報告と共にエッジの書簡を二人に渡した。しばらく滞在し、幻獣達に地上で暮らす事を伝えたが、予想外の事が起きた。

リディアが戦に巻き込まれた事を心配していた幻獣達、とりわけ人間の事を快く思っては居ない者たちが反対し、リディアを居住区の一角に閉じ込め、幻界から出さない構えを見せているのだ。
是が非でもセシルの戴冠式に参列したいリディアは途方にくれているらしい。

「私達は、彼女がどこで暮らすかは彼女の意思にかかると思っています。しかし―――」
言葉を切るとアスラはふと、女官の方を見て、穏やかに笑みを浮かべた。

「失礼ながら御人払いをお願いします。あなた方がリディアのお友達ね。お話は、伺っています。」

二人は慌てて、扉の奥に下がった。
シルフの姿も消え、サロンにはエッジとアスラの二人だけが残される。
「エッジ。私がここに来たのは、あなたに尋ねたい事があったから…まず、リディアをあなたの妻にしたいと言う心に、偽りはないのですね?」

その瞬間、気のせいだろうか。穏やかな表情を変えぬアスラの雰囲気ガが、少しだけ険しく変わる。エッジは一瞬、穏やかな気迫を感じ息を呑んでいた。
「御付の方もおりません。この話は、私とあなただけの事にしてもいい。あなたの言葉で、お聞きしたいのです。」

かつて自分に関わった女達の親に、この様な表情をされた事はなかった。王子様、どうぞうちの娘を、と平伏する親達。だがその中には、放蕩道楽者だがお前は王子だからな、と侮蔑を含む者も少なくはなかった。
だが、目の前にあるのは、どこまでも一人の人間としてのエッジを見定めようと、そして覚悟を確かめようとする母の顔。
心臓が早鐘を打ち始め、エッジの左手はその胸を無意識に押さえていた。

―――俺…
―――俺…怯えてるのか…?

「あの…」

俯きかけた顔を慌てて起こすが、アスラの顔を見る事が出来ない。

―――俺が…どれだけ…その、リディアを愛して…いるか…

今しかない。
母親が自ら、単身赴いてきた事に報いる為には、それこそ一晩の言葉でも足りないかもしれない。心臓を押さえた左手を離し、アスラに向き直った。
「何一つ、偽りはありません。確かに王家と言う事で、幻界で暮らすのとは違う苦労を味わわせてしまうかもしれない―――ですが、何があろうと私はリディアを守り、この国を共に治めて行きたいと思っています。」
単純だが、それ以上の言葉が見つからない。
アスラは静かに頷くと、言葉を続けた。

「判りました。ですが、あの子が生きてきた環境や、いきさつはご存知ですね?」
「はい。召喚士と言う特殊な血を継ぎ、7歳の頃幻界へ行ったと。」
「…あの子が幻界であの様な成長を遂げるのは、全くの予想外でした。確かに時間の流れは地上とは違う。幻界で育った人間は、リディアが初めて。成長期の終わりと共に、著しい身体の変化は止まりましたが、人間として無理がある事に変わりはない…それがこれから生きてゆくに上でどの様な影響を及ぼすのか…我々にも予想がつきません。」

アスラは一度目を伏せ、またエッジをしっかりと見据える。
「そして、何よりも…地上の王家にとって問題となろう、不妊と短命をもたらした濃すぎる召喚士の血。リディアが無事な子を…いえ、子をなせる身体かと言う保障すらありません。…よいのですか?王家の血を継ぐのは、あなた一人と伺いましたが。」
恐らく、アスラはエブラーナの歴史を知っているのだろう。果たしてエッジにどこまで、一人の女性が守れると言うのか。ややもすると挑戦する様な口ぶりに、それが伺えた。

「いえ、子をなす以前に、あの子自身、短命と言う事も大いにあります。もしそうなら先の短い人生に、一国の王妃と言う役目は背負えるかしら。あなたも彼女が先立つ事に耐えられますか?リディア程の腕を持つ魔導師は少ないかもしれませんが、それ以上の魅力を兼ね備えた女性は、人の世に幾らでもいます。代わりのものは、幾らでもいるのですよ?」

「な…んで!?」

そのアスラの言葉に、エッジは表情を険しく変わっていった。
「…俺は…俺はそんな事は考えていない!!」
言葉が乱れた事にエッジは一瞬顔をしかめたが、アスラは先を促す。

「…すみません。乱暴になりますが、言わせて下さい―――俺は確かに一国の王になる人間だし、その役目ははたして行きたいと思っている。それは…国を治め残すべきものを、次の時代へ受け継げばいいのであって、その他の事は、子がどうとか先が短いからとか…それは、幾らでもどうにでもなる問題です。第一、女一人大切に出来ねぇで、何で国の人々を守れるのか…自分の妻一人と手を取れない王に、誰がついてくるのか、エブラーナの人間は、そこまで馬鹿じゃない。俺は、あいつ… リディアだからこう思えるから、他の女じゃ…あいつじゃないと、意味無いんです。」

そう、一息に言い切って正面を見据える。
アスラは変わらぬ穏やかな表情でそれを聞いていたが、やがて更に表情を、空気を緩めて静かに頷いたのだった。
「あなたの話は色々聞いてます…勝気で自信過剰。枠にはめられるのが大嫌いな破天荒な王子…しかし軽薄な振る舞いは、正義感と優しさと熱さを隠す為の物、とね。」
「…へ?は、はい…いえ、その…」

やはりお噂通りの方ね、と小さく口の中で呟かれた言葉は、エッジの耳には入らなかった。

判りました、とアスラはまた、僅かに目元に笑みを浮かべる。 
「リディアは…人間です。人から見れば、半永久的な命を持つ我らに比べ、あまりにも寿命が短い。あの子が地上に寄る辺を持てるなら、同じ時間の中で仲間と共に生きて欲しい。そうすれば、あの子が幻界であまりにも短い生涯を終えるのを、目の当たりにする事はないでしょう。」

それは、紛れもないアスラの本心だろう。心の底を明かした二人の間に穏やかな空気が漂い始める。アスラはつと立ち上がり、窓の外を見た。

「もう夜も遅いわね。そろそろ、お暇しなくては―――」
部屋を用意する、と言うエッジの申し出は丁寧に断られた。

「幻界の者達には私から話をします。リディアが地上に戻るかは彼女次第。ですがあなたの誠意は、しっかりと受け止めました。エブラーナも幻界同様、国を閉ざしていた時期があるそうですね、エッジ。一つ所に閉ざされたままでは、国は退廃してしまう。そろそろ幻界も、新しいあり方を考えなければ。また会う日も近いかもしれませんね。」
「アスラ殿…」
「今日はあなたにお会いできてよかったわ…では…」

アスラが深々と一礼すると、周りのシルフ達が一際輝きだす。 エッジは跪き、その姿を見送った―――

 






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 12
 

エッジはリディアが幻界に帰ってからと言うもの、今までにもまして公務に精を出す様になっていた。
だが城下ではリディアの姿が消えた事を、『戦に参加したから、魔法の国の両親に連れ戻された』と子供たちが噂してたらしい。
そして村娘には負けたくなくなったのか、ここぞとばかりに一部の貴族達がエッジに縁談を持ちかけたが、エッジ側は当然聞き入れなかった。話を聞くたびに、『こっちの世界にゃ、リディアよりいいオンナはいないからな…』とため息しきり、結果は明らかなので家老が全て丁寧にお断りしていた。

一日、二日と日を数えるうちに、二ヶ月、三ヶ月が過ぎ、後数日でバロンの新王戴冠式が行われると言う時になっても、リディアは姿を現さないどころか、バロンのセシルやローザにすらも連絡を取っていないと知り、エッジのみならずセシルやローザ…彼女を知る者達は皆、さすがに不安を感じつつあった。

「…エッジ様?まだおやすみでないのかしら…」
階段から首だけ出して覗いた王族のフロアに、微かに明かりが灯っている。既に夜半をまわっており、人払いをしたのか兵士達もいない。宿直室へ向かう足を止め、カレンは静かに、エッジの部屋へ向かった。

開け放たれた窓から、冷えた夜風が入りこむ夜半。エッジは真っ暗になった部屋の中で机に突っ伏して寝込んでいた。
「エッジ様…」
「あ、ああ。カレンか、すまねぇ。また寝ちまった。」
どれ位、うたた寝をしていたのだろうか。机の上には、小さな果実酒のビンが空になってる。
「まだ起きてたのですか?風邪ひきますよ。」
「…いや。明日は久々に休みだから…ちょっと、な。」
エッジはカレンに向き合い、ぽん、と自分の膝を叩いた。
「お前さ、トマスとの縁談進んでるんだってな?おめでとう。ガキの頃からの知り合いが結婚するって、何だか複雑だな。置いてかれるみてぇ。」

カレンはええ、と返事をしたものの、どう答えていいのか判らない、と言うのが正直な所だった。召使の私事とは言え、エッジが計らってくれた話。
本来は真っ先に報告するべきだっただろう。しかし、リディアが幻界に帰ってからというものの、公務に精を出すエッジの心中を全く判らない訳ではなかった。

「なぁ、オンナは結婚って嬉しいのか?それとも、不安なのか?」
「う~ん…両方、かしら。不安になる事も多いです。」
エッジはグラスを差し出すと指で水差しを指す。黙って水を注ぐ忠臣。
「俺…リディアを不安にさしちまったかな。いきなり妃になれなんて、さ。」
「う~~ん、確かにいきなりには大きなお役目ですわね。でもリディア様は出陣されたエッジ様の事を心底、気にかけてましたし。」
 
状況が状況とはいえ、エッジがいきなりリディアに妃の役をさせる事には、その負担が判るからこそ不安を感じはした。
しかし、リディアはただひたすらエッジの身を案じ、女官である自分達の命をも救い、彼女なりにエッジの大切なエブラーナを守ろうとしていた。
それまでは“翡翠の姫君”は―――リディアはエッジの恋人、憧れの人。共に国をどうするとまでは真剣に考えてはいないのだろう、と軽い気持ちで、皆、可愛いお姫様をもてなしていた。

しかし、そう言ったリディアの顔を見るにつれて、リディア本人にも気が付いていない、二人の心の絆が周りには見えて来ていたのだ。
だから誰もが道を開けた。二人が一緒になる為に。
「…アイツ消えて、三ヶ月経つのかな?」
「今日で92日です。アイネが一昨日、90日と言っていたので。時間の流れが違うと言うので、暦に印をつけているみたいですよ。」
「…うわ、怖ぇ…アイツ、誕生日忘れたら一服盛りそうじゃね?」

「エッジ様…」
聞くべきではないのかもしれない、と言う遠慮を踏み越えるのは、相手が例え王子であろうと、この女官の得意とする事だった。
「エッジ様。何をお考えなのですか?何かを恐れているのですか?」
幼なじみの頃に戻った様な、ややもすると強い口調でカレンは尋ねる。
「へ?何がだよ。」

「…私はあなたを存じてますからね。幼い頃から。」
酔って判らない、という様なみえみえの表情がみるみる崩れて行く。それでもうつむいたままだったが、首をかしげ、何だろうなぁと呟いた。
「―――戴冠式、が怖い。」
予想外の答えに、眉をひそめる女官。
「戴冠式が?バロンの―――セシル様のですか?」
「怖ぇんだ。眠れないんだよ…だって来なかったらどうするんだよ。」
確かにエッジが夜半に酒を飲みだしたのは、ここ数日の事だった。
「―――リディアに会えなかったら、戴冠式にあいつが来なかったら、きっともう地上には… 会えたとしても…怖ぇんだよ。結論聞くのが。何でこんなに連絡無いんだよ…駄目なら駄目って、そう言ってくれよ…何であいつが居なくなって、三ヶ月も経ってんだよ…」

灯した明かりが一瞬消えそうになり、カレンはとっさにランプに手を添える。うつむいたエッジの表情が間近に見えた。
「…!?」
エッジの目じりから、僅かに涙が流れている。
「ったく、格好つけちまった。親御さんがなんて言おうと帰したくなんてねぇ…なのに…」
相当、酔いがまわっているのだろうか。こんな風にエッジが弱音を吐く姿を、泣く姿を見たのは、子供の頃以来だった。

殊に女性に対しては軽薄な真似をしてきた彼が、一人の女性の為に涙を流した事があっただろうか。
若い頃に婚約が破棄された時も、それにまつわる陰謀が明かされた時も、エッジは一向に意に介さない表情をしていたのに。 一度手の中に入ったものを手放してしまった苦しみは、想像を絶したのだろうか。

―――今、リディア様を失ったら…

「何時ものあなたなら、俺が取り返してやる、位言うでしょうに。」
「…でも何処にもいねーじゃん。」
「む…ならば、私に考えがあります。」
エッジの細い目がぱちぱちと瞬く。
涙は消えていたが、浮かない表情は晴れていなかった。
「最後は正攻法です。バロン王戴冠の日はリディア様がお帰りになって…98、99… ちょうど100日目。きりがいいわ。お戻りを許されないなら、皆で幻界とやらへ行きましょ。もし時間が違うと言っても、家老殿以外なら大丈夫でしょう?団体交渉ですわ。」
「だ、団体交渉?」
「ええ。幻界の方は、相手が信頼できるかを戦って試す、と伺いました。皆で行った方がいいわ。早い話、負けてもなんでも、誰かがさらってくればいいのです。」
思わぬ提案に、エッジは噴き出す。
「…ああ…おめーの考える事は常に中央突破。答え聞くまでもなかった。」

当然ながら、幻獣の強さは人智を超えている。自分ひとりならば、王との謁見すらままならないだろう。
知ってか知らずかどこまで本気でそんな事が言えるんだと半ば呆れつつ、心強い言葉ではあった。

―――確かに…
―――最後は、正面から行くしかねぇんだよな…

妻にしたい女性の親にすら、恐れて会いに行けない男。
このままではそれ以外の何物でもない。手紙一つで納得してもらえる訳無い。

「お前、色々頼りになるよな。産休やるから退職するなよ。」
「勿論です。近衛兵とは言えトマスは若いから収入が少ないです。共働きでなければ、私が好き勝手でき…もとい、食べて行けません。」
「うわっ、早速金の話かよ。おめーキツイな…いや、一応子供手当ては出すよ、うん…」

それ以前に自分の事だけをまず気にしている時点で、この夫婦の前途は多難だろう。しかし、とエッジはすっかり気分が変わった様で、ほおづえをついて目を細める。
「…う~ん、俺は、お前のそーゆー所好き。実は俺、初恋お前だったんだよ。」
「へ!?!?」
「驚いた?」
思わぬエッジの言葉に、目を口と鼻の穴をまん丸にするカレン。だが、続いた言葉は。

「ほら、あの頃ってあんまり男も女も判らねぇじゃん。女らしい奴って気持ち悪ぃ位にしか思わなかったし、その点まず、お前はあの頃俺より強かった。」
「ホ、ホホホホホホホ…何てありがたい褒め言葉…」

「野良犬から俺とオルフェを守ってくれたり…女の子だってのに強くなろうと顔はしょっちゅうボコボコにしてあざだらけで、でも頭全然賢くねーから忍者にはとてもなれなくて、大人になっても変わらねぇから他の女官も気味悪がって、アイネしか友達居なくて…」
「…ホ、ホホホ…そ、その通りですわね…宦官なんじゃないかって言う不名誉な噂まで立ちましたし…」

「それでもおめーみたいに、好きな事の為にオノレを捨てられるのは素晴らしいというか、いや、おめーは完全に、素でもがさつでワガママで大喰らいで、誰に何を言われても気にしない。若い頃、結構愛されたがりで格好つけ屋の俺の目にはとても羨ましく見えた。」
「…ホ、ホホホ…」

「まぁ段々大きくなって、俺には周りに女達が…早い話がさっさと色気付いてたからさ。そっちとどーにかなるのに忙しくて、全く変わらぬお前には、ある種の奇特な存在を目にした時のときめきすら覚える程だった。まートマスはおねーちゃんとか言ってよく引っ付いていたけど、それを蹴り飛ばす非情な度胸と言い思い切りの良さと言い…」

プチプチッ、とどこかで何かが切れた音がした。

「いや、今でもたくましい。寄る年波を考え、今度は武器でも作るかというその感覚、常軌を逸しているとつくづく思うが変わらずだ。そしてすまん。子供の頃、お前が宦官だと言う噂を流したのは、この俺だ。はっはっはっ、ときめいただけで恋じゃないな、こりゃ。」

その瞬間。風切り音と共に、カレンの拳がエッジの顔面すれすれで止まった。
ぽとり、と拳圧で縦に裂かれた羽虫が机に落ちる。
「…虫です。」

―――よ… 避けられなかった…

「は、ははは…すげぇ…あ、頭まで綺麗に縦割りになってやがる…」
「ホホホッホ…綺麗なお顔に羽虫が止まっては一大事です、ええ…ホホホ…」
深夜の部屋に、似合わぬ笑い声が静かに響いた。

が、その時。
「あ、あの…エッジ様…」
入り口に現れたのは、もう一人の女官。
「アイネまで…どうした?」
アイネはランプを手に持ってエッジの部屋の扉に立っていたが、その様子はうろたえ、慌てている様にも見えた。
「お、お客様が…サロンの方に…」

「何?こんな時間に?!」
エッジはすばやく、後ろの廊下に目をやる。女官を人質に取った賊と言う言葉が浮かび、懐刀に手をかけていたが、どうやらその様な気配はない。
「どちらから入られたのかも…判らないのです…でも、もし…本当だとしたら…」
「お前が来たって事は、少なくともそれなりの相手だろ?どんなヤツだ?」
「女性の方です。非常に高貴な雰囲気で…シルフ、って言うのかしら、従えて…」

―――!!

反射的に、エッジの胸が大きく高鳴った。幻界の奥で、一度だけ会った事のあるその姿が浮かぶ。

「リディア様の―――お母様と名乗られる方が―――」


[101日目のプロポーズ 13]

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 11
 

リディアが帰るという意思を伝えると、数日のうちに幻界からの反応があった。
よほどに心配をしていたのだろう、特別に幻界が、向こうから時空を開きリディアをワープさせると言うことで、エブラーナ城中庭でしばしのお別れとなった。

真夜中にも関わらず、エッジだけでなく忠臣3人や家老、近衛兵隊長ガーウィンと妻のゴモラまでもが見送りに出ていた。

「じゃあリディア…最後にこれ、渡しとくわ。」
「ありがとう、って、エッジ、これ以上持てないよ…」
大きな風呂敷包みを背中に背負い、両手にも袋を抱えて、懐にはエッジにねじ入れられた書簡。全身に皆の餞別を持たされたリディアの姿。この上さらにエッジは懐から包みを取り出し、手に握らせる。

「おふくろの遺品。良かったら、使って。」
取り出したそれは、エブラーナの紋章が刻まれたシャンパンゴールドの首飾りだった。全体に細かな模様が彫りこまれ、縁に鈍い光を放つ虹色の七宝と、中央に赤い瑪瑙がはめ込まれていた。
繊細な美しさに、リディアは目を見張る。
「…こんなすごい物…受け取れないよ。」
「いや…その、別にそんな重い意味はねぇ。だってほら、しまい込んで倉庫にあったやつだし。城を守ってくれた礼だよ。まぁ、これからの事は向こうのご両親と話し合って…納得する様話し合ってくれ。こればっかりは、俺がどうこう言える問題じゃない。俺は、待ってるからさ。」
「若様…」
らしからぬエッジの言葉に、家老も神妙な表情。
「いいだろじい?王妃として振舞って貰った以上、手ぶらのまんま放り出す訳にもいかねーしさ。」

そしてオルフェがつと、前に進み出た。手には艶やかな皮の紐に、紫の水晶玉とビーズを通したブレスレットが握られている。
「あと、これはエルと私からです。」
「エルから!?…ありがとう。もう持てないから、手首に巻いてくれないかな?」
「何それ。却下。何だかガキの作ったのにしちゃモノがいい。」
「いえ、こう言った石類は、魔力にも微妙に影響を与えてしまうものですから、私が色々アドバイスをして一緒に…」
なにぃ、そんなもんをリディアの手に、とエッジが表情を変えかかるも。
「もうエッジ!いいじゃない!」

「わぁ…色が綺麗ね。」
「恐れ入ります。そう、伝えておきますね。どうでしょう?影響はないはずですが。」
ビーズを結んだ目はぎこちなさの残る子供の物だが、子供が選んだには地味なその深い色みと、丁寧に結ばれた大きな結び目は、大人の手によるものだった。
「大丈夫。ありがとね。エルによろしくね。」
言葉を返さずに、オルフェは静かに下がった。

月が真上に昇った時、リディアの身体に光がまとわりつき始めた。幻界への扉が開いたのだ。
「…もう行かなきゃ。じゃあ、皆…色々、ありがとうね!」
「最後みたいな言い方するな!!気をつけろよ!!」
「うん、エッジもね!!またね!!」
「リディア様、お気をつけてえ!!私達は何時でも待ってますわ!!」

一瞬、まばゆい光に包まれ、その場の誰もが目を閉じた。再び目を開けた時にはすでにリディアの姿はなく、真上に昇った月が煌々と城を照らし出していた―――


『  ―――幻界王・女王 陛下

リヴァイア様、アスラ様におかれましては、ご機嫌麗しく存します。
本来ならばお目通り願いまして礼を尽くすべきですが、書簡での非礼を
お許し下さい。

まずは先日、我が国で起きた内乱により、両殿下にとっては実の娘にも
等しいリディアを巻き込んでしまった事、深くお詫び申し上げます。
これはひとえに私の未熟さが引き起こした国の乱れであり、以後この様な
事の起こらぬ様、国内の動きに目を配ると共に、内外に知恵を求めて次期
国王として邁進する所存でございます。
さて、不躾ではございますが、両殿下にお願いがございます。
私の元、エブラーナにリディアを迎える事を、お許し頂けないでしょうか?
失態を犯しながら、この様な事を申し上げる無礼重々承知しております。

しかし私自身、リディアと共に旅をしている時から、共に歩んで行きたいと
思う気持ちが高まるばかりで、彼女が幻界に帰った後もそんな未来を夢に見て
おりました。
許せる事でないならばまずはどうか、幻界にてお二方にお目通りする機会を
お与え下さい。私は、生涯かけてリディアをただ一人の妻とし守って行く事を
誓います。

何卒、私の願いが真摯である事をお汲み取り下さい。         

                ――― エドワード・ジェラルダイン 』


 
「リディアを…妻に…という事ね…」

エッジの書簡は、幻界の奥に届けられた。
表情を変えずに、連ねられた言葉に目を通す美しい女性。傍らに居たお付きの侍従―――と、言っても人の姿をしてはいないのだが――― は、かすかな女性の呟きからその内容を察し、憤る。
「リディアを巻き込んでおいて、この上何と無礼な物言いだ。この様な者は相手にする必要ありません!!」
 
だが女性は書簡から目を離さず、口を慎みなさい、と静かに侍従をたしなめたのだった。
「卑しくも、この方は一国の次期国王。非礼な物言いは何一つありませんよ。…それはそうと、リディアの…いえ、あの子の周りの様子はどうなのですか?」
「は、はい、それが…やはり、危惧されていた通り…いえ、更に深刻です。エリアの一つに結界が張られています。人間の身体を持つ者は通れないものが。」
「なるほど…再び人間と関わるのを、よしとしない者達ですね?」

寄りによって、ならず者相手の内乱という人間の我欲争いに巻き込まれ、あわや命を落とす所だったリディアは、地上に戻ることをよしとしない一部の者達によって、幻界の一角は閉じ込められる形になっていたのだ。
そう…と僅かに息をつき、書簡を再びしまい立ち上がるのは。海龍の王と共に、幻界を治める統治者であり、リディアの母親代わりとなった女王・アスラ。

「女王様、如何なさいましょう、周りの意思は強固ですが、ご命令とあらば、如何ようにでも。」
「―――なりません。」
しかし、と侍従が口ごもる。バロン国王の戴冠、結婚式までにリディアを地上に戻さなければいけない。それは、女王の望みでもあるだろう。

だが、と女王は立ち上がり、滅多に使わない外出用のベールを持つ様に命じたのだった。
「アスラ様…どちらへ?」

「すぐに戻ります―――留守を、頼みますよ。」






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プロフィール
HN:
tommy
性別:
非公開
自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
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