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ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
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 19
 

 
内乱騒動の後処理も殆ど片付き、オルフェがミシディアへ旅立ち、ついでにカレンの結婚式も執り行われ。

秋の風が深まる午後、家老はエッジの自室を訪ねた。国内の諸般の書類と、エッジの結婚式の予定――実は忠臣達が何ヶ月もかけて考えていた草案――― を渡す為だった。
「こちらは先日行われたカレンの結婚式に贈った品です。一応の御目通しを。それがなんと、既に身ごもっていたそうですじゃ。」
気の無い返事で家老の書類に目を通していたエッジは、椅子からずり落ちそうになる。
 
「はい!?カレンが何だって!?」
「既に身ごもっていた、です若!!あの武人娘、体調が悪い悪いと言いながらまるでその方と思わず、更に体力作りなんぞを始めようとしておったそうで…近頃の若者は…」
「へぇ、アイツがねぇ…ま、まぁ気がついてよかったな、うん…」
エッジの表情はどこか上の空。最近は気が抜けたのか結構生返事が多い。家老はかまわず言葉を続ける。

「こちらはバロンに留学させた魔導師の報告書、こちらはミシディアに行ったオルフェの、 ―――あと、こちらは―――まだ予定ですが、若様の結婚式のこれからの流れなどを書いてございます。大体今から半年掛かり、来春…と言う所でしょうか。」
「え、そんなもんで出来るんだ?セシル達は一年かけてたぜ?」

そんなもん、とは何なる言葉。
疲れているであろうエッジに何を言ってもと、陰ながら身を削ってここ数ヶ月念入りに準備をしていたのは、他ならぬ家老。

「若!!このじいが何ヶ月、忠臣達と共に計画を練っていたと思っているのです!!若様には国の公務に専念して頂こうと思っての…」
「わ、悪かったよ!!」
「それに余り早くお伝えして準備に時間を使いますと、若様がまた短気を起されます故。国の規模を考えますと、品格を失わずかつ相当な範囲で行うのが良いかと。」

―――ああ、やっぱり判ってやがる。

ふぅ、と息をつく。
結婚式なんて、本当は明日にでもやっちまいたい。それで、後は世界の仲間を呼んで、思い切り騒ぎたい。

―――って訳には、いかねーよなぁ。

「…若様?お加減でも?」
「いや、え、えーとだな、そ、そうだなぁ、カレンがなぁ…う~ん…子供かぁ…」
「…お子様は、授かり物ですよ。若様。」

実は適当なごまかしだったが、その言葉にほっほっと家老が目を細めた。
「…へ?」
『結婚しろ』『王家の血を』攻撃が終わったと思ったら、ずいぶんとまたおおらかな事を言うもんだ。流石に図りかね、今度はエッジが顔をしかめる。悪いものでも食べたのか。
「いえいえ。今回の事で我々も、もっと広い意味で王家…いや、国家の存続を考えた方が良い、と相成りましてな。」

ま、実際若のご結婚が現実になりますと、子だ何だと無粋な事で騒ぎ立てるのも、意味のない事です、ともごもご呟きながら、更に新しく資料を取り出し、エッジの前に差し出したのだった。

「そうか…見つかったのか?」
「ええ。探せばあるものです。先々代の従姉妹が外国に嫁いでおる事は聞いておりましたが、末の王子も幼い頃、後継者を外れる形で養子に行っていた様です。共に、先方国の歴史学者の裏付けもとれました。他の末裔の中には…ダムシアン王家に近い家の方もいるようで。」

エブラーナは数代前まで、側室やその子同士の、命の奪い合いも当たり前と言う争いが後をたたなかった。だが、そんな非情をよしとしていた者ばかりではない。基本的に鎖国状態ではあったが、あえて外国に婚姻の縁を結ぶ者も多かった様だ。

「これはまだ非公式の範囲ですが…エッジ様のご活躍を聞き及び、エブラーナ新王が誕生した暁には、遠縁のよしみを結びたいと言っている所もあるようです。」
「そうか…」

公に王家の血を引くのは、国内では自分一人。
今回の戦でその事を嫌がおうでも実感した。しかしだからと言って息巻いて、その為だけの子供の誕生を待ち望む様な空気を作る事はしたくない。側室をはべらせ、無用な争いを起こす事もお断りだ。

血に固執した反逆の徒の末路は、付け込まれた王家にとっても哲となった。どの道、王族に何かあった時の方法は考えておいた方がいい。少し前まではとても聞き入れられなかったであろう意見も、周りが受け入れる様になっている。

しかし正直な所、元々エッジは国と民を守るという事さえ出来るのなら、統治の形にはさほどこだわってはいなかった。
民が望むなら王政を続ければいいし、王族以上に、民を思い平和的に国を発展させられる存在があればそれもよし、自らの力で国を動かしたいと思う時が来れば、民意が国の方向を決めると言う時代も来るのだろう。
とにかくあらゆる方法に目を向けて、この国の人々に幸せになってもらいたい。それだけだった。

「各国の遠縁の方々と交流を深めるのは、国家にとっての利益もありましょう。ただこのじいとしましては、早く若のお子様の顔が見たい事には変わりませんぞ。」
「ま~な。だが、俺もこれで肩の荷が下りたよ。」
「まぁ…じいは若様共々に、エブラーナが繁栄して行くのを願っておりますよ。」

「と、言う訳で。おめーの肩の荷も軽くなるって事だ。」
「?何が…と、言う訳なの?」
「話、聞いてなかったか?」

リディアはぱちくり、と目を見開く。
「えっと、遠縁の王族の関係者と仲良くしよう、って事だよね。」
「ああ、まぁそれでもしほら、今回みたいに万が一みたいな事があったら、まぁ養子でも貰う方法も、って事だ。ウチの国も、臨機応変に行かないとな。」
リディアは今一つ理解しかねた様で、小首をかしげた。

「?子供、産んじゃいけないって事…かな?」
「…!?!?!?!?バカ!!!!どうしてそう取るんだよ!?!?!?」
エッジは思わず、手のひらで軽くリディアの頭を叩く。
当然猛抗議を食らうも、どうにも本人がかつての家老の言葉に傷ついたものの、その辺の事を気にしていた訳ではないと判り、胸を撫で下ろした。

「なーによ!!!」
「いや、いやいや!!いいか。お前も、これからは自分一人の身じゃないんだ。この国の事は徐々になれてゆけばいい。無理するなよ。こればかりは変われねぇ。」
はぁい、と答えるリディアを抱きしめて、その髪を梳く。
「いや、お伽噺みてーだなと思ってさ。」

「?」

王子は幻の国の姫に恋をするが、それを告げる事のないまま国へ帰って行った――― 住む世界も、背負った物も違う二人。この恋の成就は、あり得ないと思っていた。どれ程思いが強くても、現実はお伽噺ではないのだから。

だからあの時、幻界に戻ると言っていたリディアを引き留められなかった。そんな夢のような事、ある訳ないと思ったから。

けど、思い出とは生きられない。それが判った時、奇跡が起きたのだ。

―――国に争いが起きた時、幻の姫は再び王子の前に現れた。二人は力を合わせて国を救い、結ばれて何時までも幸せに暮らしたと言う―――

「へんなの。現実だってば。だってここにいるよ?」
エッジはそれに答えず、黙ってリディアの髪を梳いていた。
庭先で、旅の詩人の奏でるメロディが聞こえる。今となっては懐かしい旋律。

月の血を引く英雄達よ
王子は世界を救う
翡翠の髪と瞳の乙女、幻の国の姫君よ
…   
…   王子の嘆き誰が知らんや
王子の嘆き如何ばかりなん…


「あれ?」
「続き…かな?」
その歌に、二人は顔を見合わせる。


国乱れし騒擾の徒に  
王子再び戦火の中へ   

碧き風、舞い降り立ちぬ
霧の竜の背に乗り
翡翠の姫は降臨す   

遠く離れて時を超え  
ただその愛に希望を抱き  
ただその愛を力にし  
栄光抱く王子の帰還   
碧き風の舞い降りた国―――

この二人引き裂かんとも
この愛を押止めとも
例え天地の神であっても
例え冥府の王であっても

二度と二つに分かつ事ない
交わした誓い永遠に―――


「リディア。何て言うか…これからも、ずっと俺の傍に居てくれよな。」
もうこれ以上言葉はない。リディアはエッジを見上げ、うん、と笑みを返す。

「うん。ずっと―――ずっと、一緒に居ようね。」


―――こうしてエブラーナ王子の婚姻は世界各国に公にされ、国を挙げての祝いとなった。

知らせは各地の仲間に及び、すぐに各国の祝いの使者がエブラーナを訪れた。

異国からの祝福はエブラーナの人々にとっては今までにない事で、嫌がおうでも国内はお祝いムードに染まっていった。
 
 
[101日目のプロポーズ 20]
 

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18


「よ。おはよう。」
「う、うん…」

朝が来るのは、早かった。
シーツに包まったリディアは、珍しく朝の稽古に出かけず裸のまま隣で寝転がるエッジに、ちらりと再び視線を移す。」

「あれ?今日は稽古に行かないの?」
「へ?お、おめー…今この状況で…」

リディアの肌着を取り、ほれ、と手渡すとエッジもベッドから飛び降り、裸のまま、脱ぎ捨てた服を探し出す。
カーテンに隠れて服を着たリディアは、目に飛び込んだエッジの裸体に顔を赤くしたのだった。
「な、何してんの!?早く服着なよ!?」

エッジは構わず、引き締まった全身をさらけ出して目を丸くしたリディアに近づく。
「何…って言うか今更恥ずかしいもないだろ。全部見ちゃったんだし」
「み、見ただけでしょ!?バ…バカッ!!私はデリカシーない人は嫌なの!!ちょっと止めてよ!!信じらんない!!何が裸祭よ!!」

必死で目をそらそうとするリディアだが、あっさりとその腕に捕まり。
「ほれほれ、ハダカーマンだぞぅ~!!」
「きゃああああ~~!!ちょ、ちょっとおおおお!!!」

結局、震えるリディアと肌を合わせるだけで終わってしまった昨日。
まぁどんな薬が効いていようと、リディアの怖がる顔は一番見たくなかった。焦る必要はないんだし、少しずつ、重ねて行けばいいだけだ。

「きゃぁあ!!やめてよっ!!離してってば!!ケダモノ!!!」
まあ、無理やり事に及べば口もきいて貰えなかったかもと思えば、それでよかったんだろう。

―――あ~あ。俺も、丸くなっちまったなぁ…

若かりし頃。夜、しょっちゅう貴族の娘がそれぞれの家などの事情で寝室に送り込まていれたが、おそらくは本人全くその気がなかっただろう娘や、行けと言われて来ただけで、全く持って夜の作法を知らない娘もいたのだった。

そう言った娘達にただ苛立ち、その気がねぇなら親ん所帰れ、と怒鳴りつけた事もあった。
あらゆる方面での理不尽さは判っていた。だが仕方ない、自分はそう言う立場なのだから、女性はもとより、人に心を許す事など、いずれは出来なくなる立場なのだから。

だが自分が裏切られ人の痛みを知り、戦いに身を投じ、初めて王子の名のいらない友と出会って判り合う事を知り、愛する者と出会って、慈しむ事を知った。

―――もう、こいつは離さない。
「リディア、俺、世界一幸せ。」
「離してってば!!私は世界一逃げたいわよっ!!誰か!襲われる――!!」

バタン。
「へ…!?」
その言葉に答える様に開いたドア。二人があっけにとられていると。

「リディア様!今の悲鳴如何しましたか!?待ちかねた狼藉者!!新作・発頸稼働小型襲撃砲の餌食になるがいいわッ!!!敵は!?」
なんか胡散臭い小型の筒を持ってきた黒髪の思わぬ来訪者に、流石にエッジの顔も青くなって行く。

「お、おう…居たのかよ…そ、そうか、メシの時間…か…ははは…そ、それ新作…?」
そう言えば、先日図書館で何か小型の飛び道具を作りたいと言ってた様な。

忠臣は全裸で立ち尽くすエッジと、既に身づくろいを終えたリディアの両方を代わる代わる見、思わず武器をすべり落とす。
一瞬、部屋の誰もが無言になる。

「ち…朝食のご準備が…整いましたので…その…お呼びに…そう言えば昨日、一発決めるって言ってましたよね…ホ、ホホホ…気が利かず…」
「お、お前、そりゃ色々決める、だよ!!」

「いいえっ!!あの、その―――が、頑張って下さい!!」
カレンは相当動揺したのか、そうとだけ言うと脱兎の如くに走り去ったのだった。

「おい!!バカ、違う、見ただけ…ってそうじゃねぇ!!朝食はしまうなよ!!」
エッジは全裸のまま廊下に飛び出し、小さくなる忠臣の背中に大声で叫ぶも。廊下の兵の絶叫。リディアも慌てて、エッジの上着を持って後を追う。
「ちょ、なっ…何言ってんのよ!?早く服着なさいよ――――!!!!」

兵士達の眼差しの中、すごすごと部屋に帰る2人。

「あ、あのねエッジ…」
「何?」
「あの、結婚式…終わってからなら、いいよ」
「へ、何が?」
「その、裸祭、最後まで…」

「リ…リディア、その、裸祭ってのは、別にエブラーナ言葉じゃなくて、その…」
最後まで言い終わる事なく、エッジは卒倒したのだった。


そしてその日の午後。
エッジは臨時の会議を開いて宰相、将校、神職長や貴族の代表達を招集し、リディアを正妃に迎えると公言した。
 
おおむね将校や宰相は賛成に回ったが、貴族の中には、彼女のバロンとの縁の深さや民衆の支持などの利は認めながらも、身分と国籍を理由に慎重な意見もあった。
しかし今回の内乱で城を守り、再び王位三種の神器をもたらした功績は貴族の位を与えるにも等しいと言う事で、まずはリディアに国家功労者として貴人の地位を与える事を条件に満場一致で承認した。

また、バロンの魔導師兵団に将校魔導師を留学させる事、王宮付魔導師オルフェをミシディアに留学させる事―――それらの承認を取り、手続きが始められた。

エッジは部屋にオルフェを呼び、一足先にそれを伝えると、あまりに想像以上の話に若い魔導師はただ目を丸くしたのだった。
「私が―――ミシディアに留学!?」
確かに先日、リディアから、魔導師を外国に派遣する準備を始めたとは聞いていたが、まさか自分が総本山に留学させて貰える、とは夢にも思っていなかったのだ。
「ああ、おめーはやっぱ、バロンって感じではないからな。俺の令は後々出す。まぁ今日にでも、魔導師団の隊長から話は行くだろ。出発は一ヶ月後。大丈夫だろ?ま、無理なら他当たるけど。どう?」
「いいえ―――身に余る光栄です!!」
オルフェは深々と頭を下げる。
「ま、それでしっかり勉強して、うちの国の発展に力を尽くしてくれ。まぁ―――何て言うか、アレだ。」
エッジは彼に背を向けて、ぶっきらぼうに言い放つも。喜ばれるのはまんざらでもないのだ。

「…おめーには、色々世話かけたからさ。俺にはこれ位しか出来ねぇ。最後の最後まで。でも、リディアは俺のカミさんだから。そこは手、引いてもらうから。」
「リディア様は…」

彼に思いを寄せた女官や貴族の娘を次々に横恋慕した時も、オルフェは決して、エッジに対して何かを表す事は無かった。
今になって思えば。修行や読書研究に夢中だった若い魔導師にとって、言い寄ってきた女性がエッジのアプローチに流れてゆくのはさして大きな問題ではなかっただろうが、到底その心の動きが理解できずに、何なんだ恐ろしい、と思った事もあったのだ。

そんな卑屈な考えはしたくないけれども、でも。
今は、例えそのつもりはなくとも。誰にも邪魔はされたくない。穏やかでも頼りになる男にリディアが『弱い』のは、判りきっているから。

「だからぁ…おめーのやりたい事、させてやるから。」
「私は」
オルフェは静かに首を振る。
「エッジ様、何かを思い違いされているのでは。王族の方の様な身分も権力も無く、何も与えられない男に、何が出来るのでしょう?」

身分がないからとは、大した自信だ、と口笛をふく。
「それこそ身分が同じなら、おめーは俺に勝てたかもしれないがなぁ。うん、実に惜しいもんだ。」
「―――エッジ様。この度の任命、ありがとうございました。私は、新王と王妃の戴冠式が早い日に行われる事を心よりお望み申し上げます。」
エッジの言葉には答えず、オルフェは再び頭を下げ、部屋を後にした。廊下の角を曲がった所でそっと、腰に差していた法器に触れ、小さくリディアの名を呼んだ。

「翡翠の姫様に生涯のご恩を―――ありがとうございました―――」
 


 
[101日目のプロポーズ 19]

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二日後の夕方。
一隻の小さな飛空挺がエブラーナ上空を激しく旋回し、きりもみしながら城に近付く様子に、エブラーナの人々は何事かと皆家を出て、空を見上げた。
「あーよかった、何とか着いたぜぃ!!よし、中庭に下ろすぞ!!」
「だっ…だからあんたに運転させたくなかったのよぉ!!!」

空中でUFOの如く不規則な動きをしているのは、バロンから送られた小型の簡易飛空挺。
エッジとリディア、女官2人の他には、手土産が積まれている。シドが、運転しやすい様にギアを自動で入れ変えるオートマチックレバーをつけてくれた為、ハンドルとブレーキとアクセルだけで、操縦出来るはずだった。

しかしエッジは、かつて大きな飛空挺を運転した時の感覚が味わいたい!と、途中でレバーをマニュアルモードに戻し、一人運転席を独占していた。リディアは彼の手荒い運転には慣れているが、女官二人は初めての飛空挺。
「神様ぁ!!どうか無事に帰してくださいぃ!!」
「いざとなったら…堀に飛び降りるわよ!!」
「へーきへーき!!うりゃぁ―――!!!!」

ズガガガガ、ドスン、と言う音と共に、飛空挺は中庭に降り立つ。
女官二人とリディアは甲板転げてしまう。エッジもまたバランスを崩したが、身を翻して一人地上に降り立った。
「着地の逆噴射、足りなかったかなぁ…」
「スピード出しすぎなのよ!!」
幸いにも空きスペース内に収まったものの、城に突入してもおかしくはないスピード。手前の茂みから、様子を見ていた家老が恐る恐る顔を出した。

「…エッジ…様?」
「おう、じい!!セシル…いやバロン王からの贈りもんだ!!」
意気揚々と、宝物を見つけた少年の様に飛空挺を指すエッジ。しかし家老の目は、エッジの後方でアイネに助けられて飛空挺を降りるリディアの姿をとらえていた。
「おおっ、リディア様!!」
「家老さーん!!あ…オルフェ!!」
何、穏やかでない名前、とエッジが振り返ると、家老の後ろから蒼髪の魔導師が姿を現す。

「ただいま!!皆に会えて嬉しいよ!!」
リディアは背後のエッジの表情など知る由もなく、二人に駆け寄った。家老は喜びを全身で表し、オルフェは変わらぬ穏やかな表情でリディアに問いかける。
「お帰りなさいませ、リディア様―――エブラーナに、お戻り頂けるのですか?」
「う~ん…私で、いいのかなって思うけど…」

アイネがちらりと見ると、仕方ないと言う表情を浮かべているエッジ。何時もならいきなり間に入りそうだが、随分とたたずまいのある振る舞いだ。思わずカレンと顔を見合せた。
「あのう、エッジ様…」
「あ、ああ、何だ?」
「リディア様のお部屋…どうします?」

そう言えばまだ、リディアがプロポーズを正式に受けてくれたとは伝えていなかった。
そうだなぁ、と鼻を掻きながら、エッジは前髪を息で吹き上げる。さて、どうするか。だがとりあえず、と兵士が運び出しているバロンからの沢山の手土産を指した。

「リディアは俺の部屋でまだいいや。今夜は、ちょっと色々決めなきゃいけないからさ、用は無いと思う。だから、お前らはセシルのから土産に何があんのか見ておいて。国内で禁止されてんのは無いとは思うけど、まだ他の奴らには見せるなよ。まぁ明日でいいから報告くれ。おめーらのは、何があったか教えてくれれば持って帰っていいから。」
「は、はぁ。ではその様に…」
「今日の夕食は部屋でいいや。バロンで昼、ご馳走になったからごく軽くな。」

 一気に二人の表情が緩み、兵士に混じって荷物を運び出すのを手伝いに行ってしまった。ローザから、『リディアを助けたお付の方にも』と持たされた品物があった。おそらくは、二人はそれを楽しみにしているはずだ。それは豪華な宝石やドレスではなく、世界兵法大辞典・民明書房発刊の数々の本と言った、バロンの書庫で、正直置いておいても仕方ないよね的な扱いを受けていた書物や武器ではあるけれど。

―――さて、と…

エッジはオルフェにリディアを部屋まで送る様言いつけると、包みを一つ抱えて別の方に歩いて行った。
「なんだろエッジ。亀なんてバロンで買って…」

リディアはエッジの後姿を見ながら、オルフェと共に部屋に向かう。その時リディアから語られた事は、この若い魔導師を大いに驚かせた。
「バロンより魔法技術指導―――ですか?」
「うん。実現はまだ先の事だと思うけど…セシルとミシディアの長老と三人で色々打ち合わせてたみたい。だからエッジ、帰るのが遅くなっちゃって―――あ、まだ内緒よ!!非公式な打ち合わせらしいから!!」
「ええ―――でも2年後でも3年後でもいい、私も許されるなら―――」
元々、更なる高等魔法を修行したいと思っていたオルフェ。
リディアの力を目の当たりにし、その思いは強まっており、それはリディアにも判っていた。だから窓口が開いたのは伝えたものの、彼がミシディアに留学を命じられる事までは黙っていた。直接、命じられるべき事だ。
 
既にミシディア長老には、オルフェの三年間のミシディア留学の許可を取り付けていた。それを知った時のオルフェは、どんなに喜ぶだろう。 そう思うとリディアは、エッジが彼にそれを伝えるのが楽しみで仕方ない。オルフェは内乱の時に借りた星屑の小さな杖を返したいと申し出たが、すぐにでも、彼に必要になる物だからとそのまま渡してしまった。

久々に城に入ると、兵隊達は突然のリディアの帰還に驚きながらも、総出で迎えの儀の様な形を取り、丁寧に出迎えた。台所番は慌てて帰国の晩餐の準備を始めようとしたが、エッジからの伝言で明日へと変更になり、二人は久々に部屋で、簡単な夕食を取った。

「あ~あ~、久々ののんびりした休憩です!!」
夜着に着替えて、ソファの上に寝転び背伸びをするエッジ。
とりあえず、内乱のごたごたも終わった。後は公に貴族や大臣の承認を取れば、晴れてリディアはエッジの正妃になれる。

比較的王族の権限の強いエブラーナでは独断で話を進める事も出来るが、それではリディアがこの国になじめないだろう。内乱のお陰か、二人の婚姻に大きく反対する者はほぼ居ない様だった。

―――もう、いいよなぁ…

抑えていた非常に口には出しがたい欲求と願いが、頭をもたげた瞬間。
「あのぅ…」
「お、な、何だ!?もう寝るか!?俺と寝るか!?」
咄嗟に先走った期待を口にしてしまい、大きく跳ね上がるエッジの身体。

「その、ずっとちゃんと言いそびれていたけど…連絡しなくて、ごめんね…」
「…あ、そ、そっち。」
「心配、したよね…」
「…まーな。」

リディアは、アスラが訪ねて来た事を知らないのだろう。
幻獣達はリディアが地上に戻るのを反対していたが、女王アスラが、地上にはリディアを守る人がいると告げた事で納得した様だった。

「それから、アスラ様はこんな事も言っていたな。幻界もいずれは、多少なりとも外の世界と交流を持つ様になって行くのだろう、って。」
「そうか…まぁ、どんな世界でも、閉じたまんまじゃどうにもならねぇしな。いずれ人間も、幻界の奴らを普通に受け入れる位、いろんな意味で懐大きくなるかも知れないしな。」

それがリディアの生きている間かどうかは判らないが、絆が切れる訳ではない、二度と会えなくなる訳ではないと、力づける言葉である事は確かだ。
自分に託された娘にかけられた愛情の大きさを改めて感じる。

「リディア。」
「何?」
「…いや、あのさ。ほら、俺が留守の時、皆の前でさ…『エッジの子供、産んでもいい』 …って言ってくれたって聞いてさ。…嬉しかった。」
リディアはその言葉に、慌てて首を振る。
「あ、あれは今すぐって訳じゃなくて!!い、いずれはって話よ!!!」
「まぁ、勿論そうだ。だけどまぁ、今日はほら、色々カタもついてめでたい日でありまして。」
リディアもその言葉にそうだね、とうなずきつつも、いまいち話の流れが掴みきれない表情。

――― 今だ、俺!!!

しかし、全身の気力を振り絞って突き出した言葉は。
「つ、つ、つまるところだ、は、裸で祭り…」
「は、裸祭り!?!?」
エッジの言わんとしている事は通じたんだろう。しかし、リディアはあまりの奇怪な例えに、これはエブラーナ語なのかと必死で思案している様子だった。

―――くそっ!!この大事な時にマトモな口説き方も出来ねぇのか俺は!
―――すっぽんの生き血なんて飲まなきゃよかった…

どうかね、と言う半ばおどけた様なエッジの言葉に思わず噴出す。
「笑うなよ!!いや、一応、格好いい事も考えてたんだぜ!?」
「だ、だって…エッジ…面白い。どうかね、って何が?」
「そ、その、俺と―――今夜はいっちょ…その祭りというのをですね、うん。」
「なーにそれ!やだ、ごめん…すごくおかしい。」

たまらず、ころころと笑い転げるリディア。
つられて拍子抜けした様に笑みをこぼし、その髪の先を取り優しく口付けるエッジ。ひとしきり笑い転げた後、リディアは息を大きく付いてエッジの胸にしがみついた。
「じゃあ…おやすみのキスをして。」
「―――ああ。」
おやすみのキスは、唇に落とされた。いつもの様に軽く触れた後、少し離れる。
「今夜は、よく眠れる様に。」

そう言ってもう一度。唇の先を優しく撫でる舌に一瞬驚いたものの、リディアは肩に入った力を抜いて受け入れた。
「驚いた?」
「う、ん…少しだけ…」

エッジの口元が小さく、おやすみと囁いた。
自分を抱く腕の力が徐々に緩むのを感じた時、リディアの鼓動は急に激しさを増し始めた。離したくないんだ、とほどけて行くエッジの腕と指先から、その想いが流れ込む。
それに答える事はもうできる。

―――受け入れても… ―――良いだろうか…この人を…

リディアの頭が爪の先程、微かに頷くと、エッジの唇が再びリディアに重なった。
―――エッジ…?

徐々に自分の身体にかかる重みを支えられず、リディアは床に膝をついた。普段は饒舌で軽薄に振舞う男が、今は自分を抱く指先を震えさせている。
 
―――任せるから…エッジに、任せるからね。
 
 






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プロフィール
HN:
tommy
性別:
非公開
自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
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