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ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
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16
 

「ううう~」
「なっさけないわね!!自業自得よ!!」

次の日。エッジはずたぼろの状態で目を覚ましたのだった。
朝食も食べられない程の二日酔だった為薬草を貰い、風呂に入り酒と落書きの残りは消えた物の、どうにもこの痛みが納得できないらしい。

「もう!騒ぎすぎなのよ!!」
晴れた昼過ぎ、よく手入れされた中庭を歩きながら、エッジはしきり胸と腰の辺りを撫でたりしていた。昨夜蹴られ、打ちつけた所だ。
「そんな事言ったってよぉ、せっかくの結婚式だぜ!?盛り上げてやらねーと。でもさ、何で俺、胸ん所と腰がいてーんだろ。くっそ~…」
 
ん、とリディアも首をかしげる。
「あ、あのさ…記憶…どこまである?」
「あ?えーっと、シドと腹踊り競争してて、飲まされて…記憶ねぇ。何かあったか?」
頭をかく所を見ると、本当にエッジは記憶がないらしい。女官達は朝からご飯を抜いていると言うのに。

「ないなら…いいんだ。ないんだよね!?」
「おう、全くねぇ。何で?」
ほっ、と胸をなでおろすリディア。あの二人に知らせてあげよう。あの二人の事だから、一日食事を取らないかもしれないけど。
しかし、何か隠し事をしている様子に、エッジの方は何やらは腑に落ちない様子だった。

「…俺さ、昨日何処で寝た?」
「来賓用の部屋だよ?」
「おめーは?」
「隣に居たってば。すごい状態だったんだよ。」
 
ぼろぼろのエッジはいびきをかいて爆睡していたものの、流石に心配になり昨夜は傍を離れなかった。が。その言葉の何を曲解したのか、エッジは何事かに納得すると、何やらリディアに向き直ったのだった。

「リディア…済まなかったな。俺も初めての時はお前のペースで、もう少しムードとか考えてやりたかったんだが…」
へ?と目を丸くするリディア。
「な、何言ってるの?」
「いや、何も言うな、うん。まぁ、俺の記憶が飛んじまう位、激しくなっちまうとは思わなかったからさ…」
「へ…」
「ま、酒に酔った上でもおめーに嘘はついていねぇ。俺は何回も、“愛してる”とか何と言うか、気の利いたいい事を言ったに違いねぇ、うひひひひっ♪」

それは、あまりにあまりの勘違い。一気に紅潮するリディアの頬。

「な、何言ってるのよ!!あんた、どうかしてるんじゃないの!?」
「そうか、どうかしちまったか…そんなおめーの姿が記憶にないなんて勿体ねぇ、こりゃ今夜も激しくなりそうだな!!フフッハ!!」
「バ…バカ―――ッ!!!!」
バロンの中庭に、リディアの張り手の音が響き渡る。

「へ?違うのか!?いや、だからおめー、少し機嫌悪いんじゃないのか!?」
「信じられない!!バカ!エッチ!!あっち行って!!」
「し、してないのか!!なぁ!!じゃあ俺のこの痛みは何だよ!?こ、この胸のデカイ痣はきっと何かしらの…!!!」

その声は2階の部屋にも聞こえ、思わず女官2人は窓の外を伺う。
「変わらず、仲良さそうね…良かったわ。時間空いても大丈夫だったわね。」
「ええ。でも…あの二人、絶対やってないよねぇ。昨日。」
無言のアイネの掌底は、カレンの頬を確実にとらえたのだった。

中庭の中央には、豪奢な噴水が豊かに水を噴き上げていた。夕方が近づき、噴水の影が長く伸びている。噴水のそばに立ち風に乗る飛沫を身体に受けるリディアの身体は、後ろから包まれる。
「ははは。くすぐったいよ。」

―――あ、これ何処かであったかな…

エブラーナに来た日の様な感覚を、リディアは包まれたマントの中で感じていた。
「えーっと、2、3報告が…」
「何?何かあったの?」
「いや、さっき、ちょっとセシルとミシディアの長老と話してさ…こんな事あったしウチの国も忍術だけじゃなくて、魔導師関係にちょっと力、入れようと思うから、協力して欲しいって言ってきたんだ。そのうちウチの優秀なの何人か、バロンの魔導師団に勉強に行かせる事になった。」
「そうなの!?すごいじゃない。じゃあ、オルフェはバロン行きかな?」
「…いや、あいつはバロンって雰囲気じゃねぇな。あれは別で。」
「…?そうなんだ…」

王族の図書館で、高等魔法の本をむさぼる様に読んでいたオルフェ。バロンに学びに行けるなら、本人はどれだけ喜ぶだろうか。戻った時には様々な恩恵を国にもたらすだろう。それなのに、何故。
「いやさ、あいつは、ミシディアに行かせる。」
「ミシディアに!?」
ミシディアと言えば、魔導師の総本山。辺鄙な環境にあるものの、得られる物はバロンの比ではないだろう。

「エブラーナではな、忍術の修行をする者に必ず精神を一緒に説くんだよ。忍術は、己の利の為に使う物ではない、ってな。魔法だって同じだろ。」
リディアは頷く。だから今回の内乱は、掟破りとしてミシディアの非公式な介入があった。本来それほどに、導師の不文の掟は厳しいものなのだ。

「エブラーナも今まで対防衛として、魔法研究に手はつけていた。けど今回ここまで被害を受けたからには、本格的に研究しなきゃいけない。それと同時に…人々の間に魔法は悪いもんだ、悪用できるもんだって考えが広まってしまったら意味がねぇ。手をつけるなら小手先の術の他に、そう言う精神面の修行を指導できる者が必要だ。それはあいつ以外にいない。ガキの頃から知ってるから、人選ミスはないさ。」

これをオルフェが聞いたら、どれほど喜ぶだろうか。自然と笑みがこぼれる。
「それに、さ。おめーは俺のカミさんだから。」
「へ?」
「気が付かなかったのか?あいつ…何かお前の事結構べたべたしててさぁ…いや、まぁ、あの戦の時にあいつに貸した何とかの小さな杖、そのままくれてやれよ。すぐに使いこなす様になるさ。」
勿論だよ、とリディアは答え、更に眉を細めたのだった。

「エブラーナに帰るのが楽しみになっちゃった!家老さんも、元気だよね!」
「ああ。皆、お前の帰りを待っているからさ。」
エッジは頷くと、リディアの頬に置いた手を離し、その指先を取った。
「エッジ?」
リディアは噴水の水がはねるのを見ていたが、珍しくエッジの手が優しく動いている事に気が付き、顔を見上げた。
「なーに?」
くすぐったいよ、と絡める指先を摘むとエッジはその手に唇を軽くあてる。

「リディア―――改めて、申し込みたい。俺の妻になってくれないか?」
「え…?」
思わぬ申し出に、リディアの首が軽く傾く。
既にあの時、自分に跪いてくれているのに。引き返せない状況に持ち込んだのは、エッジの方。それなのに何故今更、と目で問いかける。

「まぁ…どさくさまぎれ、みたいになっちまったからさ。でもあの戦がなくても、あの流れがなくても…俺はお前と共に歩いて行きたいと思っていた。すっげえ身勝手って判ってたけど、あの時は絶対、帰したくなかったんだ。」
「…お陰で色々、大変だったよ。何で…」

大変だった。
本当に。それでも、来なければよかったと思った事は一瞬もなかったけど―――

「いや、何でって、リディア。お前を愛しているから、だ。」
プロポーズは、場所選んで落ち着いてするもんだろ、と頭をかく。
「エッジ…」
眼差しの中、遠くに鳥の鳴く声だけが聞こえる。

「…何でだろう。一緒にいるのが当たり前になっちゃった、かな?」
最もふさわしい言葉を捜しあぐね、更に首を傾げるリディア。
「幻界に行っても、離れていた方がおかしくて…何か、エッジが居ないと…ねぇ、何でこう思うんだろう?」
「それは、君が俺の事を愛しているからです。リディア。」

柔らかな眼差しが微笑みに変わり、その手が再びリディアの頬にかかると、ゆっくりとその唇に、自分の唇を重ねた。

―――エッジ…

リディアは固く結んだ唇を緩めて、それを受け入れた。穏やかに振舞っていたエッジの指先に力がこもり、リディアを引き寄せると更に長く深く唇を重ねる。 それがやっと離れた時、リディアの身体はエッジの胸に倒れこんだ。

「エッジ…」
「ん?強かったか?101日分だ。おめーが、俺のそば離れてからな。」
「あのう…今度は…腕…緩めてね…」
「あ…ご、ごめ…」
「あうう、くらくらする…」

庭の隅を散歩していた人影が慌てて姿を隠すのも、二人の目には入らなかった。


「翡翠の姫の歌―――の通りになったのかな。」
かたや、庭で思わぬ密会を眼にし、とっさに隠れたのはセシルとギルバート。

「…ああ、君が作った歌かい?本当にエブラーナまで広まったなんて驚いたよ。」
「よく言うねセシル!君が言ったんじゃないか。その歌はぜひ、エブラーナの人達に聞かせたいねって。だから僕、ちょっと広報ルートに気を遣ったんだよ。」
「えっ…君がしたの?」
「そうだよ?あの歌を歌う詩人を、何人かエブラーナに派遣したんだ。ちょうど、大きな輸入の話があったから、まぁちょっと…スパイっぽい事だけどね。必然的に王宮には入らせて貰う事になるから、せめてものお返しというか。」

スパイ、と言っても、まだ未開の国のイメージが強いエブラーナ相手に商売をするのに必要な、彼らの気質や生活を身近に体感する程度の話。
そして、腕のいい旅の芸人が王宮に入り貴族などを相手に仕事をするのは、ごく当たり前の風習だ。
 
そりゃそうだけどだがしかしと、思わぬ言葉にセシルは思わずギルバートの顔をまじまじと見つめる。

流石は通貨を流通させたギルバート一族の王子。 ギルバートは先の戦が終わった後、国の再建の傍らで戦いの英雄達を称える歌を数多く作り、自然にそれは大陸の近隣諸国に広まって行った。その中、エッジとリディアの歌物語を聞くたびセシルは、ぜひエブラーナに届けたいね、とギルバートに漏らしていたのだ。

「ギルバート。君にも、やっぱり商才があるんだね!」
「…商才、と言っていいのか判らないけど…」
「縁をつなぐのは、商才じゃないのかな?」

二人が庭の隅で何やら笑っているのに今度はエッジとリディアが気づき、急いでその場を離れる。

「珍しいなぁ、あの二人が一緒に笑ってるなんてよ。」
「本当だね。何の話だったんだろうね。」

 






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15
 

――― そしてその夜。

バロン城下はお祭り騒ぎとなり、貴族の家では次々と、花火が打ち上げられていた。
戴冠式後の晩餐会も終わると、セシルとローザを囲んで気心知れた仲間だけがサロンに集まり、既に目も当てられぬどんちゃん騒ぎとなっていたが、リディアは一人中庭で、風に当たりながら打ち上げられる花火を眺めていた。

「リディア様~~~!!こちらですわ!!」
ふと、声に振り返ると、2階の部屋からアイネが身を乗り出し手を振っていた。懐かしい女官の顔だ。来ているのは聞いていたが、式からの流れは早く、会いに行く事は出来なかった。

「あ!!!久しぶりだね!」
「今、そちらに参りますね!!」
アイネは周囲を見回すと、窓から壁の飾りに足をかけ、軽やかに地上に降り立つ。
「またお会いできて嬉しいです!リディア様…皆待ってたんですよ…」
カレンとは違い、感情をあまりはっきり出さないアイネだったが、流石に嬉しい、という気持ちは今は隠す必要は無かった。
「ごめんね、連絡もしなくて…」

リディアの言葉に、女官は首を振る。
「いえ…100日待った甲斐がありました…それより、お一人なのですか?皆様は…」
「うん。まだサロンで…私は、もう休もうかなと思ってさ。もう、流石にローザもダウンしちゃって、男の人たちなんて裸踊りとか始めてるし、私、お酒飲めないし…」
その裸踊りの中心に誰がいるのかは明らかだ。アイネは頭を抱える。幾ら気心知れているとは言え、王子としての公務中に自国以外でそんな真似はあまりして欲しくない。しかし、リディアと再会できた喜びもあるのだろう。
「あれ?カレンは?」
「ええ…何か、疲れたとか言って爆睡してますわ。」

ドーン、ドンドン、と響く花火の音。かすかに、ズゴゴゴゴと言ういびき。
「折角だからこの花火、見ればいいのに。私は見ていたから、リディア様に気がつけたんですよ。」
一際大きな赤い花火が空に華やかに広がる。
「…綺麗だね…」
「そうですね…」

―――それにしても…
―――まったく、何してらっしゃるのかしら。ウチの王子様。

エッジ様もちょっと抜け出して、この空の下、二人で歩けばいいのに。そんな事をふと思ったアイネが、なんとなしに庭の隅に目をやると。
「リディア様。バロンは城の中には魔物を飼っている…とか無いですよね?」
「へ?ない…よ。そんなの…」
同じほうに目をやると。頭から大きな袋を被り、腹全体に顔―――目鼻の付いた妙な生き物が、庭の隅からこちらを伺っていた。

「へ…?」
ぴょん、ぴょん、と飛び跳ね近付くその珍妙な物体。しかし、近くまで来ると、一気に跳躍しリディア達の目の前に着地する。
「きゃぁあああ!?何!?魔物!?」
そいつにあわや組み付かれ、声を上げて固まるリディア。
「な、何この…!!リディア様!」
アイネが化け物の頭と思しき部分を打ち据えると化け物は恐ろしい勢いで飛び退る。
「な、何者…素早い…!!」

なおも化け物は二人をからかう様に、ぴょんぴょんと周りを回り出していた。再び組み付こうと近付く化け物に、頭上から飛び掛る影。

「そんななまっちょろい攻撃じゃだめよ!!下がりなさい!!!!」
「そ…その声は」
「お久しぶりですリディア様!!その者の相手はこのわたくしが!!」

バサッ、ドスン、と上から黒髪の影が間に落ちる。地上に降り立つと同時に、震脚を繰り出し、構えるのは懐かしいもう一人の女官。
「化け物め!!この私が相手だ!!!さぁどの様にしてくれるか!!!」
「あの構えは本気…ちょっと!!ここ他の国よ!!」
「カ、カレン!!あまり騒ぐと…」

二人の声よりも響く、ドーン、ドーンという花火の音。化け物は流石に怖気づいたのか、慌てて全身に被った袋を引っ張っているが、中々それは絡み付いている様で、くるくると身体を回すだけだった。

「護身開眼―――ッ!!!!!とくと我が技を味わうがいい―――ッ!!!」

と、言いながら勢い良く繰り出された単純な飛び蹴りに、化け物の身体はきりもみしながらふっ飛び、したたかに腰を打ちつけ、更にごろごろと転がっていった。

「ホーッホッホッホッ!!!!覚えたか化け物め!!!」
「カ…カレン…相変わらず強いね…」
花火の音にかき消されて、誰も中庭の騒ぎに気がついていない様だった。
「…さ、コイツの惨めなくたばりっツラ拝んでやりましょ。」
「そ、そうだね…こんなのが城にいたら、皆こまるもんね。」
三人はそっと、ぴくぴくと動く袋の化け物に近づき、袋を剥ぎ取った。

しかし瞬間。全員の身体は一斉に固まる。

「…あ…」
「…エッ…ジ…」
袋をはぐとそこには。
胸部に綺麗に足の跡をつけ目を回した自国の王子が、腹に顔を描き更に体中に『スケベ』『裸の王様』だの、見るに耐えない落書きをされたあられもない格好でのびていたのだった。
「い、生きてるかしら?」
「さぁ…って、生きてないと困るわよ!!」
「エッジ!!死なないで!!!」
ぴくり、とその身体が動く。
「お…お前ら…明日飯…抜きの刑…」
そうとだけ言うと、完全に意識を失ったのだった。

リディアは急いで白魔導師を呼び治療を施すと、あまりにも恥ずかしい格好に布をかけ、三人で台車に乗せて来賓用の部屋にエッジを運ぶ。
「…貴重なエブラーナの外交の歴史に、汚点が残りましたわね…」
アイネがそっと、ため息をついた。







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14
 

いよいよ戴冠式の当日。
エッジは先日、女官2人を世話役にして、バロン入りしていたのだが、最後まで準備に手間取っていた。

「おいカレン!早く毛先トリートメントしてくれぇ~!!それからここ、伸びたのちょっと切ってくれ!!何かみっともねぇし!!」
「何で昨日のうちにご自分でしておかなかったのですか!?大体、当日に髪の毛を切るなんて聞いた事ありませんよ!!」
「ちょっとカレン、切るとか言わないの。結婚式の日よ。」
「おいおい、てめーら手ぇ止めんなよ!!俺の繊細な御髪が突っ張るだろうが!!!」

ゾリゾリッジャキッ…

「…あっ…」
「な、何だよ今の音!!!!」
朝早くから、エブラーナ一同が宿泊している来賓用の部屋からは、扉を閉めていても騒がしい声が外まで響いていた。

「よう、エッジにーちゃん!…って、すげー格好。急がしそーじゃね!?」
「邪魔しちゃだめよパロム!!お久しぶりです、エッジ様!!」
ドアを開けて入って来たのは、ミシディアの代表・長老名代としてバロン入りしたパロムとポロム。律儀に挨拶回りをしている様子だ。

「おう、久々!!」
「へっ、セシルあんちゃんより男前になろーったってそうはいかねぇぜ!」
パロムはエッジの膝元に乗っかり、大またを広げてふんぞり返ったのだった。

「あっれ、そーいやリディアねーちゃんは?確か、エブラーナに居たんだよな?」

ポロムが慌てて、パロムの頭を叩く。勿論、何も知りはしないものの、聡明な姉の察しはいい。一瞬女官2人の手が止まったが、エッジはへっ、と笑いながらパロムを下ろし二人に向き直った。
「いたずらばっかりしてんじゃねーぞ!!特に隣はファブール新王ヤン夫妻の部屋だ。失礼をしたら、山ごもりに連れてかれちまうぜ!!」
「や~~~だね~~~~!!!!」
と、言いつつも。パロムは既に騒ぎながら、ヤンの部屋に向けて突進している。
「失礼しました。エッジ様…」
「いやいや。わりぃな、心配かけて。」
ではまたのちほどと、ポロムは深々と頭を下げ部屋を出ていったのだった。

リディアはまだ、バロンには到着していなかった。
あと1時間もすれば式が始まる。今日はセシルとローザの戴冠式であり結婚式だ。自分がどうと言う日ではない。エッジは女官二人と別れ、戴冠式が行われる大広間へと移動した。
懐かしい顔に挨拶をし、談笑しながらも、頭の中は一つの事で埋まっていた。

「セシル殿、ローザ殿、おめでとうございます。」
「あんちゃん、おめでとう!!」

来賓たちは式の前、セシルとローザの前に並んで祝福を述べる。エッジもまたその列に並んだ。

「よう!セシル。おめでとさん!!」
「エッジ…遠路はるばるありがとう。」

晴れの日だと言うのに、セシルの表情に僅かな気遣いが垣間見え、エッジは声を張り上げ、セシルの肩を小突いた。

「いや、おめーらに礼を言わなきゃいけないのはこっちだしさ。ローザも、今日は一段と綺麗だなぁ!!いや~、いいカミさん貰ったな!!ちょっとおっかねぇけど、な。」
「まぁ!相変わらずね、エッジ!!」
ころころと笑いあう三人に、背後から近寄るのは。
「こりゃこのナマクラ王子が!!ローザに近寄るんじゃないわい!!」
「んだよシドじいさん!!誰がナマクラ王子だぁ~!?うわ、すげー油臭ぇな!!」
かつての様な仲間のやり取りに、その場の皆が笑いの渦に包まれていた。

―――待っていると、一秒も長いもんだな。全く…
―――こりゃあ本格的に、幻界に行く手はずを整えるか、な。

席は上座に設けられ、後ろを向かないと入り口が見えない所。

―――みっともねぇから、前向いてよっと。

いよいよ皆が席に着き、戴冠式の始まりを告げるラッパが響くと言う、その時―――

「!!ま、待って!!廊下から…だれか…」
ローザの、突然の制止の声。一同は訝しげに前を見るが、ローザの目は後ろの扉に向けられていた。静まり返ったフロアに響く微かな急ぎ足の音。
「やっぱりそうよ…来るわ!!」
その声に答える様に、静かに、けど急いで背後の扉が開かれたのだった。

「遅れて、ごめんなさい!!」

息が上がった様な声は普段とは違うが、紛れもなく一同には聞きなれた声。
「リディア…間に合ったね!!」
「来てくれたのね!リディア!!」
一同から歓声が上がるも、最前列の王子だけは振り返る事が出来ずにいた。

背中越しに、懐かしい足音が急いで通り過ぎるのが判る。ローザは前に駆け寄り、少女の手を取った。
「ローザ!!セシル…結婚おめでとう!!」
背後でもはっきりと、その存在を感じるのに。

「あなたこそ…よかったわ。誰にも知らせがないから…」
「ごめんなさい…あっ、一度、席につくね!!」
リディアはラッパを止めたままの兵士の姿を見て、急いでローザから離れ、エッジの前で足を止める。

「何だよ。」
心臓が早鐘を打っている。しかし嬉しい気持ちが多すぎるのかと判る位、見事につっけんどんな答えしか言葉にならない。
「ちょっと、放っときすぎなんじゃねぇの?」
「…ごめん…その…」
二人の様子を、一応の無関心を装いながらも、その場の皆が注目していた。

「ただい、ま…」
「ただいまって、おめーなぁ!!お、俺がどんなに待っていたか…」
勢いづいて振り向いたエッジの目に入ったのは。

「ご、ごめんなさい!!…って、エッジ…?」
「…」
薄緑のエブラーナ風のドレス。
あの日渡した首飾りをつけた、懐かしいリディアの姿。

―――ああ…

息を呑み、言葉が途切れる。心臓の早鐘は限界を超え、自分の視界がうっすら滲むのを感じ、再び背を向けた。

「へん、かな?この服…幻界で仕立ててもらったんだけど…」
「あ、ああ…と、とりあえず、席つけよ…」
リディアが下座に下がろうとした時、セシルが兵士に声をかけた。
「エブラーナ王子婚約者殿の席を、王子の隣に。」
「お、おいセシル…?!」
ローザも微笑んで、リディアに座るよう促す。リディアは隣に腰掛け、懐かしそうにこちらを見上げていたが、エッジはその姿を見る事は出来無かった。

「ただ今より、バロン新王の戴冠式、および結婚式を執り行います。―――いざここに、神々の祝福を――――!!」

フンファーレと、祝福の音がバロン城内き渡る。城下の人々はバロンの新王の誕生を祝い、歓声を上げるのだった







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プロフィール
HN:
tommy
性別:
非公開
自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
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