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ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
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 13
 


二人の女官は、真夜中にもかかわらず来客にお茶を入れに台所へ走った。
エッジは手早く頭から水をかぶり、酒の臭いを逃し身づくろいをしてサロンへ向かった。

「お待たせしました。」
サロンには薄暗く明かりが灯されており、奥のソファに来客の姿があった。衣擦れの音が静かに響き、女性はゆっくりと立ち上がりエッジに向き直る。
「幻界女王…アスラ殿…」
エッジはつぶやく様にその面を確認すると、跪いた。女官二人も後ろに従い、膝をつく。

「お久しぶりです。エドワード殿。この様な時間の来訪、ご無礼お許し下さい。」
「と、とんでもない!!こちらからお伺いしなければならぬ所を…」
ベールで覆われた全身は人間の姿だが、佇むのは紛れも無く幻界の女王アスラだった。
「エドワード殿…いえ、エッジ。どうか、共におかけ下さい。心づくしの書簡をありがとう。そのお返事に、こうして参りました。」

「恐れ入ります―――リディアは、幻界の方に?」
ええ、と頷き、アスラは静かに幻界の様子を語り始める。
幻界に帰ったリディアは、真っ先にアスラとリヴァイアの所へ赴き、地上の報告と共にエッジの書簡を二人に渡した。しばらく滞在し、幻獣達に地上で暮らす事を伝えたが、予想外の事が起きた。

リディアが戦に巻き込まれた事を心配していた幻獣達、とりわけ人間の事を快く思っては居ない者たちが反対し、リディアを居住区の一角に閉じ込め、幻界から出さない構えを見せているのだ。
是が非でもセシルの戴冠式に参列したいリディアは途方にくれているらしい。

「私達は、彼女がどこで暮らすかは彼女の意思にかかると思っています。しかし―――」
言葉を切るとアスラはふと、女官の方を見て、穏やかに笑みを浮かべた。

「失礼ながら御人払いをお願いします。あなた方がリディアのお友達ね。お話は、伺っています。」

二人は慌てて、扉の奥に下がった。
シルフの姿も消え、サロンにはエッジとアスラの二人だけが残される。
「エッジ。私がここに来たのは、あなたに尋ねたい事があったから…まず、リディアをあなたの妻にしたいと言う心に、偽りはないのですね?」

その瞬間、気のせいだろうか。穏やかな表情を変えぬアスラの雰囲気ガが、少しだけ険しく変わる。エッジは一瞬、穏やかな気迫を感じ息を呑んでいた。
「御付の方もおりません。この話は、私とあなただけの事にしてもいい。あなたの言葉で、お聞きしたいのです。」

かつて自分に関わった女達の親に、この様な表情をされた事はなかった。王子様、どうぞうちの娘を、と平伏する親達。だがその中には、放蕩道楽者だがお前は王子だからな、と侮蔑を含む者も少なくはなかった。
だが、目の前にあるのは、どこまでも一人の人間としてのエッジを見定めようと、そして覚悟を確かめようとする母の顔。
心臓が早鐘を打ち始め、エッジの左手はその胸を無意識に押さえていた。

―――俺…
―――俺…怯えてるのか…?

「あの…」

俯きかけた顔を慌てて起こすが、アスラの顔を見る事が出来ない。

―――俺が…どれだけ…その、リディアを愛して…いるか…

今しかない。
母親が自ら、単身赴いてきた事に報いる為には、それこそ一晩の言葉でも足りないかもしれない。心臓を押さえた左手を離し、アスラに向き直った。
「何一つ、偽りはありません。確かに王家と言う事で、幻界で暮らすのとは違う苦労を味わわせてしまうかもしれない―――ですが、何があろうと私はリディアを守り、この国を共に治めて行きたいと思っています。」
単純だが、それ以上の言葉が見つからない。
アスラは静かに頷くと、言葉を続けた。

「判りました。ですが、あの子が生きてきた環境や、いきさつはご存知ですね?」
「はい。召喚士と言う特殊な血を継ぎ、7歳の頃幻界へ行ったと。」
「…あの子が幻界であの様な成長を遂げるのは、全くの予想外でした。確かに時間の流れは地上とは違う。幻界で育った人間は、リディアが初めて。成長期の終わりと共に、著しい身体の変化は止まりましたが、人間として無理がある事に変わりはない…それがこれから生きてゆくに上でどの様な影響を及ぼすのか…我々にも予想がつきません。」

アスラは一度目を伏せ、またエッジをしっかりと見据える。
「そして、何よりも…地上の王家にとって問題となろう、不妊と短命をもたらした濃すぎる召喚士の血。リディアが無事な子を…いえ、子をなせる身体かと言う保障すらありません。…よいのですか?王家の血を継ぐのは、あなた一人と伺いましたが。」
恐らく、アスラはエブラーナの歴史を知っているのだろう。果たしてエッジにどこまで、一人の女性が守れると言うのか。ややもすると挑戦する様な口ぶりに、それが伺えた。

「いえ、子をなす以前に、あの子自身、短命と言う事も大いにあります。もしそうなら先の短い人生に、一国の王妃と言う役目は背負えるかしら。あなたも彼女が先立つ事に耐えられますか?リディア程の腕を持つ魔導師は少ないかもしれませんが、それ以上の魅力を兼ね備えた女性は、人の世に幾らでもいます。代わりのものは、幾らでもいるのですよ?」

「な…んで!?」

そのアスラの言葉に、エッジは表情を険しく変わっていった。
「…俺は…俺はそんな事は考えていない!!」
言葉が乱れた事にエッジは一瞬顔をしかめたが、アスラは先を促す。

「…すみません。乱暴になりますが、言わせて下さい―――俺は確かに一国の王になる人間だし、その役目ははたして行きたいと思っている。それは…国を治め残すべきものを、次の時代へ受け継げばいいのであって、その他の事は、子がどうとか先が短いからとか…それは、幾らでもどうにでもなる問題です。第一、女一人大切に出来ねぇで、何で国の人々を守れるのか…自分の妻一人と手を取れない王に、誰がついてくるのか、エブラーナの人間は、そこまで馬鹿じゃない。俺は、あいつ… リディアだからこう思えるから、他の女じゃ…あいつじゃないと、意味無いんです。」

そう、一息に言い切って正面を見据える。
アスラは変わらぬ穏やかな表情でそれを聞いていたが、やがて更に表情を、空気を緩めて静かに頷いたのだった。
「あなたの話は色々聞いてます…勝気で自信過剰。枠にはめられるのが大嫌いな破天荒な王子…しかし軽薄な振る舞いは、正義感と優しさと熱さを隠す為の物、とね。」
「…へ?は、はい…いえ、その…」

やはりお噂通りの方ね、と小さく口の中で呟かれた言葉は、エッジの耳には入らなかった。

判りました、とアスラはまた、僅かに目元に笑みを浮かべる。 
「リディアは…人間です。人から見れば、半永久的な命を持つ我らに比べ、あまりにも寿命が短い。あの子が地上に寄る辺を持てるなら、同じ時間の中で仲間と共に生きて欲しい。そうすれば、あの子が幻界であまりにも短い生涯を終えるのを、目の当たりにする事はないでしょう。」

それは、紛れもないアスラの本心だろう。心の底を明かした二人の間に穏やかな空気が漂い始める。アスラはつと立ち上がり、窓の外を見た。

「もう夜も遅いわね。そろそろ、お暇しなくては―――」
部屋を用意する、と言うエッジの申し出は丁寧に断られた。

「幻界の者達には私から話をします。リディアが地上に戻るかは彼女次第。ですがあなたの誠意は、しっかりと受け止めました。エブラーナも幻界同様、国を閉ざしていた時期があるそうですね、エッジ。一つ所に閉ざされたままでは、国は退廃してしまう。そろそろ幻界も、新しいあり方を考えなければ。また会う日も近いかもしれませんね。」
「アスラ殿…」
「今日はあなたにお会いできてよかったわ…では…」

アスラが深々と一礼すると、周りのシルフ達が一際輝きだす。 エッジは跪き、その姿を見送った―――

 






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tommy
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非公開
自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
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