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ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
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 12
 

エッジはリディアが幻界に帰ってからと言うもの、今までにもまして公務に精を出す様になっていた。
だが城下ではリディアの姿が消えた事を、『戦に参加したから、魔法の国の両親に連れ戻された』と子供たちが噂してたらしい。
そして村娘には負けたくなくなったのか、ここぞとばかりに一部の貴族達がエッジに縁談を持ちかけたが、エッジ側は当然聞き入れなかった。話を聞くたびに、『こっちの世界にゃ、リディアよりいいオンナはいないからな…』とため息しきり、結果は明らかなので家老が全て丁寧にお断りしていた。

一日、二日と日を数えるうちに、二ヶ月、三ヶ月が過ぎ、後数日でバロンの新王戴冠式が行われると言う時になっても、リディアは姿を現さないどころか、バロンのセシルやローザにすらも連絡を取っていないと知り、エッジのみならずセシルやローザ…彼女を知る者達は皆、さすがに不安を感じつつあった。

「…エッジ様?まだおやすみでないのかしら…」
階段から首だけ出して覗いた王族のフロアに、微かに明かりが灯っている。既に夜半をまわっており、人払いをしたのか兵士達もいない。宿直室へ向かう足を止め、カレンは静かに、エッジの部屋へ向かった。

開け放たれた窓から、冷えた夜風が入りこむ夜半。エッジは真っ暗になった部屋の中で机に突っ伏して寝込んでいた。
「エッジ様…」
「あ、ああ。カレンか、すまねぇ。また寝ちまった。」
どれ位、うたた寝をしていたのだろうか。机の上には、小さな果実酒のビンが空になってる。
「まだ起きてたのですか?風邪ひきますよ。」
「…いや。明日は久々に休みだから…ちょっと、な。」
エッジはカレンに向き合い、ぽん、と自分の膝を叩いた。
「お前さ、トマスとの縁談進んでるんだってな?おめでとう。ガキの頃からの知り合いが結婚するって、何だか複雑だな。置いてかれるみてぇ。」

カレンはええ、と返事をしたものの、どう答えていいのか判らない、と言うのが正直な所だった。召使の私事とは言え、エッジが計らってくれた話。
本来は真っ先に報告するべきだっただろう。しかし、リディアが幻界に帰ってからというものの、公務に精を出すエッジの心中を全く判らない訳ではなかった。

「なぁ、オンナは結婚って嬉しいのか?それとも、不安なのか?」
「う~ん…両方、かしら。不安になる事も多いです。」
エッジはグラスを差し出すと指で水差しを指す。黙って水を注ぐ忠臣。
「俺…リディアを不安にさしちまったかな。いきなり妃になれなんて、さ。」
「う~~ん、確かにいきなりには大きなお役目ですわね。でもリディア様は出陣されたエッジ様の事を心底、気にかけてましたし。」
 
状況が状況とはいえ、エッジがいきなりリディアに妃の役をさせる事には、その負担が判るからこそ不安を感じはした。
しかし、リディアはただひたすらエッジの身を案じ、女官である自分達の命をも救い、彼女なりにエッジの大切なエブラーナを守ろうとしていた。
それまでは“翡翠の姫君”は―――リディアはエッジの恋人、憧れの人。共に国をどうするとまでは真剣に考えてはいないのだろう、と軽い気持ちで、皆、可愛いお姫様をもてなしていた。

しかし、そう言ったリディアの顔を見るにつれて、リディア本人にも気が付いていない、二人の心の絆が周りには見えて来ていたのだ。
だから誰もが道を開けた。二人が一緒になる為に。
「…アイツ消えて、三ヶ月経つのかな?」
「今日で92日です。アイネが一昨日、90日と言っていたので。時間の流れが違うと言うので、暦に印をつけているみたいですよ。」
「…うわ、怖ぇ…アイツ、誕生日忘れたら一服盛りそうじゃね?」

「エッジ様…」
聞くべきではないのかもしれない、と言う遠慮を踏み越えるのは、相手が例え王子であろうと、この女官の得意とする事だった。
「エッジ様。何をお考えなのですか?何かを恐れているのですか?」
幼なじみの頃に戻った様な、ややもすると強い口調でカレンは尋ねる。
「へ?何がだよ。」

「…私はあなたを存じてますからね。幼い頃から。」
酔って判らない、という様なみえみえの表情がみるみる崩れて行く。それでもうつむいたままだったが、首をかしげ、何だろうなぁと呟いた。
「―――戴冠式、が怖い。」
予想外の答えに、眉をひそめる女官。
「戴冠式が?バロンの―――セシル様のですか?」
「怖ぇんだ。眠れないんだよ…だって来なかったらどうするんだよ。」
確かにエッジが夜半に酒を飲みだしたのは、ここ数日の事だった。
「―――リディアに会えなかったら、戴冠式にあいつが来なかったら、きっともう地上には… 会えたとしても…怖ぇんだよ。結論聞くのが。何でこんなに連絡無いんだよ…駄目なら駄目って、そう言ってくれよ…何であいつが居なくなって、三ヶ月も経ってんだよ…」

灯した明かりが一瞬消えそうになり、カレンはとっさにランプに手を添える。うつむいたエッジの表情が間近に見えた。
「…!?」
エッジの目じりから、僅かに涙が流れている。
「ったく、格好つけちまった。親御さんがなんて言おうと帰したくなんてねぇ…なのに…」
相当、酔いがまわっているのだろうか。こんな風にエッジが弱音を吐く姿を、泣く姿を見たのは、子供の頃以来だった。

殊に女性に対しては軽薄な真似をしてきた彼が、一人の女性の為に涙を流した事があっただろうか。
若い頃に婚約が破棄された時も、それにまつわる陰謀が明かされた時も、エッジは一向に意に介さない表情をしていたのに。 一度手の中に入ったものを手放してしまった苦しみは、想像を絶したのだろうか。

―――今、リディア様を失ったら…

「何時ものあなたなら、俺が取り返してやる、位言うでしょうに。」
「…でも何処にもいねーじゃん。」
「む…ならば、私に考えがあります。」
エッジの細い目がぱちぱちと瞬く。
涙は消えていたが、浮かない表情は晴れていなかった。
「最後は正攻法です。バロン王戴冠の日はリディア様がお帰りになって…98、99… ちょうど100日目。きりがいいわ。お戻りを許されないなら、皆で幻界とやらへ行きましょ。もし時間が違うと言っても、家老殿以外なら大丈夫でしょう?団体交渉ですわ。」
「だ、団体交渉?」
「ええ。幻界の方は、相手が信頼できるかを戦って試す、と伺いました。皆で行った方がいいわ。早い話、負けてもなんでも、誰かがさらってくればいいのです。」
思わぬ提案に、エッジは噴き出す。
「…ああ…おめーの考える事は常に中央突破。答え聞くまでもなかった。」

当然ながら、幻獣の強さは人智を超えている。自分ひとりならば、王との謁見すらままならないだろう。
知ってか知らずかどこまで本気でそんな事が言えるんだと半ば呆れつつ、心強い言葉ではあった。

―――確かに…
―――最後は、正面から行くしかねぇんだよな…

妻にしたい女性の親にすら、恐れて会いに行けない男。
このままではそれ以外の何物でもない。手紙一つで納得してもらえる訳無い。

「お前、色々頼りになるよな。産休やるから退職するなよ。」
「勿論です。近衛兵とは言えトマスは若いから収入が少ないです。共働きでなければ、私が好き勝手でき…もとい、食べて行けません。」
「うわっ、早速金の話かよ。おめーキツイな…いや、一応子供手当ては出すよ、うん…」

それ以前に自分の事だけをまず気にしている時点で、この夫婦の前途は多難だろう。しかし、とエッジはすっかり気分が変わった様で、ほおづえをついて目を細める。
「…う~ん、俺は、お前のそーゆー所好き。実は俺、初恋お前だったんだよ。」
「へ!?!?」
「驚いた?」
思わぬエッジの言葉に、目を口と鼻の穴をまん丸にするカレン。だが、続いた言葉は。

「ほら、あの頃ってあんまり男も女も判らねぇじゃん。女らしい奴って気持ち悪ぃ位にしか思わなかったし、その点まず、お前はあの頃俺より強かった。」
「ホ、ホホホホホホホ…何てありがたい褒め言葉…」

「野良犬から俺とオルフェを守ってくれたり…女の子だってのに強くなろうと顔はしょっちゅうボコボコにしてあざだらけで、でも頭全然賢くねーから忍者にはとてもなれなくて、大人になっても変わらねぇから他の女官も気味悪がって、アイネしか友達居なくて…」
「…ホ、ホホホ…そ、その通りですわね…宦官なんじゃないかって言う不名誉な噂まで立ちましたし…」

「それでもおめーみたいに、好きな事の為にオノレを捨てられるのは素晴らしいというか、いや、おめーは完全に、素でもがさつでワガママで大喰らいで、誰に何を言われても気にしない。若い頃、結構愛されたがりで格好つけ屋の俺の目にはとても羨ましく見えた。」
「…ホ、ホホホ…」

「まぁ段々大きくなって、俺には周りに女達が…早い話がさっさと色気付いてたからさ。そっちとどーにかなるのに忙しくて、全く変わらぬお前には、ある種の奇特な存在を目にした時のときめきすら覚える程だった。まートマスはおねーちゃんとか言ってよく引っ付いていたけど、それを蹴り飛ばす非情な度胸と言い思い切りの良さと言い…」

プチプチッ、とどこかで何かが切れた音がした。

「いや、今でもたくましい。寄る年波を考え、今度は武器でも作るかというその感覚、常軌を逸しているとつくづく思うが変わらずだ。そしてすまん。子供の頃、お前が宦官だと言う噂を流したのは、この俺だ。はっはっはっ、ときめいただけで恋じゃないな、こりゃ。」

その瞬間。風切り音と共に、カレンの拳がエッジの顔面すれすれで止まった。
ぽとり、と拳圧で縦に裂かれた羽虫が机に落ちる。
「…虫です。」

―――よ… 避けられなかった…

「は、ははは…すげぇ…あ、頭まで綺麗に縦割りになってやがる…」
「ホホホッホ…綺麗なお顔に羽虫が止まっては一大事です、ええ…ホホホ…」
深夜の部屋に、似合わぬ笑い声が静かに響いた。

が、その時。
「あ、あの…エッジ様…」
入り口に現れたのは、もう一人の女官。
「アイネまで…どうした?」
アイネはランプを手に持ってエッジの部屋の扉に立っていたが、その様子はうろたえ、慌てている様にも見えた。
「お、お客様が…サロンの方に…」

「何?こんな時間に?!」
エッジはすばやく、後ろの廊下に目をやる。女官を人質に取った賊と言う言葉が浮かび、懐刀に手をかけていたが、どうやらその様な気配はない。
「どちらから入られたのかも…判らないのです…でも、もし…本当だとしたら…」
「お前が来たって事は、少なくともそれなりの相手だろ?どんなヤツだ?」
「女性の方です。非常に高貴な雰囲気で…シルフ、って言うのかしら、従えて…」

―――!!

反射的に、エッジの胸が大きく高鳴った。幻界の奥で、一度だけ会った事のあるその姿が浮かぶ。

「リディア様の―――お母様と名乗られる方が―――」


[101日目のプロポーズ 13]

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tommy
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非公開
自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
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