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20
そして後日の夕刻、バロンの国王夫妻の元にも慶事の知らせはやって来たのだった。
「良かったわね。あの二人。もう…離れる事もないわね。」
「ああ。まぁ―――なるべくして、じゃないかな。あの二人はきっと。」
「…大変な2人だったわね…本当に…」
深く信頼し合い、どんな苦難をも二人で乗り越えたセシルとローザ。しかし、エッジとリディアが共に歩むには、セシル達とは全く違った意味での、あまりにも乗り越える事が多すぎた。
立場も、環境も、住む世界も――― 愛しあう、と言うだけではない、信頼と言う言葉が指すものを信じられたから、自分達は進んで来られた。しかしこの二人は、何かを乗り越えるにはあまりにも気持ちが淡すぎた様に見えていたのだ。
だからセシルもローザも、リディアを地上には引き止めなかった。
エッジもリディアも、互いの心の深さに気が付いていない様に見えたがせめて、と二人はリディアに、『もしまた会えたら、地上で暮らす場所を用意させて欲しい』と伝えていた。
例えエッジの事がなくとも、寄る辺がないなら力になりたい。彼女の故郷を焼いたセシルにその思いは強かった。
「リディアが幻界に帰った後、エッジが聞いてきたんだ。幻界では、どれ位時間の流れが違うのかって。全く判らなかったけど、すぐに10年の時は過ぎてしまうかも知れない、と答えてはおいたんだ。」
「そう…確かにあの成長は…で、エッジは何て言ってたの?」
―――じゃ、こっちの時間で10年も生きらんねーのかよ…
―――それだけじゃない、次に行ったら生きているかも…
「…こう言っていたよ。『俺もそれ位経ったら身を固めるか。大丈夫だろ。たまに… ばーさんになったあいつの面倒を見に行くのもいいしな。』ってさ。」
召喚士は短命の血筋。時間がないかもしれない事も、エッジは気がついていた。
「それを聞いた時、何て言うんだろ…もしかして、二人はまだ何処かで繋がれるんじゃないかって思ったんだ。いちかばちかで、リディアがバロンに手伝いに来てくれたのは願ってもない事だったよ。リディアも、エッジの近況も気にはかけている様だった。絶対、もう一度二人の時計を動かしたい、って思ってさ。」
ずいぶんと大きな望みをもっていたのね、とローザは目を丸くする。
「だから、リディアをエブラーナに送ったの?急にシドに小型飛空挺まで作らせて!」
「…飛空挺は、まぁ僕も欲しかったし。結果的には、最も良くなったんじゃないかな?リディアもあの内乱で、エブラーナの人々の信頼を得る事が出来た。」
が、セシル!とローザが半ば頬を膨らませた。
「唯でさえ忙しそうだったのに、そんな事まで考えて。私だってあなたの事心配したのよ。私に言ってくれれば、協力だってしたわよ!!」
「い、いや…君は何をするか…」
「な~んですって!?」
慌ててセシルは、ソファから飛び起きる。
勿論、慎重な行動や見方も必要とあらば的確に出来るものの、こうと決めた時のローザの行動は常に、常軌を逸したレベルにまで積極的になる事もまた非常に多い。
つまる所、何を何処までするか判らない。
エブラーナの危機を救った魔導師隊は、実際ほぼローザの独断だった。だがその後の各方面への説明等を考えればとてもあの早さで隊を動かせる状態ではなかった、と言うのが正直な所。
魔力での長距離移動は、バロンの言わば隠れた最新技術の様なもので、いかに魔力に秀でているとはいえ、大勢の者を移動させるには組織全体の協力が必要になる。
あくまで緊急に負傷者救護の必要がある為、とセシルは周りを説き伏せ、魔導師隊の者達に犠牲がでなかったからこそ、何とか後の帳尻も合わせられたのだ。
「いやいや!!結婚式が楽しみだね。あのエッジにはリディアが、ちょうど良いんじゃないか?そこら辺の女性なら、エッジの面倒なんて見切れないよ。おまけにそっくりの子供でも出てきたら…」
「そうね…ってセシル!!なぁんか私達も忘れてなぁい!?」
子供、と言う言葉にローザは身を乗り出す。
ううっ、と息をつめるセシル。
「い、いや、それはその…も、もう少し生活落ち着いてから…」
あいも変わらず多忙な2人。
ローザは白魔導師団の仕事等は、自らの直属組織を作り分担して軽減していたのだが、セシルは即位してからも中々、本人がしなくてもよい公務を人に任せられず、仕事を抱える事が多かった。
リディアがバロンに身を寄せていた頃、よく書類の整理等を手伝っていたのも、そうする人が必要だったからこそ。それをローザに諭され、最近は流石に人任せにしているものの、まだまだと言う所。。
「んもう!いっつも忙しいってばかりで!!やっぱり、リディアに手伝って貰った方が良かったかしら!?」
肩に額を寄せられた額を、そっとなでるセシル。
「…いや、その…もう君が張り切る事になるのは、いいんだ…いや、そうだよ、君の為にもね、うん…」
気丈に振る舞ってはいたが、ローザも慣れない王妃生活がしんどいとは思っていたのだろう。リディアが来てくれた時のローザの喜び様はなかった。最もそれが原因で色々と、張り切り過ぎる部分もあったな、と言うのがセシルの認識ではあったが。
が、勿論ローザはそんな思惑はつゆ知らず。
「まぁ、私の為に…とてもうれしい事を言ってくれるのね。セシル!愛しているわ!!」
「あ、ありがとう。だからもう絶対、無茶はしないでくれよ…」