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ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
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事態が動いたのは夕方だった。
城下の数箇所で、一斉に火の手があがったのだ。
しかし爆撃などをされた様子はなく、城下の民が懸命に消火にあたっていた。なぜか火は様々な所で発生し、一向に消える様子はなく、遂には兵が動員された。

そして―――
「申し上げます!!反乱勢力と思われる兵群、大型船10隻にてエブラーナの港を突破し上陸、城下へ向かっております!!」
「兵を総動員して迎え撃て!!城下の民にもすぐに戦開始の伝令を!!」

将校達の声が響き、城の中がにわかに殺気立つ。戦が始まったのだ。
リディアは城のバルコニーから、夕日に染まる町に火の手が上がり、幾つもの爆発が所々に起こるのを見た。そして、兵隊達が堰を切った様に、大通りを城門に向けて出陣して行く姿を。

―――偶然の火事じゃない…あの炎は、魔力の…

城下の所々に、魔術的なひずみが発生しているのが感じられる。おそらくは、魔力の転送だ。何かしらの仕掛けで送られた魔力による炎が城下に発生しているのだ。送られた炎自体は、恐らく小さなもの。だが、そこがもし、燃えるものが置いてある所だとしたらろうそく程の火一つでも、大きく燃え上がる。

―――オルフェは…大丈夫かしら…

反乱勢力の兵と城の兵では、明らかに装備の差はあるだろうが、何をしてくるかわからない。エッジが帰した隊が間に合わなかったら、どうなっていたか。 微かに手が震えている。

―――私だけで…戦える?
―――エッジの代わりに皆を守れる?

逃げる気になれば、一人でも逃げられるだろう。敵に囲まれたなら、突破するだけの力もある。だが、もしそんな事が起きたら、心が折れずに居られるだろうか?

「…街が燃えている…何もしないなんて出来ないよ…」

返事を待つより早く、リディアは両手で印を結び出した。

「リディア様…?」

近寄ろうとした女官2人は、異様な空気の流れに足を止める。
「我が声に答えよ―――幻界の使徒、時の狭間を越えよ。地に降り立ちて、清め齎せ―――」

静かに呪文の詠唱を始めるリディア。その響きはシルフやチョコボの時と違い、低く重く響き出す。次の瞬間リディアの周りの空気が冷たく曇り始め、何処からともなく深い霧が立ち込め出した。

「えっ…何?何!?」
女官達は目を見開いた。霧はリディアを、そしてバルコニーを包んで渦を巻き、次第にその姿を変えてゆく。

「出でよ、清き竜―――深き霧より現れし者、反逆の炎を消し鎮めよ―――!!!」

霧の中から、今度ははっきりとドラゴンの陰影が浮かび上がり、中庭に出ていた兵士達から、驚きの声が上がった。それは再び渦を巻くと、一つの筋となって城下に向かった。時折その姿を現すのは、巨大な翼の透き通る白い竜。

「ええっ!?」
二人はバルコニーの手すりまで駆け、身を乗り出さんばかりに竜の後姿を目で追った。
「すごい…」
「魔法…だわ…」
城下に向かう霧は時折巨大な竜の姿を作り、見る間に城の近くに広がっていた大きな炎を鎮めたのだ。
だが、リディアは、やや息を上げていた。城下全体に霧の竜の力を使うのは不可能、先ほどの炎もそれが完全におさまった訳ではない。だが、霧の、水の力があれば、城下中に燃え広がる程の被害は防げるだろう。よろよろとバルコニーに倒れこむと、我に返った女官が慌てて駆け寄ってきた。

「こ、これが―――召喚…ですか!?あれが、リディア様の力…」
「うん…」

―――誰にも…頼れないんだ…

自分が強大な魔力を持つ事は、この国の人達に知られている。そして、エッジのお妃候補。否が応でも高い立場にいるのだ。エッジも、有能な将校もこの城にいない以上、城や城下の人間の精神的な寄る辺が他にいない。それが、城の中や城下から伝わる空気―――エッジの臣下や侍従達の雰囲気から全身で判る。
勿論、いざとなれば、城の皆は他国の人間である自分を逃がそうとするだろう。しかし自分もたくさんの戦いを見てきた。幾ら他国の内輪事とは言え、放っておくわけにはいかない。

―――力になりたい…出来る事全て…

―――エッジが、帰ってくるまでは!

城外の衝突は夜、反乱勢力の一時撤退という形で区切りは付いた。
誰も、それで終わるとは思っていない。反乱勢力が陣形を変え始めたのだ。
戦況は反乱勢力の優勢であり、エブラーナ国軍は城壁ぎりぎりまで追い詰められ、何とか撃退した。敵陣の被害も出た以上すぐには攻め込まれないだろうが、エッジの帰る前にかたをつけるつもりならば、明日には今日以上の力で総攻撃を仕掛けて来るだろう。
将校、家老は、兵の一部を城下町に戻し、城下を死守する指示を出した。

「地下通路も塞がれました。民を逃がす事は叶いませぬ。兵と共に戦わせる他は…」
うなだれる家老。もう夜だがとても眠れる気分ではない。
リディアと2人の女官の他に、数人の兵と侍従・女官達が広間に集まっていた。
「ルビガンテとの戦の時も、若様が公務で外国に行かれたのを狙って敵は攻撃を―――」

アイネがその言葉をふさぎ、家老の前に歩み出たのだった。
「家老殿。私はカレンと共に、リディア様に従います。エッジ様のご状況は何か判りましたか?」
城内への侵攻もありえる事態、侍従や女官も各々の武器を持ち、防具で武装していた。
「判らぬ。だが、エノールの情報は入った。先日、エブラーナに入った行商人の噂話だが、それが事実なら…エノールの反乱兵は、街の人間の可能性があると…」
「街の…人間!?」
思いがけない言葉に、三人のみならずその場の兵達も一斉に声を上げたのだった。
「恐らく、の話じゃ…エノールの街では噂になっていたそうだ。知事の弱みを握り、財政を操っている者が居ると。さらに商人筋の話では、その者は街一番の商人とつながり、対海賊の自衛の為に街のならず者を金で集め、武装の準備をさせていた。もし…それが、あの街の一群なら。」

「では…反乱勢力のエノール制圧は、お金で集められた者達の自作自演の可能性が!?」
「な、何故その様な事を…」
所々で声が上がる。
「…いや…自作自演ではない。こちらに送られた情報が、そもそも誤りだったのじゃ。彼らは反乱軍などではなかった。だが、情報を操作し、エブラーナ王都に流した者がいたのだ。」
街には自衛団が組織されているのは当然の事で、余程の不穏な動きでなければ王都は察知する事はない。だが直前の、廃王の末裔本人による城内への襲撃は、様子見の間を惜しませるほどにエッジの出陣を決定づけたのだろう。

「誰が何の為にそんな事したのよ!?バカな芝居うって、お陰でエッジ様自ら出陣の羽目になったわ!!」
カレンの語気が荒くなる。それはその場の皆が思っている事だった。城の隣町で反乱を演じた所で、得する事は無い。
「あっ…あの、廃王の―――あの男の手の者が、裏にいたのでは!?その、商人の上にはあの者がいるんでしょう!?」

―――ウソをついて兵を集めて…

その通りだ。一連の流れは全てあの男の仕業。そう考えるのが自然だろう。そして、侍従と家老の言葉の中に感じる、微かな繋がり。エッジの命が全ての目的なら、何故焼き討ちの場に現れなかったのか。
 
―――全部がウォルシアって人のした事だったら…

「その男、一体何処にいるのよ!!焼き討ちが上手く行かなかったから、逃げたに決まってるわ!!街の騒ぎだって、エッジ様を少数で呼び出す為の罠よ!!そこを焼き討ちなんて、卑怯な!!」
エッジを呼び出すのが目的だと言う事は、間違いはないだろう。だが、ならば何故、敵はこちらにも向かっているのか。

「罠…だよね。でも、エッジを殺すだけが目的なら…指輪一つで済ませる事はないよね…」
『エッジの命が狙いなら、城に総がかりで来るはず』とは以前、城の外でカレンが行った言葉だった。はた、とカレンの言葉が戻る。
「あ、そう言えば…そうですね。エッジ様が狙いなら、その、エッジ様を焼き討つのに全力を使いますよね、普通…あれ?じゃあ、今外に居る敵の本隊は…最初からこの城を?」

はっきりと判った事。目的は、この城だ。
「…多分…エッジの出陣を確かめたら、留守を狙うつもりだったんだよ…」
リディアの言葉に家老が静かに頷いた。
「…左様。陽動でございます。精鋭の兵と共に、エッジ様を城からおびき出す為の。焼き討ちにあれほどの兵器を用意した事…それ以外にありますまい…」

街での勢力の元締めが兵を集めた商人なら、その商人を消してしまえば証拠は残らない。そして街に集めた者達は制圧に来た国軍に皆殺しさせる。首謀者は、そこには居ない。
「確かに、少ない兵の一群とは言え、廃王の名を示せばエッジ様自身が動くでしょうね。そして、最精鋭が城の外に出せる。まさに、陽動と言う事ね…」
家老の言葉に、アイネが唇をかんだ。
廃王の名。エノールの街での国軍への侮辱。敵は二重三重に、エッジを城からおびき出す手はずを整えていた。

「…街の一団に国軍が気を取られているうちに、敵の本隊が動き、エッジ様を亡き者にし、手薄になった我が城を落とす―――見事に、その通りとなりましたな。」
「あの人…ウォルシアは今どこに…次は何をしてくるの…?」
決死隊として城を取り囲む相手の陣に乗り込んだ密偵も、その男を見つけられなかった。外の兵を統率するのは、かつてエブラーナ国軍に追われていた海賊の一味だという。

「恐らく廃王の末裔は、どこかで若様と直接対峙するつもりでしょう。」
「え…!?」
私の考えの範囲ですが、と家老は前置き、言葉を続けた。
「数代に渡り王家を名乗る程の者であれば、その程度の誇りは持ち合わせているでしょうな。焼き討ちの道具も…若様のお命を奪えると頼っていたのではありますまい。兵の多くにダメージを与える為…」
その男はエッジを付けねらって動いている。どれ程の決意を持って挑むというのか。決闘と言う言葉など、その場には生ぬるいだろう。

「リディア様、どうかお落ち下さい。あなた様お一人なら逃げられるでしょう―――本格的に攻め込まれれば城は手薄、精鋭は少数…我らは若様が帰るまで持ちこたえます。しかし早馬では出陣しておりません。明日早くには帰れるか…」

家老が告げた言葉に、リディアは無意識に首を振っていた。
たった、明日一日。この攻撃がその勢いを落とさなければ持ちこたえるのは難しい。敵はまた、城に向かうエッジを狙っているのは間違いない。

―――もしエッジが…あの人に勝てなかったら…

そうなれば全ては終わる。敵兵は恐らくならず者の集まり。国に追われた身の海賊達が城内に侵攻すれば、破壊や略奪、暴力、殺戮の限りが尽くされ、民の受ける屈辱や被害はルビガンテとの戦をはるかに上回るだろう。
「間に合わなかったら、どうするの?エッジだってまた―――」
震える声で尋ねるリディアの前に、アイネは静かに小刀を抜いて差し出した。

「城が落ち、もしも主君も共に亡くなり、王の一族が絶えたその時は―――エブラーナ王宮の慣習に従い、我ら忠臣は自害する覚悟です。王を騙って民を欺き、陥れる者の下になど―――」
その言葉に家老も静かに頷いたのだった。
 


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そして。
その頃、エブラーナ城のリディアの元に、ローザからの筆魂の手紙が届いたのと、エッジが魔物による焼き討ちにあったとの情報が入ったのは、ほぼ同時だった。
エッジは既にエノールへ向かったが、それは忠臣達以外には極秘とされ、怪我をして待機している、と言う話が流れていた。
 
「エッジが…もしかしたら、この城も…?」
リディアは震える手先で、一句も漏らさぬ様にローザの手紙の内容を確かめている。
「リディア様…!?」
差し出された手紙は魔導師の文字ではなく共通語で書かれ、バロンの印章とローザの署名がされていた。リディア以外の人間に注意を促す狙いがあるのだろう。
三人は手紙を受け取り、覗き込んだ。

 
『―――リディア
 
幾つか気になる話があるので伝えます。
今から言う事に何か関わりがある様なら、すぐに行動を起こした方がいいわ。
 
まず、ミシディアが一人の魔導師を拘束しました。
バロン貴族の依頼で、禁忌の品である兵器『ボムの指輪』を作ったとの事。
それが海商人を通じエブラーナへ入った様です。この者を拘束し取調べを
した所、エブラーナ王族を名乗る者に頼まれ、高値で請け負った、との事。
その者は『国賊征伐』目的と言い、王家の印章の入った杓を示した様です。
 
その貴族の名義で、エブラーナのエノール港より、バロンへ輸入品運搬船が
10隻入港予定と記録があるのですが、実際こちらには向かっていない様です。
バロン近隣の港では、そう言った船は一切目撃も入港の記録もないと。
船の記録を改ざんし、どこかでその船が悪用されている可能性があります。
 
あと、これは関係あるのか…
少し前、エブラーナからアガルトに行く船に魔導師が保護されました。
その者はミシディアへの渡航を強く希望しており、アガルトの漁師が
ミシディアに届けたとの事。もしかしたら、関係者かもしれません。
 
リディア、今すぐ、エブラーナの城の守りを固める必要があります。
この手紙を、信頼できる人に見せてください。
動きがあったら一言でもいいわ、すぐに伝えて下さい。
 
                     ―――――ローザ・ファレル 』
 
 
「これは…禁制の兵器がエブラーナに入り…これ、エッジ様を焼き討った兵器の事!?更にエノール出港の船が悪用されている可能性がある、と言う事は…」
頷いたきり、震えるリディアの身体。
「これは…これは村一つ、焼ける程の力があるの…」
「何ですって!?そんな物が…家老様に報告しましょう!!カレン、一緒に来て!!」
カレンとアイネが部屋を飛び出すと、リディアは椅子に倒れこんだ。
 
―――間違いない…ボムの指輪…!
 
ミストの村を焼き払った、忌まわしい魔物の兵器。闇で高額で取引される、禁忌の品の一つだ。魔物による焼き討ち、と言ったらそれ以外考えられない。そんな物に、まためぐり合うなんて。
 
「リディア様!?」
カーテンの引かれた自分のスペースに入り、手早く服を着替えるリディア。
「城の外を見てくる!!」
オルフェはとっさに、その手を強く掴んだ。
「いけません!!お留まり下さい!!」
「だって、今にも誰が来るか判らないのよ!?」
 
しかし細身の魔導師は、普段の穏やかさとは裏腹に力を緩める事は無かった。

「いけません。今のあなたは―――王族も同然です!!ここに居るのはご本意ではないのかもしれない。でも、今は、あなたしか居ないのです!!」
「どうして!?私、まだ何日かしかここにいないよ。幾らでも皆―――側近の人とか、家老さんとか、エッジを支えてきた人達が居るじゃない!!私は何もないよ!!城が焼かれたらどうするの!?あの指輪―――」
「リディア様!!」
 
―――!!
 
普段は穏やかな目の厳しさに、リディアは我に返る。オルフェに掴みかかりかけた手を離し小声で、ごめんなさい、と呟いた。

「…ご心労もさぞと思います。ですが、エッジ様はあなた様を頼られて、あの様なお願いをされました―――勿論簡単な話ではないと、あの方も判っていた。エブラーナ国内の身勝手な事情である事、承知しております。ですが…そうせざるを得なかったエッジ様のお気持ち、どうかお汲み取り下さい。」
「…あ…」
膝をつくオルフェの姿。
 
―――どこかで…
かつてのローザの言葉。氷の壁の前で、幼い自分の前にひざを着き、優しく顔を覗き込んでくれたローザの姿。
 
―――リディアお願い。勇気を出して!この氷を溶かせるのはあなたしかいないの!!

ボムの指輪のために、恐れていた炎。自分が炎の魔法で、氷に閉ざされた山の入り口を開く事が出来たのはローザのお陰だった。
 
―――リディア。今は私達の分まで、エッジを助けてあげて―――
―――リディア―――城を頼んだ―――
 
強く杖を握り締めていた指を、一本一本緩めてゆく。
 
―――私はここから…離れちゃいけない…よね…

「…うん。判ってたの…」
リディアは閉じていた目を開いて、オルフェに答えた。
「私の母は火事で亡くなって、だから…街が焼けるって思ったら…ごめんなさい。だからもう立って、ね?」
 
瞬間に、胸に去来した様々な思い。
村を焼いた指輪。それを持ち込んだセシルに対しての憎しみは今は完全に信頼に変わっているが、あの出来事が忘れられる訳はない。
「ごめん―――でも、あなたでよかった。何だか、セシルに怒られたみたいだったよ。」
「…リディア様?」
 
そして、オルフェが立ち上がると同時に、部屋には家老が走りこんできたのだった。
「リディア様!!!こ、この手紙は…」
「はい。紛れも無く、バロンの次期王妃ローザ様からです。ごめんなさい…勝手に情報収集をしてしまって…」

秘密裏に進めてはいたけれど、さすがにもう隠す訳には行かない。余計な事をしたのかと、いささかばつの悪い思いもある。
「と、とんでもございません!!実は、先ほどのエッジ様陣営の焼き討ち…どうやら禁制の兵器が使われたらしい、との事でしたので、おそらくこの指輪かと!なればすぐにもう一つ、海岸の監視を強める必要があります。わたくしどもで城下に残った隊は動かすしかありません。」
「…私に出来る事があったら、教えてください。」
自分が口を出すなど、おかしな話かもしれない。ちらりとオルフェに目をやり、つぶやく。
「これで、いいのかな…」

見えない敵。だがそれは確実に、エブラーナへ近づいている。
そして先日自分達を襲った魔導師の遺品を調べた所、恐らくは自分達で作った杖とローブに、ミシディアの特徴が見られるのが判った。まさかあの国が何かをたくらむ事は無いだろうが、何処が敵なのかもわからない。ミシディアに渡航した魔導師は、関係者なのだろうか。
 
「オルフェ…あなたが私の代わりに、城下に行く事は出来る?」
「可能ですが…どういった事をすれば…」
自分の持っていた星屑が模された小さな杖を渡したのだった。
 
「城下を見回って、魔術的な仕掛けがないか調べて欲しいの。この間、城の外を回った様に。例えば城下に、外で見たような魔法陣が作ってあったら、小さな物でも爆弾や…炎や毒の魔法を直接送ったりできる。だから―――」
杖を軽く振ると、先端から星屑の様な閃光が迸る。

「これで魔力を増強すれば、大体は探知できるし塞ぐ事も出来る…あと、魔力をここから込める様に放出すれば、小さな光の弾が幾つも飛び出す。炎の属性はないから、火事の危険は少ないけど…どうしても、って時に使って。」
オルフェは、高等な魔法の込められたロッドを前にやや戸惑っていたが、やがて頷いた。
「判りました。では、城下に赴きます。」
「気をつけてね!!」
 
オルフェを見送り、リディアは息をつく。シルフからエッジの無事は聞いていたが、それがなければと思うと寒気がした。
敵はまずエッジを殺そうとした。少数民族独立と言うのは兵を集める建前だろう。相手の目的が最初からエッジ、そしてエブラーナ城と思えば全て納得が行く。回りにあった小さな魔法陣は、城内、城下に出入りした残骸。城に奇襲をかけるのなら、無防備なうちに城下に何かしら攻撃の準備をしてあってもおかしくない。再び作られたエブラーナの城壁は堅固だ。投石器や火器よりも、内部から壊したほうがいいだろう。

港町に入り込んでいたなら、恐らく相手がいるのは海。エノールの街を支配し、海運記録を改ざんし物資や兵を集め、密かに計画を立てていたのだろうか。エブラーナ城は海から近い。しかも、今回の内乱では城内の兵を集めた為、港は無防備な状態になっているはずだ。
 
―――全ては戦の準備…
―――エッジと精鋭をこの城からおびき出し、始末し、そして―――
 
「この城を、奪う気なのね…」
エノールの街でのエブラーナ国軍への侮辱。味方を犠牲にしてまでのその策略、エッジの気性を良く知っている。恐らく出陣してなくても、あの話を聞けばすぐに城を飛び出したはずだ。そこを焼き打つつもりだったのか。
幸いにも難を逃れたエッジは今、エノールへ向かっている。命を奪うという狙いは外れたものの、城は手薄になりエッジは城から最も遠ざかった。まだ城内にも守る兵はいるだろうが、エッジが居ない今、少ない人数でどう統率を取ればよいのか。
 
「リディア様…」
戦支度を終えた女官2人が部屋に戻った。
「家老様よりのお言伝でございます。大事があった時は、リディア様は、お城をお出になってはいけません。もしもの場合は、魔力をお使いになり、お落ち下さいます様―――」
「わかったよ。」

そう言いながらも、既軽装の若草色の服に袖を通す姿に、二人は苦笑する。
「…と言ってもお止めは出来ませんわね。何処までも、お付き致しますわ。ね。カレン。」
「勿論です。」
「ありがとう。あなた達も、だめって行っても来ちゃうよね。」
「言わずもがな、です。」

カレンがごそごそと包みを取り出し、いくつかの砂糖菓子を二人に手渡した。
「貴族用のお菓子から、失敬しちゃいました。いいでしょう?食べちゃいましょう。」
「ちょっとカレン~…ま、逃げ出されてしまった方々ですもんね。」
「そうだね。ちょっと元気、出さないとね。」
 
三人の顔に、笑みがこぼれた。



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エノールの手前にある集落で、情報収集をしていたエッジの元に、
エノール駐留隊からの知らせが来たのは、出陣二日目の事だった。
 
「何だって…!?」
エッジは報告を聞き、立ち上がった。
「…恐らくは、交渉に出向いた反乱勢力の代表は捨て駒だった、と言う事でしょう。」

爆発に巻き込まれたエブラーナの護衛が一人、奇跡的に一命を取りとめ、意識を回復した。そしてその報告内容は、驚くべき物だった。

先日の反乱勢力との交渉で、互いの代表者は5人の精鋭護衛を引き連れ、街の商工会施設で席に着いた。しかし、その護衛の見た限りでは、反乱勢力の代表で来たのは商人風の男であり、代表格の様には見えなかったと言う。
 
特に衝突もなく要求を出し終わり、皆が席を立とうとした時、その護衛は出口に一番近い所に居た反乱勢力の護衛の兵士の様子がおかしい事に気が付き、駆け寄った時には遅く、兵士の手元から炎が噴出し辺りは火に包まれた。
そして、施設が爆発したほぼ直後、エブラーナ軍は当然それを敵の策略と取り、反乱軍への攻撃を開始したのだった。
「兵士に化けた魔導師だった、って事か…だが何故味方まで!?」
「…爆発直後、一人の兵が火傷を負って駆け出して来たと聞きました。恐らくその魔導師でしょう。」
その男は、外へ出るなり両軍がぶつかり合う中、取り巻いていた街の者たちに叫んだのだった。

『エブラーナ軍の裏切りだ!!』と―――

「な…に…!?」
「本来、席に着くはずの将校が、身代わりを立てた事が裏目に出ました。街の者は我が軍が先制をしたと言う事もあり、こちらが交渉の場で反乱勢力の暗殺を企てたととらえてしまった様です。」
そして驚くべき事に、エブラーナ軍の中にも、反乱軍の暗殺を企てていた…と言う偽の情報が末端のごく一部に流されていたのだ。出所ははっきりとせず、それは恐らく、軍の混乱を狙った敵の作戦。
だが、事実確認などの混乱の中、それはほんのわずかに後発の情報としてエッジの元に送られる事になってしまった。
それは、事実確認の間第2陣の情報になるだけでも、致命的になる内容だろう。
 
―――俺達を貶めたのか…仲間を犠牲にしてまで…
 
エブラーナ国軍への侮辱。八つ裂きでは済ませたくない程の屈辱。手近の台を叩き割りたい衝動だが、唇をかみ締めて怒りを押し殺す。
「許せねぇ…そんな卑怯なやり方!!王家を名乗るヤロウは何処に居るんだ!?」
「街を密偵に探らせていますが、姿を見せません。しかし爆発後に、反乱勢力に若干の乱れが見える様です。統制が取れていない様子が見えると。」
 
統制がとれなくなった。それはどう言う意味だろう。首謀者が姿を消したのか。それとも、反乱勢力内で想定外の事が起き、あの爆破の中に首謀者がいたのか。

「…とにかく全力でそいつを探し出せ。山中も含めてな。あと、船の出入りもだ。そこまで策を立てて…相手は少人数と思うなよ!!」
「心得ました」
 

近衛兵隊長ガーウィンが、エッジを案じて側に歩み寄った。
「エッジ様…一体敵の目的は…」
「…ああ。少数民族の事だけなら、そんな事する必要はない…狙いは一体…」

――― まさか… もっと、大きなものを?
 
その時だった。
 
ドン、と言う鈍い音が響き、地面が揺れる。幾人かがふらつき、あやうく倒れそうになった。

「な…地震か?」
兵士達はざわめき、外の様子を確かめようと駆け出した。しかしそうするまでもなく、陣営全体の空気が熱せられてゆく。ピリピリ、ピリピリ、と何かが力を発する気配と共に、見る間に所々から小さな炎が噴出した。
「な、何だこれは!!」
明らかに忍術や火器の類ではない。兵達に動揺が走る。
 
―――炎の魔法か!?
 
急いで外に出ると、そこに居たのは、陣地を縦横無尽に駆け巡る無数の火の玉。向かって来た一つをエッジが斬り払うと、それは悲鳴を上げ、吊り上がった目を向けた。
―――ボム!?何故こんなに沢山!?
 
「隊長!!魔物です!!見たことも無い魔物の襲撃が!!」
「ばかな!!何だこの魔物は!?」
この辺りは獣から姿を変えた魔物が多い。
多くの兵士にとっては、ボムは見たことも無い魔物だ。いるはずの無いものが、自然に集まり人間を襲うなど考えられない。明らかに襲撃だ。
 
―――なぜそれがこんな所に!?
 
いくら魔法を使う敵とは言え、召喚には及ばないだろう。たった一つ、名前を聞いた事がある兵器が思い浮かんだ。
 
―――確か…ボムの指輪…
 
魔導師に作られた禁制の兵器。多数のボムの力を秘め、小さな村なら焼き尽くせる力を秘めた指輪。リディアの村を、焼いた指輪。目の前に広がるのは、話に聞くその指輪の威力そのままの光景。
 
―――まさか…

それは大陸の禁制の魔術兵器であり、当然、輸出入は禁じられている。統治者クラスの許可なく製作する事はできないのだ。だが、統治者、と示せるものをもし持っていたとすれば、或いは、名乗るだけの根拠があるならば―――
それが示す事は、”敵”は、王家の末裔を名乗るだけの者ではないと言う事。
 
――― 迂闊だった… 敵は…本物、だ。
 
だが、と向き直る火の玉。
ボムを打ち落としながら、歯噛みする。個体の力は弱い。問題は、数だ。エッジは力を溜め、一気に空へはじき出した。
「雷迅!!!」
周辺にいたボム何匹かが、悲鳴を上げてはじけ散った。
「こいつらの一体の力は弱い!空中で爆発させろ!!絶対に近づくな!!」
兵士達は我に返り、ボムを打ち落としにかかる。幾つもの、小さな爆発が起きた。
「おもしれぇ…とことん汚ねぇやり方でやろうって言うのか。やってやろうじゃねぇか!!」
エッジは、空に向けて、再び力を溜めだす。
 
かつてルビガンテと戦った時、エブラーナの精鋭忍者隊は、次々に炎の中に飲まれ、その身を焼かれていった。その記憶が、一瞬エッジの脳裏によぎる。
 
―――くそっ!!!
―――たまるかよ…繰り返してたまるかよ!!!


再び雷の力が宙に放たれると、更に大量のボムが爆発して消えて行った。しかしボム達の勢いは凄まじく、炎を撒き散らしながら手当たり次第に兵達をなぎ倒してゆく。だが、術や刀で対抗できる敵の数ではなかった。
 
―――ここで武器を消耗したくはないが…
 
「影に隠れろ!!ガーウィン!!!!」
「はっ!!」
近衛兵隊長が兵達に準備の合図を送ると、エッジは空中のボムに煙玉を幾つか放った。小さな粉塵爆発が起こり、何つかのボムが墜落する。白く煙った空中には、視界を塞がれたボム達の影が右往左往してるのが見えた。
「長くはもたねぇ、一気に打ち落とせ!!」
それを合図に、一斉に矢やくない、手裏剣が放たれる。
元々投び道具の扱いは、世界の軍隊では類を見ない腕前であるエブラーナの兵の力は空中の魔物には強大で、やがてボム達は跡形も無く消え去ったのだった。

「エッジ様、お怪我の方は!?」
「俺はかすり傷だ…それより、怪我してるのはどれ位だ?」
衛生兵から薬を受け取り、軽くやけどをした頬に塗る。
「は…命に影響があると思われる者は少ないです。しかし、数名重傷を…」
「…ちくしょう…」
陣営は焼かれ怪我人は出たものの、精鋭部隊とエッジ自身は殆ど無傷のままだった。だが、あの数相手に運がよかったとしか言い様が無い。
集落の外れに、反乱勢力の人間と思われる男が焼け死んでいた。恐らくは、この男が指輪を持ち込んだのだろう。
「あの者…また仲間まで犠牲にしましたな。是が非でもとらえねば…」
ああ、と隊長の言葉にエッジは頷く。敵はどこまで姿を隠すつもりなのか。
「ガ-ウィン。兵を城にも送る。一応、守りを固めたほうがいい。」

急いで使える矢や武器を回収し、兵を集めると、新たに指示を出したのだった。
「重傷者はこの陣で待機だ!騎兵1隊は俺と近衛兵と共にエノールへ向かう。到着次第、エノールへ隊を突入させろ。住民には危害を加えさせない様にな!残った者はエブラーナへ戻り、城門を閉ざして城の守りにつけ!!」
 
―――狙いは…俺か!!
 
明らかに命を狙っての事だ。まさか、あれ程の物を持っているとは。何処で手に入れたのか判らないが、恐らくは相当値の張るものだろう。
 
―――『港の修理に700万ギルか…高くねぇかな?』
―――『王族用の魔術兵器輸入!?あ、書類違い扱いか…』
 
そうだ。今まで気が付いてなかった。ああ言う事で、国家から金が流れていった。恐らく、あの街に何年も前から巣食っていた反乱勢力の分子に―――
 
敵の本隊は何処にいるのか。万の大群と言う事はないだろう。もしそうならさすがに情報がもれない事はない。既にエブラーナへ向かっていたら、街道をそれたとしても隊を見逃す訳はない。
エノールの港からは、多数の人間が出入りした様子はないと言う。街を制圧し、そこの大将を捕らえるしかない。

「エ、エッジ様!!ま、魔物です!!」
「何!?」
まだ居たのか、と振り返ると、そこに漂っていたのは、魔物と言うには小さい光の玉。
「うわあああっ!!」
しかし初めて見るその物体。兵士達は光を中心に何歩か丸く下がっている。
「いやこれは…シルフ…か?」
現れたのはリディアの召喚獣。
「…様子を見て来いって?ああ、俺は大丈夫だって伝えてくれ。あとじいに、兵を少し戻すから、城の警護に充ててくれってな。そうだあいつらにも色々…何、難しい事は判らない!?ん~、じゃあ、俺は平気っのと兵の事だけでいいよ。えっと、あとリディアに…あ、いやいやこれはいいか。じゃ、頼むぜ!!」
  
小さな妖精と話すエッジの姿を、何とも不思議そうに円形に離れたまま見つめる兵達。だが程なくそれは終わり、さっさとエッジはハヤテに飛び乗ったのだった。
「よし!!出発するぞ!!」
「はっ!!」
 
―――リディア…城を、エブラーナを頼んだ!!

エッジははるか遠く東に霞むエブラーナ城を振り返ると、エノールの街へ出発した―――
 


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tommy
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自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
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