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ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
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「そ…んな…」

エブラーナの民は誇り高い民族、と聞いた事はある。
少し前の時代まで、主君の為に自害する事も美徳とされ、敵に捕まり辱めを受けるならば死を選ぶ、と言う風潮もあった。
そして更に、王位を狙うものとあれば、現在の王族に関わる者達は殊更に非道の限りを尽くされ、見せしめになぶり殺されるのは眼に見えている。

でも、とリディアは激しく首を振る。
「駄目だよ!絶対駄目だからね!?そんなの許さない!!エッジは必ず帰って来るって!!だったら私も出陣する!!お城を追い出されてもいい、私も戦いに行くから!!」
エブラーナを統べる一族の名は、長い歴史の中で何度も代わって来た。戦が起こればどちらかが全滅するまで戦い、滅んだ一族の家臣は自害した。勿論古い時代の話だが、ならず者の非道な侵略に甘んじる位なら、命を絶つ者も多いだろう。

―――だから…あんな事言ったの?

エッジが民に希望をと望み、家老が自分に頭を下げ、恥を忍んであんな事を言った理由。

―――希望ってなんだろう。

―――例え逃げる事になっても…

「家老さん…ねぇ、家老さん、私、エッジの子供…産んでもいいよ。」
思わぬリディアの言葉に、へ?と家老は大きく目を開く。
「えっと、ね、その…私…あんまり丈夫じゃないんだけど、それでもよかったら、エッジのお嫁さんになっても、いいかなって。だって家老さん、そうして欲しいって言ってたよね?」
「へ、は、はい…そうですが…しかし今はそんな望みはもう…い、いやしかし…」
家老は一瞬、何時もの調子を取り戻したのか、腕組みをして首をかしげる。

「いや、しかし、ある意味悪行の限りを尽くして来た若様の奥方候補は、もはやリディア様以外には…何より、その言葉にはこのじいも何やら元気が…」
悲壮な雰囲気に沈んでいた他の者達も、固唾を飲んで続きを待っていた。
「だから、自害なんてやめよう、ね?もし、どうしてもなら、負けそうになったら皆で逃げよう。エッジも一緒に逃げて、また取り戻そう!ルビガンテとの戦いみたいに!それでいいでしょう?」

「リディア様…」
カレンは、この場に不似合いな笑いを噛み殺して近づいてきた。
「ね、あ、あのさ、カレンもそれでいいでしょ?」
「いや、って、リディア様…本当になってもいい、って…」
ぼたぼたと、その目から涙が流れる。
「まさか私たちが…本ッ当にエッジ様の結婚『ごっこ』しているとでもお思いでしたか!?もう!!私たち必死だったんですよ!?今だってリディア様いなかったら、とっくに穴掘って逃げてますわよ!!二度とこの私たちの本気を疑わないで下さい!!ね!?」
「カ、カレン、苦しい…」
カレンがむせび泣きながらリディアに抱きつく様子に、やれやれ、と家老が息をついた。

「…まぁ、致し方ありませんなぁ。この様な一大事に城の中にお留まり頂いたとあっては、そのまま国にお返ししてはエブラーナの評判に関わります。おまけに、有事の際の城内の様子と言う機密事項も目撃されては…」
それに、と続け、ふふんと家老が鼻を鳴らす。
「リディア様にはいい地位について頂かなくては、尻尾を巻いて逃げ出した貴族どもの鼻を明かせませんわい。」

がたん、と扉が重く開く音がした。
「…決まりですね。これから先の事…そして、皆が助かる事が、エッジ様のお望みです。」
「オルフェ!!」
開け放たれた扉にいつの間にか立っていたのは、城を出たオルフェだった。爆風にもまれたのか全身に小さな傷を負い、城下への攻撃の激しさが、その姿に刻まれていた。
「あのお方が大儀を承知で、貴女様にこの様な役をお願いしたのは、ご自身に大事が起ころうと皆を助ける為―――そうであればこそ、です。私は、そのお心に背きはしません。先代の王もかつてのルビガンテとの戦の時、例え王族が滅びようと、一切の自害を禁じました。だから我々も、最後まで…」

静かに決意を告げる低い声。リディアは涙を浮かべる。
「オルフェ…無事だったのね…ごめんなさい、こんな時に…」
張り詰めた心が緩んで行ったのか、部屋から次々に嗚咽がもれた。

「オルフェ、城下の様子はどうだったの?炎が上がってた。あれは、誰かが侵入したの?」
「いいえ…城下の至る所に小さな魔法陣が発見されました。その大部分は、薪置き場などの燃えやすい所、また、目印となる様な大きな貴族の屋敷―――恐らく敵は事前に侵入し、目立たない所でそう言った工作を行っていたのでしょう。そこから魔力自体を転送し、発火した物と思われます。また、幾つかの火薬の入った箱が、路地裏などに放置されていました。今街の者は、不審な場所や物を総動員で撤去しております。」
「そう…よかった…」
「それから、城から飛んできた霧の竜は―――翡翠の姫の御使い、と噂されている様ですよ。」
未だに後ろからリディアの首にしがみついていたカレンは、やっとその手を離す。
「リディア様は“魔法の国のお姫様”と言う事ですしね。城下では。」
「はい。おかげで街の者は、勇気を頂いた様です。」

ほんの少し、広間の空気が緩む。次にオルフェは、家老に向き直った。
「家老殿。城下では、街の者が多数負傷しております。病院や―――神殿、寺院も炎に巻かれ、収容の施設が間に合いません。城門の前の広場まで、民は避難してきております。…どうか城門の中…第二城門の中まで、入城をお許し下さい。」
「城に民を…か…」

第二城門。中庭の手前にあり、自然の雰囲気をかもし出した庭だ。
手入れされた木々の中を城下町へと通じる道が通っている。光は入るが木陰もあり、王族散策用の小屋、泉もある。場所も広く、臨時のテントを張れば避難には最適だろう。
「確かに、この城下の状況ではやむを得ぬ…しかし…我らでは…」
「お城のこう言う事を管理してるのは誰なんですか?庭師の頭さん?」
リディアの素直な問いに、家老は目を丸くする。

「いえ、しかし将校や宰相はこの様な問題は…あえて言うならエッジ様しかおりません…」
「救援物資はあるんですか?」
「城の中の物は限りがあります。救護班は軍に付き…」
逃げ道はなく、明日にでもまた攻撃があるかもしれない状況だ。その場の皆も頷いた。

「…確かに。貴族の反対はあるでしょうが…それでも緊急事態じゃな…。宰相将校と共に、わしらが貴族達は説得しよう。そなた達は物資と救助の準備を。」
家老の言葉を受け、兵・女官・侍従達は一斉に物資の手配に走りだした。
「ま…待って!!私も手伝うよ!!」
走り出した侍従の3人の後を、リディアは息を切らせながら追いかけるのだった。

意外にも、城門開放に反対する者は居なかった。反対しそうな城に出入りしている大貴族達は逃げ出していた、と家老達は呆れ顔しきりだったが、さすがに罪悪感があったのか、援助、寄付と置いていった彼らの土産―――資金や食料、簡易テントなどはありがたく頂戴する事にした。

間もなく夜半に城門が開かれ、城下の民は次々と城の庭に入り込む。その夜、リディアはローザに状況を知らせる短い手紙を書いて送り、再びシルフを召喚した。
「エッジを…助けてあげて。お願い…」
妖精は頷くと飛び去ろうとしたが、不意に振り返り、リディアの耳元で何かを囁いた。リディアは赤くなりながらも、その言葉を聴いている。

「もう!!…仕方ないなぁ。じゃあ、私もだよ、って伝えておいて!!それで元気になるなら!!」

―――王子様はいつでも、お前を愛しているよ。

何を悠長な事を言ってるの、とリディアは一人、頬を膨らませた。そんなの知らない。

―――どうでもいい!とにかく、あんたに生きて帰って欲しいの!!皆の為に!
―――でも…明日はどうなるかわからない…
 
妖精が飛び去ったのを見届けて、リディアはベッドに入る。例え明日どれ程の事が起きようと、今日は眠った方がいいだろう。

 


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プロフィール
HN:
tommy
性別:
非公開
自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
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