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ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
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15
 

――― そしてその夜。

バロン城下はお祭り騒ぎとなり、貴族の家では次々と、花火が打ち上げられていた。
戴冠式後の晩餐会も終わると、セシルとローザを囲んで気心知れた仲間だけがサロンに集まり、既に目も当てられぬどんちゃん騒ぎとなっていたが、リディアは一人中庭で、風に当たりながら打ち上げられる花火を眺めていた。

「リディア様~~~!!こちらですわ!!」
ふと、声に振り返ると、2階の部屋からアイネが身を乗り出し手を振っていた。懐かしい女官の顔だ。来ているのは聞いていたが、式からの流れは早く、会いに行く事は出来なかった。

「あ!!!久しぶりだね!」
「今、そちらに参りますね!!」
アイネは周囲を見回すと、窓から壁の飾りに足をかけ、軽やかに地上に降り立つ。
「またお会いできて嬉しいです!リディア様…皆待ってたんですよ…」
カレンとは違い、感情をあまりはっきり出さないアイネだったが、流石に嬉しい、という気持ちは今は隠す必要は無かった。
「ごめんね、連絡もしなくて…」

リディアの言葉に、女官は首を振る。
「いえ…100日待った甲斐がありました…それより、お一人なのですか?皆様は…」
「うん。まだサロンで…私は、もう休もうかなと思ってさ。もう、流石にローザもダウンしちゃって、男の人たちなんて裸踊りとか始めてるし、私、お酒飲めないし…」
その裸踊りの中心に誰がいるのかは明らかだ。アイネは頭を抱える。幾ら気心知れているとは言え、王子としての公務中に自国以外でそんな真似はあまりして欲しくない。しかし、リディアと再会できた喜びもあるのだろう。
「あれ?カレンは?」
「ええ…何か、疲れたとか言って爆睡してますわ。」

ドーン、ドンドン、と響く花火の音。かすかに、ズゴゴゴゴと言ういびき。
「折角だからこの花火、見ればいいのに。私は見ていたから、リディア様に気がつけたんですよ。」
一際大きな赤い花火が空に華やかに広がる。
「…綺麗だね…」
「そうですね…」

―――それにしても…
―――まったく、何してらっしゃるのかしら。ウチの王子様。

エッジ様もちょっと抜け出して、この空の下、二人で歩けばいいのに。そんな事をふと思ったアイネが、なんとなしに庭の隅に目をやると。
「リディア様。バロンは城の中には魔物を飼っている…とか無いですよね?」
「へ?ない…よ。そんなの…」
同じほうに目をやると。頭から大きな袋を被り、腹全体に顔―――目鼻の付いた妙な生き物が、庭の隅からこちらを伺っていた。

「へ…?」
ぴょん、ぴょん、と飛び跳ね近付くその珍妙な物体。しかし、近くまで来ると、一気に跳躍しリディア達の目の前に着地する。
「きゃぁあああ!?何!?魔物!?」
そいつにあわや組み付かれ、声を上げて固まるリディア。
「な、何この…!!リディア様!」
アイネが化け物の頭と思しき部分を打ち据えると化け物は恐ろしい勢いで飛び退る。
「な、何者…素早い…!!」

なおも化け物は二人をからかう様に、ぴょんぴょんと周りを回り出していた。再び組み付こうと近付く化け物に、頭上から飛び掛る影。

「そんななまっちょろい攻撃じゃだめよ!!下がりなさい!!!!」
「そ…その声は」
「お久しぶりですリディア様!!その者の相手はこのわたくしが!!」

バサッ、ドスン、と上から黒髪の影が間に落ちる。地上に降り立つと同時に、震脚を繰り出し、構えるのは懐かしいもう一人の女官。
「化け物め!!この私が相手だ!!!さぁどの様にしてくれるか!!!」
「あの構えは本気…ちょっと!!ここ他の国よ!!」
「カ、カレン!!あまり騒ぐと…」

二人の声よりも響く、ドーン、ドーンという花火の音。化け物は流石に怖気づいたのか、慌てて全身に被った袋を引っ張っているが、中々それは絡み付いている様で、くるくると身体を回すだけだった。

「護身開眼―――ッ!!!!!とくと我が技を味わうがいい―――ッ!!!」

と、言いながら勢い良く繰り出された単純な飛び蹴りに、化け物の身体はきりもみしながらふっ飛び、したたかに腰を打ちつけ、更にごろごろと転がっていった。

「ホーッホッホッホッ!!!!覚えたか化け物め!!!」
「カ…カレン…相変わらず強いね…」
花火の音にかき消されて、誰も中庭の騒ぎに気がついていない様だった。
「…さ、コイツの惨めなくたばりっツラ拝んでやりましょ。」
「そ、そうだね…こんなのが城にいたら、皆こまるもんね。」
三人はそっと、ぴくぴくと動く袋の化け物に近づき、袋を剥ぎ取った。

しかし瞬間。全員の身体は一斉に固まる。

「…あ…」
「…エッ…ジ…」
袋をはぐとそこには。
胸部に綺麗に足の跡をつけ目を回した自国の王子が、腹に顔を描き更に体中に『スケベ』『裸の王様』だの、見るに耐えない落書きをされたあられもない格好でのびていたのだった。
「い、生きてるかしら?」
「さぁ…って、生きてないと困るわよ!!」
「エッジ!!死なないで!!!」
ぴくり、とその身体が動く。
「お…お前ら…明日飯…抜きの刑…」
そうとだけ言うと、完全に意識を失ったのだった。

リディアは急いで白魔導師を呼び治療を施すと、あまりにも恥ずかしい格好に布をかけ、三人で台車に乗せて来賓用の部屋にエッジを運ぶ。
「…貴重なエブラーナの外交の歴史に、汚点が残りましたわね…」
アイネがそっと、ため息をついた。







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14
 

いよいよ戴冠式の当日。
エッジは先日、女官2人を世話役にして、バロン入りしていたのだが、最後まで準備に手間取っていた。

「おいカレン!早く毛先トリートメントしてくれぇ~!!それからここ、伸びたのちょっと切ってくれ!!何かみっともねぇし!!」
「何で昨日のうちにご自分でしておかなかったのですか!?大体、当日に髪の毛を切るなんて聞いた事ありませんよ!!」
「ちょっとカレン、切るとか言わないの。結婚式の日よ。」
「おいおい、てめーら手ぇ止めんなよ!!俺の繊細な御髪が突っ張るだろうが!!!」

ゾリゾリッジャキッ…

「…あっ…」
「な、何だよ今の音!!!!」
朝早くから、エブラーナ一同が宿泊している来賓用の部屋からは、扉を閉めていても騒がしい声が外まで響いていた。

「よう、エッジにーちゃん!…って、すげー格好。急がしそーじゃね!?」
「邪魔しちゃだめよパロム!!お久しぶりです、エッジ様!!」
ドアを開けて入って来たのは、ミシディアの代表・長老名代としてバロン入りしたパロムとポロム。律儀に挨拶回りをしている様子だ。

「おう、久々!!」
「へっ、セシルあんちゃんより男前になろーったってそうはいかねぇぜ!」
パロムはエッジの膝元に乗っかり、大またを広げてふんぞり返ったのだった。

「あっれ、そーいやリディアねーちゃんは?確か、エブラーナに居たんだよな?」

ポロムが慌てて、パロムの頭を叩く。勿論、何も知りはしないものの、聡明な姉の察しはいい。一瞬女官2人の手が止まったが、エッジはへっ、と笑いながらパロムを下ろし二人に向き直った。
「いたずらばっかりしてんじゃねーぞ!!特に隣はファブール新王ヤン夫妻の部屋だ。失礼をしたら、山ごもりに連れてかれちまうぜ!!」
「や~~~だね~~~~!!!!」
と、言いつつも。パロムは既に騒ぎながら、ヤンの部屋に向けて突進している。
「失礼しました。エッジ様…」
「いやいや。わりぃな、心配かけて。」
ではまたのちほどと、ポロムは深々と頭を下げ部屋を出ていったのだった。

リディアはまだ、バロンには到着していなかった。
あと1時間もすれば式が始まる。今日はセシルとローザの戴冠式であり結婚式だ。自分がどうと言う日ではない。エッジは女官二人と別れ、戴冠式が行われる大広間へと移動した。
懐かしい顔に挨拶をし、談笑しながらも、頭の中は一つの事で埋まっていた。

「セシル殿、ローザ殿、おめでとうございます。」
「あんちゃん、おめでとう!!」

来賓たちは式の前、セシルとローザの前に並んで祝福を述べる。エッジもまたその列に並んだ。

「よう!セシル。おめでとさん!!」
「エッジ…遠路はるばるありがとう。」

晴れの日だと言うのに、セシルの表情に僅かな気遣いが垣間見え、エッジは声を張り上げ、セシルの肩を小突いた。

「いや、おめーらに礼を言わなきゃいけないのはこっちだしさ。ローザも、今日は一段と綺麗だなぁ!!いや~、いいカミさん貰ったな!!ちょっとおっかねぇけど、な。」
「まぁ!相変わらずね、エッジ!!」
ころころと笑いあう三人に、背後から近寄るのは。
「こりゃこのナマクラ王子が!!ローザに近寄るんじゃないわい!!」
「んだよシドじいさん!!誰がナマクラ王子だぁ~!?うわ、すげー油臭ぇな!!」
かつての様な仲間のやり取りに、その場の皆が笑いの渦に包まれていた。

―――待っていると、一秒も長いもんだな。全く…
―――こりゃあ本格的に、幻界に行く手はずを整えるか、な。

席は上座に設けられ、後ろを向かないと入り口が見えない所。

―――みっともねぇから、前向いてよっと。

いよいよ皆が席に着き、戴冠式の始まりを告げるラッパが響くと言う、その時―――

「!!ま、待って!!廊下から…だれか…」
ローザの、突然の制止の声。一同は訝しげに前を見るが、ローザの目は後ろの扉に向けられていた。静まり返ったフロアに響く微かな急ぎ足の音。
「やっぱりそうよ…来るわ!!」
その声に答える様に、静かに、けど急いで背後の扉が開かれたのだった。

「遅れて、ごめんなさい!!」

息が上がった様な声は普段とは違うが、紛れもなく一同には聞きなれた声。
「リディア…間に合ったね!!」
「来てくれたのね!リディア!!」
一同から歓声が上がるも、最前列の王子だけは振り返る事が出来ずにいた。

背中越しに、懐かしい足音が急いで通り過ぎるのが判る。ローザは前に駆け寄り、少女の手を取った。
「ローザ!!セシル…結婚おめでとう!!」
背後でもはっきりと、その存在を感じるのに。

「あなたこそ…よかったわ。誰にも知らせがないから…」
「ごめんなさい…あっ、一度、席につくね!!」
リディアはラッパを止めたままの兵士の姿を見て、急いでローザから離れ、エッジの前で足を止める。

「何だよ。」
心臓が早鐘を打っている。しかし嬉しい気持ちが多すぎるのかと判る位、見事につっけんどんな答えしか言葉にならない。
「ちょっと、放っときすぎなんじゃねぇの?」
「…ごめん…その…」
二人の様子を、一応の無関心を装いながらも、その場の皆が注目していた。

「ただい、ま…」
「ただいまって、おめーなぁ!!お、俺がどんなに待っていたか…」
勢いづいて振り向いたエッジの目に入ったのは。

「ご、ごめんなさい!!…って、エッジ…?」
「…」
薄緑のエブラーナ風のドレス。
あの日渡した首飾りをつけた、懐かしいリディアの姿。

―――ああ…

息を呑み、言葉が途切れる。心臓の早鐘は限界を超え、自分の視界がうっすら滲むのを感じ、再び背を向けた。

「へん、かな?この服…幻界で仕立ててもらったんだけど…」
「あ、ああ…と、とりあえず、席つけよ…」
リディアが下座に下がろうとした時、セシルが兵士に声をかけた。
「エブラーナ王子婚約者殿の席を、王子の隣に。」
「お、おいセシル…?!」
ローザも微笑んで、リディアに座るよう促す。リディアは隣に腰掛け、懐かしそうにこちらを見上げていたが、エッジはその姿を見る事は出来無かった。

「ただ今より、バロン新王の戴冠式、および結婚式を執り行います。―――いざここに、神々の祝福を――――!!」

フンファーレと、祝福の音がバロン城内き渡る。城下の人々はバロンの新王の誕生を祝い、歓声を上げるのだった







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 13
 


二人の女官は、真夜中にもかかわらず来客にお茶を入れに台所へ走った。
エッジは手早く頭から水をかぶり、酒の臭いを逃し身づくろいをしてサロンへ向かった。

「お待たせしました。」
サロンには薄暗く明かりが灯されており、奥のソファに来客の姿があった。衣擦れの音が静かに響き、女性はゆっくりと立ち上がりエッジに向き直る。
「幻界女王…アスラ殿…」
エッジはつぶやく様にその面を確認すると、跪いた。女官二人も後ろに従い、膝をつく。

「お久しぶりです。エドワード殿。この様な時間の来訪、ご無礼お許し下さい。」
「と、とんでもない!!こちらからお伺いしなければならぬ所を…」
ベールで覆われた全身は人間の姿だが、佇むのは紛れも無く幻界の女王アスラだった。
「エドワード殿…いえ、エッジ。どうか、共におかけ下さい。心づくしの書簡をありがとう。そのお返事に、こうして参りました。」

「恐れ入ります―――リディアは、幻界の方に?」
ええ、と頷き、アスラは静かに幻界の様子を語り始める。
幻界に帰ったリディアは、真っ先にアスラとリヴァイアの所へ赴き、地上の報告と共にエッジの書簡を二人に渡した。しばらく滞在し、幻獣達に地上で暮らす事を伝えたが、予想外の事が起きた。

リディアが戦に巻き込まれた事を心配していた幻獣達、とりわけ人間の事を快く思っては居ない者たちが反対し、リディアを居住区の一角に閉じ込め、幻界から出さない構えを見せているのだ。
是が非でもセシルの戴冠式に参列したいリディアは途方にくれているらしい。

「私達は、彼女がどこで暮らすかは彼女の意思にかかると思っています。しかし―――」
言葉を切るとアスラはふと、女官の方を見て、穏やかに笑みを浮かべた。

「失礼ながら御人払いをお願いします。あなた方がリディアのお友達ね。お話は、伺っています。」

二人は慌てて、扉の奥に下がった。
シルフの姿も消え、サロンにはエッジとアスラの二人だけが残される。
「エッジ。私がここに来たのは、あなたに尋ねたい事があったから…まず、リディアをあなたの妻にしたいと言う心に、偽りはないのですね?」

その瞬間、気のせいだろうか。穏やかな表情を変えぬアスラの雰囲気ガが、少しだけ険しく変わる。エッジは一瞬、穏やかな気迫を感じ息を呑んでいた。
「御付の方もおりません。この話は、私とあなただけの事にしてもいい。あなたの言葉で、お聞きしたいのです。」

かつて自分に関わった女達の親に、この様な表情をされた事はなかった。王子様、どうぞうちの娘を、と平伏する親達。だがその中には、放蕩道楽者だがお前は王子だからな、と侮蔑を含む者も少なくはなかった。
だが、目の前にあるのは、どこまでも一人の人間としてのエッジを見定めようと、そして覚悟を確かめようとする母の顔。
心臓が早鐘を打ち始め、エッジの左手はその胸を無意識に押さえていた。

―――俺…
―――俺…怯えてるのか…?

「あの…」

俯きかけた顔を慌てて起こすが、アスラの顔を見る事が出来ない。

―――俺が…どれだけ…その、リディアを愛して…いるか…

今しかない。
母親が自ら、単身赴いてきた事に報いる為には、それこそ一晩の言葉でも足りないかもしれない。心臓を押さえた左手を離し、アスラに向き直った。
「何一つ、偽りはありません。確かに王家と言う事で、幻界で暮らすのとは違う苦労を味わわせてしまうかもしれない―――ですが、何があろうと私はリディアを守り、この国を共に治めて行きたいと思っています。」
単純だが、それ以上の言葉が見つからない。
アスラは静かに頷くと、言葉を続けた。

「判りました。ですが、あの子が生きてきた環境や、いきさつはご存知ですね?」
「はい。召喚士と言う特殊な血を継ぎ、7歳の頃幻界へ行ったと。」
「…あの子が幻界であの様な成長を遂げるのは、全くの予想外でした。確かに時間の流れは地上とは違う。幻界で育った人間は、リディアが初めて。成長期の終わりと共に、著しい身体の変化は止まりましたが、人間として無理がある事に変わりはない…それがこれから生きてゆくに上でどの様な影響を及ぼすのか…我々にも予想がつきません。」

アスラは一度目を伏せ、またエッジをしっかりと見据える。
「そして、何よりも…地上の王家にとって問題となろう、不妊と短命をもたらした濃すぎる召喚士の血。リディアが無事な子を…いえ、子をなせる身体かと言う保障すらありません。…よいのですか?王家の血を継ぐのは、あなた一人と伺いましたが。」
恐らく、アスラはエブラーナの歴史を知っているのだろう。果たしてエッジにどこまで、一人の女性が守れると言うのか。ややもすると挑戦する様な口ぶりに、それが伺えた。

「いえ、子をなす以前に、あの子自身、短命と言う事も大いにあります。もしそうなら先の短い人生に、一国の王妃と言う役目は背負えるかしら。あなたも彼女が先立つ事に耐えられますか?リディア程の腕を持つ魔導師は少ないかもしれませんが、それ以上の魅力を兼ね備えた女性は、人の世に幾らでもいます。代わりのものは、幾らでもいるのですよ?」

「な…んで!?」

そのアスラの言葉に、エッジは表情を険しく変わっていった。
「…俺は…俺はそんな事は考えていない!!」
言葉が乱れた事にエッジは一瞬顔をしかめたが、アスラは先を促す。

「…すみません。乱暴になりますが、言わせて下さい―――俺は確かに一国の王になる人間だし、その役目ははたして行きたいと思っている。それは…国を治め残すべきものを、次の時代へ受け継げばいいのであって、その他の事は、子がどうとか先が短いからとか…それは、幾らでもどうにでもなる問題です。第一、女一人大切に出来ねぇで、何で国の人々を守れるのか…自分の妻一人と手を取れない王に、誰がついてくるのか、エブラーナの人間は、そこまで馬鹿じゃない。俺は、あいつ… リディアだからこう思えるから、他の女じゃ…あいつじゃないと、意味無いんです。」

そう、一息に言い切って正面を見据える。
アスラは変わらぬ穏やかな表情でそれを聞いていたが、やがて更に表情を、空気を緩めて静かに頷いたのだった。
「あなたの話は色々聞いてます…勝気で自信過剰。枠にはめられるのが大嫌いな破天荒な王子…しかし軽薄な振る舞いは、正義感と優しさと熱さを隠す為の物、とね。」
「…へ?は、はい…いえ、その…」

やはりお噂通りの方ね、と小さく口の中で呟かれた言葉は、エッジの耳には入らなかった。

判りました、とアスラはまた、僅かに目元に笑みを浮かべる。 
「リディアは…人間です。人から見れば、半永久的な命を持つ我らに比べ、あまりにも寿命が短い。あの子が地上に寄る辺を持てるなら、同じ時間の中で仲間と共に生きて欲しい。そうすれば、あの子が幻界であまりにも短い生涯を終えるのを、目の当たりにする事はないでしょう。」

それは、紛れもないアスラの本心だろう。心の底を明かした二人の間に穏やかな空気が漂い始める。アスラはつと立ち上がり、窓の外を見た。

「もう夜も遅いわね。そろそろ、お暇しなくては―――」
部屋を用意する、と言うエッジの申し出は丁寧に断られた。

「幻界の者達には私から話をします。リディアが地上に戻るかは彼女次第。ですがあなたの誠意は、しっかりと受け止めました。エブラーナも幻界同様、国を閉ざしていた時期があるそうですね、エッジ。一つ所に閉ざされたままでは、国は退廃してしまう。そろそろ幻界も、新しいあり方を考えなければ。また会う日も近いかもしれませんね。」
「アスラ殿…」
「今日はあなたにお会いできてよかったわ…では…」

アスラが深々と一礼すると、周りのシルフ達が一際輝きだす。 エッジは跪き、その姿を見送った―――

 






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プロフィール
HN:
tommy
性別:
非公開
自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
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