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ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
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18


「よ。おはよう。」
「う、うん…」

朝が来るのは、早かった。
シーツに包まったリディアは、珍しく朝の稽古に出かけず裸のまま隣で寝転がるエッジに、ちらりと再び視線を移す。」

「あれ?今日は稽古に行かないの?」
「へ?お、おめー…今この状況で…」

リディアの肌着を取り、ほれ、と手渡すとエッジもベッドから飛び降り、裸のまま、脱ぎ捨てた服を探し出す。
カーテンに隠れて服を着たリディアは、目に飛び込んだエッジの裸体に顔を赤くしたのだった。
「な、何してんの!?早く服着なよ!?」

エッジは構わず、引き締まった全身をさらけ出して目を丸くしたリディアに近づく。
「何…って言うか今更恥ずかしいもないだろ。全部見ちゃったんだし」
「み、見ただけでしょ!?バ…バカッ!!私はデリカシーない人は嫌なの!!ちょっと止めてよ!!信じらんない!!何が裸祭よ!!」

必死で目をそらそうとするリディアだが、あっさりとその腕に捕まり。
「ほれほれ、ハダカーマンだぞぅ~!!」
「きゃああああ~~!!ちょ、ちょっとおおおお!!!」

結局、震えるリディアと肌を合わせるだけで終わってしまった昨日。
まぁどんな薬が効いていようと、リディアの怖がる顔は一番見たくなかった。焦る必要はないんだし、少しずつ、重ねて行けばいいだけだ。

「きゃぁあ!!やめてよっ!!離してってば!!ケダモノ!!!」
まあ、無理やり事に及べば口もきいて貰えなかったかもと思えば、それでよかったんだろう。

―――あ~あ。俺も、丸くなっちまったなぁ…

若かりし頃。夜、しょっちゅう貴族の娘がそれぞれの家などの事情で寝室に送り込まていれたが、おそらくは本人全くその気がなかっただろう娘や、行けと言われて来ただけで、全く持って夜の作法を知らない娘もいたのだった。

そう言った娘達にただ苛立ち、その気がねぇなら親ん所帰れ、と怒鳴りつけた事もあった。
あらゆる方面での理不尽さは判っていた。だが仕方ない、自分はそう言う立場なのだから、女性はもとより、人に心を許す事など、いずれは出来なくなる立場なのだから。

だが自分が裏切られ人の痛みを知り、戦いに身を投じ、初めて王子の名のいらない友と出会って判り合う事を知り、愛する者と出会って、慈しむ事を知った。

―――もう、こいつは離さない。
「リディア、俺、世界一幸せ。」
「離してってば!!私は世界一逃げたいわよっ!!誰か!襲われる――!!」

バタン。
「へ…!?」
その言葉に答える様に開いたドア。二人があっけにとられていると。

「リディア様!今の悲鳴如何しましたか!?待ちかねた狼藉者!!新作・発頸稼働小型襲撃砲の餌食になるがいいわッ!!!敵は!?」
なんか胡散臭い小型の筒を持ってきた黒髪の思わぬ来訪者に、流石にエッジの顔も青くなって行く。

「お、おう…居たのかよ…そ、そうか、メシの時間…か…ははは…そ、それ新作…?」
そう言えば、先日図書館で何か小型の飛び道具を作りたいと言ってた様な。

忠臣は全裸で立ち尽くすエッジと、既に身づくろいを終えたリディアの両方を代わる代わる見、思わず武器をすべり落とす。
一瞬、部屋の誰もが無言になる。

「ち…朝食のご準備が…整いましたので…その…お呼びに…そう言えば昨日、一発決めるって言ってましたよね…ホ、ホホホ…気が利かず…」
「お、お前、そりゃ色々決める、だよ!!」

「いいえっ!!あの、その―――が、頑張って下さい!!」
カレンは相当動揺したのか、そうとだけ言うと脱兎の如くに走り去ったのだった。

「おい!!バカ、違う、見ただけ…ってそうじゃねぇ!!朝食はしまうなよ!!」
エッジは全裸のまま廊下に飛び出し、小さくなる忠臣の背中に大声で叫ぶも。廊下の兵の絶叫。リディアも慌てて、エッジの上着を持って後を追う。
「ちょ、なっ…何言ってんのよ!?早く服着なさいよ――――!!!!」

兵士達の眼差しの中、すごすごと部屋に帰る2人。

「あ、あのねエッジ…」
「何?」
「あの、結婚式…終わってからなら、いいよ」
「へ、何が?」
「その、裸祭、最後まで…」

「リ…リディア、その、裸祭ってのは、別にエブラーナ言葉じゃなくて、その…」
最後まで言い終わる事なく、エッジは卒倒したのだった。


そしてその日の午後。
エッジは臨時の会議を開いて宰相、将校、神職長や貴族の代表達を招集し、リディアを正妃に迎えると公言した。
 
おおむね将校や宰相は賛成に回ったが、貴族の中には、彼女のバロンとの縁の深さや民衆の支持などの利は認めながらも、身分と国籍を理由に慎重な意見もあった。
しかし今回の内乱で城を守り、再び王位三種の神器をもたらした功績は貴族の位を与えるにも等しいと言う事で、まずはリディアに国家功労者として貴人の地位を与える事を条件に満場一致で承認した。

また、バロンの魔導師兵団に将校魔導師を留学させる事、王宮付魔導師オルフェをミシディアに留学させる事―――それらの承認を取り、手続きが始められた。

エッジは部屋にオルフェを呼び、一足先にそれを伝えると、あまりに想像以上の話に若い魔導師はただ目を丸くしたのだった。
「私が―――ミシディアに留学!?」
確かに先日、リディアから、魔導師を外国に派遣する準備を始めたとは聞いていたが、まさか自分が総本山に留学させて貰える、とは夢にも思っていなかったのだ。
「ああ、おめーはやっぱ、バロンって感じではないからな。俺の令は後々出す。まぁ今日にでも、魔導師団の隊長から話は行くだろ。出発は一ヶ月後。大丈夫だろ?ま、無理なら他当たるけど。どう?」
「いいえ―――身に余る光栄です!!」
オルフェは深々と頭を下げる。
「ま、それでしっかり勉強して、うちの国の発展に力を尽くしてくれ。まぁ―――何て言うか、アレだ。」
エッジは彼に背を向けて、ぶっきらぼうに言い放つも。喜ばれるのはまんざらでもないのだ。

「…おめーには、色々世話かけたからさ。俺にはこれ位しか出来ねぇ。最後の最後まで。でも、リディアは俺のカミさんだから。そこは手、引いてもらうから。」
「リディア様は…」

彼に思いを寄せた女官や貴族の娘を次々に横恋慕した時も、オルフェは決して、エッジに対して何かを表す事は無かった。
今になって思えば。修行や読書研究に夢中だった若い魔導師にとって、言い寄ってきた女性がエッジのアプローチに流れてゆくのはさして大きな問題ではなかっただろうが、到底その心の動きが理解できずに、何なんだ恐ろしい、と思った事もあったのだ。

そんな卑屈な考えはしたくないけれども、でも。
今は、例えそのつもりはなくとも。誰にも邪魔はされたくない。穏やかでも頼りになる男にリディアが『弱い』のは、判りきっているから。

「だからぁ…おめーのやりたい事、させてやるから。」
「私は」
オルフェは静かに首を振る。
「エッジ様、何かを思い違いされているのでは。王族の方の様な身分も権力も無く、何も与えられない男に、何が出来るのでしょう?」

身分がないからとは、大した自信だ、と口笛をふく。
「それこそ身分が同じなら、おめーは俺に勝てたかもしれないがなぁ。うん、実に惜しいもんだ。」
「―――エッジ様。この度の任命、ありがとうございました。私は、新王と王妃の戴冠式が早い日に行われる事を心よりお望み申し上げます。」
エッジの言葉には答えず、オルフェは再び頭を下げ、部屋を後にした。廊下の角を曲がった所でそっと、腰に差していた法器に触れ、小さくリディアの名を呼んだ。

「翡翠の姫様に生涯のご恩を―――ありがとうございました―――」
 


 
[101日目のプロポーズ 19]

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17


二日後の夕方。
一隻の小さな飛空挺がエブラーナ上空を激しく旋回し、きりもみしながら城に近付く様子に、エブラーナの人々は何事かと皆家を出て、空を見上げた。
「あーよかった、何とか着いたぜぃ!!よし、中庭に下ろすぞ!!」
「だっ…だからあんたに運転させたくなかったのよぉ!!!」

空中でUFOの如く不規則な動きをしているのは、バロンから送られた小型の簡易飛空挺。
エッジとリディア、女官2人の他には、手土産が積まれている。シドが、運転しやすい様にギアを自動で入れ変えるオートマチックレバーをつけてくれた為、ハンドルとブレーキとアクセルだけで、操縦出来るはずだった。

しかしエッジは、かつて大きな飛空挺を運転した時の感覚が味わいたい!と、途中でレバーをマニュアルモードに戻し、一人運転席を独占していた。リディアは彼の手荒い運転には慣れているが、女官二人は初めての飛空挺。
「神様ぁ!!どうか無事に帰してくださいぃ!!」
「いざとなったら…堀に飛び降りるわよ!!」
「へーきへーき!!うりゃぁ―――!!!!」

ズガガガガ、ドスン、と言う音と共に、飛空挺は中庭に降り立つ。
女官二人とリディアは甲板転げてしまう。エッジもまたバランスを崩したが、身を翻して一人地上に降り立った。
「着地の逆噴射、足りなかったかなぁ…」
「スピード出しすぎなのよ!!」
幸いにも空きスペース内に収まったものの、城に突入してもおかしくはないスピード。手前の茂みから、様子を見ていた家老が恐る恐る顔を出した。

「…エッジ…様?」
「おう、じい!!セシル…いやバロン王からの贈りもんだ!!」
意気揚々と、宝物を見つけた少年の様に飛空挺を指すエッジ。しかし家老の目は、エッジの後方でアイネに助けられて飛空挺を降りるリディアの姿をとらえていた。
「おおっ、リディア様!!」
「家老さーん!!あ…オルフェ!!」
何、穏やかでない名前、とエッジが振り返ると、家老の後ろから蒼髪の魔導師が姿を現す。

「ただいま!!皆に会えて嬉しいよ!!」
リディアは背後のエッジの表情など知る由もなく、二人に駆け寄った。家老は喜びを全身で表し、オルフェは変わらぬ穏やかな表情でリディアに問いかける。
「お帰りなさいませ、リディア様―――エブラーナに、お戻り頂けるのですか?」
「う~ん…私で、いいのかなって思うけど…」

アイネがちらりと見ると、仕方ないと言う表情を浮かべているエッジ。何時もならいきなり間に入りそうだが、随分とたたずまいのある振る舞いだ。思わずカレンと顔を見合せた。
「あのう、エッジ様…」
「あ、ああ、何だ?」
「リディア様のお部屋…どうします?」

そう言えばまだ、リディアがプロポーズを正式に受けてくれたとは伝えていなかった。
そうだなぁ、と鼻を掻きながら、エッジは前髪を息で吹き上げる。さて、どうするか。だがとりあえず、と兵士が運び出しているバロンからの沢山の手土産を指した。

「リディアは俺の部屋でまだいいや。今夜は、ちょっと色々決めなきゃいけないからさ、用は無いと思う。だから、お前らはセシルのから土産に何があんのか見ておいて。国内で禁止されてんのは無いとは思うけど、まだ他の奴らには見せるなよ。まぁ明日でいいから報告くれ。おめーらのは、何があったか教えてくれれば持って帰っていいから。」
「は、はぁ。ではその様に…」
「今日の夕食は部屋でいいや。バロンで昼、ご馳走になったからごく軽くな。」

 一気に二人の表情が緩み、兵士に混じって荷物を運び出すのを手伝いに行ってしまった。ローザから、『リディアを助けたお付の方にも』と持たされた品物があった。おそらくは、二人はそれを楽しみにしているはずだ。それは豪華な宝石やドレスではなく、世界兵法大辞典・民明書房発刊の数々の本と言った、バロンの書庫で、正直置いておいても仕方ないよね的な扱いを受けていた書物や武器ではあるけれど。

―――さて、と…

エッジはオルフェにリディアを部屋まで送る様言いつけると、包みを一つ抱えて別の方に歩いて行った。
「なんだろエッジ。亀なんてバロンで買って…」

リディアはエッジの後姿を見ながら、オルフェと共に部屋に向かう。その時リディアから語られた事は、この若い魔導師を大いに驚かせた。
「バロンより魔法技術指導―――ですか?」
「うん。実現はまだ先の事だと思うけど…セシルとミシディアの長老と三人で色々打ち合わせてたみたい。だからエッジ、帰るのが遅くなっちゃって―――あ、まだ内緒よ!!非公式な打ち合わせらしいから!!」
「ええ―――でも2年後でも3年後でもいい、私も許されるなら―――」
元々、更なる高等魔法を修行したいと思っていたオルフェ。
リディアの力を目の当たりにし、その思いは強まっており、それはリディアにも判っていた。だから窓口が開いたのは伝えたものの、彼がミシディアに留学を命じられる事までは黙っていた。直接、命じられるべき事だ。
 
既にミシディア長老には、オルフェの三年間のミシディア留学の許可を取り付けていた。それを知った時のオルフェは、どんなに喜ぶだろう。 そう思うとリディアは、エッジが彼にそれを伝えるのが楽しみで仕方ない。オルフェは内乱の時に借りた星屑の小さな杖を返したいと申し出たが、すぐにでも、彼に必要になる物だからとそのまま渡してしまった。

久々に城に入ると、兵隊達は突然のリディアの帰還に驚きながらも、総出で迎えの儀の様な形を取り、丁寧に出迎えた。台所番は慌てて帰国の晩餐の準備を始めようとしたが、エッジからの伝言で明日へと変更になり、二人は久々に部屋で、簡単な夕食を取った。

「あ~あ~、久々ののんびりした休憩です!!」
夜着に着替えて、ソファの上に寝転び背伸びをするエッジ。
とりあえず、内乱のごたごたも終わった。後は公に貴族や大臣の承認を取れば、晴れてリディアはエッジの正妃になれる。

比較的王族の権限の強いエブラーナでは独断で話を進める事も出来るが、それではリディアがこの国になじめないだろう。内乱のお陰か、二人の婚姻に大きく反対する者はほぼ居ない様だった。

―――もう、いいよなぁ…

抑えていた非常に口には出しがたい欲求と願いが、頭をもたげた瞬間。
「あのぅ…」
「お、な、何だ!?もう寝るか!?俺と寝るか!?」
咄嗟に先走った期待を口にしてしまい、大きく跳ね上がるエッジの身体。

「その、ずっとちゃんと言いそびれていたけど…連絡しなくて、ごめんね…」
「…あ、そ、そっち。」
「心配、したよね…」
「…まーな。」

リディアは、アスラが訪ねて来た事を知らないのだろう。
幻獣達はリディアが地上に戻るのを反対していたが、女王アスラが、地上にはリディアを守る人がいると告げた事で納得した様だった。

「それから、アスラ様はこんな事も言っていたな。幻界もいずれは、多少なりとも外の世界と交流を持つ様になって行くのだろう、って。」
「そうか…まぁ、どんな世界でも、閉じたまんまじゃどうにもならねぇしな。いずれ人間も、幻界の奴らを普通に受け入れる位、いろんな意味で懐大きくなるかも知れないしな。」

それがリディアの生きている間かどうかは判らないが、絆が切れる訳ではない、二度と会えなくなる訳ではないと、力づける言葉である事は確かだ。
自分に託された娘にかけられた愛情の大きさを改めて感じる。

「リディア。」
「何?」
「…いや、あのさ。ほら、俺が留守の時、皆の前でさ…『エッジの子供、産んでもいい』 …って言ってくれたって聞いてさ。…嬉しかった。」
リディアはその言葉に、慌てて首を振る。
「あ、あれは今すぐって訳じゃなくて!!い、いずれはって話よ!!!」
「まぁ、勿論そうだ。だけどまぁ、今日はほら、色々カタもついてめでたい日でありまして。」
リディアもその言葉にそうだね、とうなずきつつも、いまいち話の流れが掴みきれない表情。

――― 今だ、俺!!!

しかし、全身の気力を振り絞って突き出した言葉は。
「つ、つ、つまるところだ、は、裸で祭り…」
「は、裸祭り!?!?」
エッジの言わんとしている事は通じたんだろう。しかし、リディアはあまりの奇怪な例えに、これはエブラーナ語なのかと必死で思案している様子だった。

―――くそっ!!この大事な時にマトモな口説き方も出来ねぇのか俺は!
―――すっぽんの生き血なんて飲まなきゃよかった…

どうかね、と言う半ばおどけた様なエッジの言葉に思わず噴出す。
「笑うなよ!!いや、一応、格好いい事も考えてたんだぜ!?」
「だ、だって…エッジ…面白い。どうかね、って何が?」
「そ、その、俺と―――今夜はいっちょ…その祭りというのをですね、うん。」
「なーにそれ!やだ、ごめん…すごくおかしい。」

たまらず、ころころと笑い転げるリディア。
つられて拍子抜けした様に笑みをこぼし、その髪の先を取り優しく口付けるエッジ。ひとしきり笑い転げた後、リディアは息を大きく付いてエッジの胸にしがみついた。
「じゃあ…おやすみのキスをして。」
「―――ああ。」
おやすみのキスは、唇に落とされた。いつもの様に軽く触れた後、少し離れる。
「今夜は、よく眠れる様に。」

そう言ってもう一度。唇の先を優しく撫でる舌に一瞬驚いたものの、リディアは肩に入った力を抜いて受け入れた。
「驚いた?」
「う、ん…少しだけ…」

エッジの口元が小さく、おやすみと囁いた。
自分を抱く腕の力が徐々に緩むのを感じた時、リディアの鼓動は急に激しさを増し始めた。離したくないんだ、とほどけて行くエッジの腕と指先から、その想いが流れ込む。
それに答える事はもうできる。

―――受け入れても… ―――良いだろうか…この人を…

リディアの頭が爪の先程、微かに頷くと、エッジの唇が再びリディアに重なった。
―――エッジ…?

徐々に自分の身体にかかる重みを支えられず、リディアは床に膝をついた。普段は饒舌で軽薄に振舞う男が、今は自分を抱く指先を震えさせている。
 
―――任せるから…エッジに、任せるからね。
 
 






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「ううう~」
「なっさけないわね!!自業自得よ!!」

次の日。エッジはずたぼろの状態で目を覚ましたのだった。
朝食も食べられない程の二日酔だった為薬草を貰い、風呂に入り酒と落書きの残りは消えた物の、どうにもこの痛みが納得できないらしい。

「もう!騒ぎすぎなのよ!!」
晴れた昼過ぎ、よく手入れされた中庭を歩きながら、エッジはしきり胸と腰の辺りを撫でたりしていた。昨夜蹴られ、打ちつけた所だ。
「そんな事言ったってよぉ、せっかくの結婚式だぜ!?盛り上げてやらねーと。でもさ、何で俺、胸ん所と腰がいてーんだろ。くっそ~…」
 
ん、とリディアも首をかしげる。
「あ、あのさ…記憶…どこまである?」
「あ?えーっと、シドと腹踊り競争してて、飲まされて…記憶ねぇ。何かあったか?」
頭をかく所を見ると、本当にエッジは記憶がないらしい。女官達は朝からご飯を抜いていると言うのに。

「ないなら…いいんだ。ないんだよね!?」
「おう、全くねぇ。何で?」
ほっ、と胸をなでおろすリディア。あの二人に知らせてあげよう。あの二人の事だから、一日食事を取らないかもしれないけど。
しかし、何か隠し事をしている様子に、エッジの方は何やらは腑に落ちない様子だった。

「…俺さ、昨日何処で寝た?」
「来賓用の部屋だよ?」
「おめーは?」
「隣に居たってば。すごい状態だったんだよ。」
 
ぼろぼろのエッジはいびきをかいて爆睡していたものの、流石に心配になり昨夜は傍を離れなかった。が。その言葉の何を曲解したのか、エッジは何事かに納得すると、何やらリディアに向き直ったのだった。

「リディア…済まなかったな。俺も初めての時はお前のペースで、もう少しムードとか考えてやりたかったんだが…」
へ?と目を丸くするリディア。
「な、何言ってるの?」
「いや、何も言うな、うん。まぁ、俺の記憶が飛んじまう位、激しくなっちまうとは思わなかったからさ…」
「へ…」
「ま、酒に酔った上でもおめーに嘘はついていねぇ。俺は何回も、“愛してる”とか何と言うか、気の利いたいい事を言ったに違いねぇ、うひひひひっ♪」

それは、あまりにあまりの勘違い。一気に紅潮するリディアの頬。

「な、何言ってるのよ!!あんた、どうかしてるんじゃないの!?」
「そうか、どうかしちまったか…そんなおめーの姿が記憶にないなんて勿体ねぇ、こりゃ今夜も激しくなりそうだな!!フフッハ!!」
「バ…バカ―――ッ!!!!」
バロンの中庭に、リディアの張り手の音が響き渡る。

「へ?違うのか!?いや、だからおめー、少し機嫌悪いんじゃないのか!?」
「信じられない!!バカ!エッチ!!あっち行って!!」
「し、してないのか!!なぁ!!じゃあ俺のこの痛みは何だよ!?こ、この胸のデカイ痣はきっと何かしらの…!!!」

その声は2階の部屋にも聞こえ、思わず女官2人は窓の外を伺う。
「変わらず、仲良さそうね…良かったわ。時間空いても大丈夫だったわね。」
「ええ。でも…あの二人、絶対やってないよねぇ。昨日。」
無言のアイネの掌底は、カレンの頬を確実にとらえたのだった。

中庭の中央には、豪奢な噴水が豊かに水を噴き上げていた。夕方が近づき、噴水の影が長く伸びている。噴水のそばに立ち風に乗る飛沫を身体に受けるリディアの身体は、後ろから包まれる。
「ははは。くすぐったいよ。」

―――あ、これ何処かであったかな…

エブラーナに来た日の様な感覚を、リディアは包まれたマントの中で感じていた。
「えーっと、2、3報告が…」
「何?何かあったの?」
「いや、さっき、ちょっとセシルとミシディアの長老と話してさ…こんな事あったしウチの国も忍術だけじゃなくて、魔導師関係にちょっと力、入れようと思うから、協力して欲しいって言ってきたんだ。そのうちウチの優秀なの何人か、バロンの魔導師団に勉強に行かせる事になった。」
「そうなの!?すごいじゃない。じゃあ、オルフェはバロン行きかな?」
「…いや、あいつはバロンって雰囲気じゃねぇな。あれは別で。」
「…?そうなんだ…」

王族の図書館で、高等魔法の本をむさぼる様に読んでいたオルフェ。バロンに学びに行けるなら、本人はどれだけ喜ぶだろうか。戻った時には様々な恩恵を国にもたらすだろう。それなのに、何故。
「いやさ、あいつは、ミシディアに行かせる。」
「ミシディアに!?」
ミシディアと言えば、魔導師の総本山。辺鄙な環境にあるものの、得られる物はバロンの比ではないだろう。

「エブラーナではな、忍術の修行をする者に必ず精神を一緒に説くんだよ。忍術は、己の利の為に使う物ではない、ってな。魔法だって同じだろ。」
リディアは頷く。だから今回の内乱は、掟破りとしてミシディアの非公式な介入があった。本来それほどに、導師の不文の掟は厳しいものなのだ。

「エブラーナも今まで対防衛として、魔法研究に手はつけていた。けど今回ここまで被害を受けたからには、本格的に研究しなきゃいけない。それと同時に…人々の間に魔法は悪いもんだ、悪用できるもんだって考えが広まってしまったら意味がねぇ。手をつけるなら小手先の術の他に、そう言う精神面の修行を指導できる者が必要だ。それはあいつ以外にいない。ガキの頃から知ってるから、人選ミスはないさ。」

これをオルフェが聞いたら、どれほど喜ぶだろうか。自然と笑みがこぼれる。
「それに、さ。おめーは俺のカミさんだから。」
「へ?」
「気が付かなかったのか?あいつ…何かお前の事結構べたべたしててさぁ…いや、まぁ、あの戦の時にあいつに貸した何とかの小さな杖、そのままくれてやれよ。すぐに使いこなす様になるさ。」
勿論だよ、とリディアは答え、更に眉を細めたのだった。

「エブラーナに帰るのが楽しみになっちゃった!家老さんも、元気だよね!」
「ああ。皆、お前の帰りを待っているからさ。」
エッジは頷くと、リディアの頬に置いた手を離し、その指先を取った。
「エッジ?」
リディアは噴水の水がはねるのを見ていたが、珍しくエッジの手が優しく動いている事に気が付き、顔を見上げた。
「なーに?」
くすぐったいよ、と絡める指先を摘むとエッジはその手に唇を軽くあてる。

「リディア―――改めて、申し込みたい。俺の妻になってくれないか?」
「え…?」
思わぬ申し出に、リディアの首が軽く傾く。
既にあの時、自分に跪いてくれているのに。引き返せない状況に持ち込んだのは、エッジの方。それなのに何故今更、と目で問いかける。

「まぁ…どさくさまぎれ、みたいになっちまったからさ。でもあの戦がなくても、あの流れがなくても…俺はお前と共に歩いて行きたいと思っていた。すっげえ身勝手って判ってたけど、あの時は絶対、帰したくなかったんだ。」
「…お陰で色々、大変だったよ。何で…」

大変だった。
本当に。それでも、来なければよかったと思った事は一瞬もなかったけど―――

「いや、何でって、リディア。お前を愛しているから、だ。」
プロポーズは、場所選んで落ち着いてするもんだろ、と頭をかく。
「エッジ…」
眼差しの中、遠くに鳥の鳴く声だけが聞こえる。

「…何でだろう。一緒にいるのが当たり前になっちゃった、かな?」
最もふさわしい言葉を捜しあぐね、更に首を傾げるリディア。
「幻界に行っても、離れていた方がおかしくて…何か、エッジが居ないと…ねぇ、何でこう思うんだろう?」
「それは、君が俺の事を愛しているからです。リディア。」

柔らかな眼差しが微笑みに変わり、その手が再びリディアの頬にかかると、ゆっくりとその唇に、自分の唇を重ねた。

―――エッジ…

リディアは固く結んだ唇を緩めて、それを受け入れた。穏やかに振舞っていたエッジの指先に力がこもり、リディアを引き寄せると更に長く深く唇を重ねる。 それがやっと離れた時、リディアの身体はエッジの胸に倒れこんだ。

「エッジ…」
「ん?強かったか?101日分だ。おめーが、俺のそば離れてからな。」
「あのう…今度は…腕…緩めてね…」
「あ…ご、ごめ…」
「あうう、くらくらする…」

庭の隅を散歩していた人影が慌てて姿を隠すのも、二人の目には入らなかった。


「翡翠の姫の歌―――の通りになったのかな。」
かたや、庭で思わぬ密会を眼にし、とっさに隠れたのはセシルとギルバート。

「…ああ、君が作った歌かい?本当にエブラーナまで広まったなんて驚いたよ。」
「よく言うねセシル!君が言ったんじゃないか。その歌はぜひ、エブラーナの人達に聞かせたいねって。だから僕、ちょっと広報ルートに気を遣ったんだよ。」
「えっ…君がしたの?」
「そうだよ?あの歌を歌う詩人を、何人かエブラーナに派遣したんだ。ちょうど、大きな輸入の話があったから、まぁちょっと…スパイっぽい事だけどね。必然的に王宮には入らせて貰う事になるから、せめてものお返しというか。」

スパイ、と言っても、まだ未開の国のイメージが強いエブラーナ相手に商売をするのに必要な、彼らの気質や生活を身近に体感する程度の話。
そして、腕のいい旅の芸人が王宮に入り貴族などを相手に仕事をするのは、ごく当たり前の風習だ。
 
そりゃそうだけどだがしかしと、思わぬ言葉にセシルは思わずギルバートの顔をまじまじと見つめる。

流石は通貨を流通させたギルバート一族の王子。 ギルバートは先の戦が終わった後、国の再建の傍らで戦いの英雄達を称える歌を数多く作り、自然にそれは大陸の近隣諸国に広まって行った。その中、エッジとリディアの歌物語を聞くたびセシルは、ぜひエブラーナに届けたいね、とギルバートに漏らしていたのだ。

「ギルバート。君にも、やっぱり商才があるんだね!」
「…商才、と言っていいのか判らないけど…」
「縁をつなぐのは、商才じゃないのかな?」

二人が庭の隅で何やら笑っているのに今度はエッジとリディアが気づき、急いでその場を離れる。

「珍しいなぁ、あの二人が一緒に笑ってるなんてよ。」
「本当だね。何の話だったんだろうね。」

 






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プロフィール
HN:
tommy
性別:
非公開
自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
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