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ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
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 10

 

―――数日後 昼下がり。

エブラーナでも、3時のおやつなる習慣がある。
エッジとリディアは4階の回廊になったテラスに席を作って、カレンが入れてくれた紅茶を飲みながらクッキーをつまんでいた。
そんな中、リディアが一度幻界に帰りたいと申し出た事に。考えてはいた事だろうが流石に驚きを隠さなかったエッジ。
「もし、もしも、だ。王達に止められたら、あいつらの結婚式に出られないかもしれないんだぜ!?そ、それが終わるまで…」

戻る事自体は仕方ないものの、三ヶ月後、セシルとローザの戴冠式が行われる。幻界と地上の時間の流れの違いと言うのは、本来単純に計算できるものではないらしく、時間の概念自体も違うが、幻界の出入り時にタイムラグも発生する為、確実に地上時間に合わせるのは難しい。

そしてリディアが成長して帰って来たのは、幻界の中で10年の時間を体感してはいない所から、時間の流れの違いと言うより、ある種成長のリズムが変異したと言う可能性の方が高いと思われた。
なら、今は戻るより待った方がいい。エッジの心配は最もだった。
脇に控えた女官も、固唾を呑んで話の流れを見守っている。

「俺だって、本当は幻界まで行って一言詫びたい位なんだ。だから、結婚式の後に時間作ったっていいだろ?!」
「だからこそ、今すぐ行きたいんだ。本当に間に合わなくなっちゃうでしょ?」
「…お前…こっちに戻れないかもしれないんだぜ!?それはどうでもいいのかよ!!足止めされるかも、って事を俺は心配してるの!!」
「え…そんな訳ない…」
怒るのも無理は無い。カレンも小さく首を振っている。 ただ、幻界に帰るのも、リディアなりの考えがあっての事。

元々、戦いの後幻界に帰ったのは、こちらの世界に寄る辺が無く幻界の生活が長かったからであって、王や女王に戻された訳ではない。セシル達の危機を知り助けに駆けつけたのも自分の意思だった。
そして今は逆に、仲間の居る地上の時間の流れに置いて行かれる事に、違和感を覚え始めた事、エブラーナの内乱で、自分が役に立つ事が出来た事―――それを幻界の方にも説明したい。

リディアの言葉に、エッジは黙って耳を傾けていた。
「もし、私で良いんだったら、一緒にここに居てもいいのかなって思って。だから、ちゃんと話をして来たいんだ。」
「リディア…」
初めてはっきりリディアが示した返事。だが嬉しさの反面、不安の残る状況。リディアが足止めされてもおかしくはない。また、幻界がいかに地中深く閉ざされた世界でも、外の世界との接点を持てる存在を欲しているのは間違いないだろう。

「…判った。」
だけど、それがリディアの選択。エッジは大きく息をついて、椅子に腰掛けた。
「でも今日の今日はないだろ?ちょっと…何日か待ってくれるか?俺は付いて行けないけどさ、土産位、持たせてやるよ。」
「へ?私…手ぶらだったけど?」

しかし。すでにエッジは食べかけていたお菓子をもごもごと口に押し込み、席を立ちかけている。
「いいからいいから!俺、ひとっ走り行って来るわ!!残りお前ら食べちゃっていいから!!」
「ち、ちょっとエッジ!?」
そう言うと事もあろうかテラスから身を投げ出し、ひらりひらりと窓枠や壁に足をかけながら下へ降りてゆく。そして見る間に地上に降り立ち、驚く庭師達の間をすり抜けて何処かへ走って行ってしまった。

やれやれ、とリディアは女官に向き直ると。
「…あ、あのぅ…もうお茶…はだ、大丈夫…」
振り向いたそこには。鬼の様な形相の黒髪女官が天に届く程のオーラを発して仁王立ちしていた。
「リディア様!その、地底の国に行ってしまうなら、このわたくしめがお供させて頂きますわよ!!お付きの者は必要です!!!」
「だ、大丈夫だよ!!その…人間が見たらびっくりするっていうか…そんな世界だし…」 何も言わなければ本当に付いてきそうな勢い。いやしかし。
「け、結婚は…?ほら、トマスとの…」
「…待たしとけばいいのです。どーせ年下だし。別にいない間に若い娘に行っても…」
なんと言う事。それは聞き捨てならない。

「カレン!!」
立ち上がり、カレンの間近に顔を寄せる。
「意地張らないの!!!」
しゅん、と縮こまる仕草に、あ、少し丸くなったかも、と感じるリディア。何だかんだとこの国でのつきあいも増えたと言う事か。
「でも…戻って来ると約束して頂かないと、私、不安でございます…あんな王子の手綱を引いてくれるのは、世界中捜してもきっとリディア様だけ…あの方には小さな頃からお仕えしてましたが、結構将来案じてたんで…」
「そっか、子供の頃からの知り合いだもんね…あれ、そう言えばオルフェもそうだよね?オルフェは?結婚とかしてるの?」
子供の頃からのなじみ、と言えば魔導師もそうだ。
あまり、色恋に興味はなさそうな感じではあったけど。

「オルフェは…魔法の修行三昧でしたねぇ。子供の頃は侍従見習いとして入った中でも、真面目に働いてたし…それ以外は修行と本の虫で、まぁ変わり者でしたね。あの通り物腰柔らかな上イケメンだし、結構女性にも騒がれてたんですがねぇ。エブラーナ人としては彼も婚期が過ぎてるので、どうするんだか…」
「ふぅん…意外だなぁ…じゃ、尚更放っとけないね。私もまた皆の姿が見たい。ちょっと時間かかるかもだけど…さ。」

立ち上がって伸びをする。高台の風が気持ちよかった。山の緑は深まり、間もなく夏になると言う季節。
「リディア様…いい季節になりましたね。」
「うん…私ね、この季節の緑、大好きなんだ。」
「…結構、エブラーナの夏は蒸してて暑いんです。その間だけ、幻界に行かれるのも… ありかも、しれませんね…うんうん。って、本当は3日位で戻って頂けると…」
への字口のカレンの顔に、思わずくすくすと笑みがこぼれた。

一緒に、とは口に出したものの、迷いはある。
この城に自分の未来はあるのだろうか。確かに、自分は勝利に貢献した事で、王妃になる資格を得られたのかもしれない。
でも、全く知らぬ文化の中で、エッジとの関係だけを軸に1から立ち上がってゆけるのだろうか。

そして。
不妊短命の召喚士の血を、全く意識する事もなかった。だが、それは自分の中にどれ程の陰を落とし、知れず身体を蝕んでいるのだろうか。
出産を機に命を落とす若い娘も多かった。無事だとしても、召喚士の血を持つものは、50まで生きれば十分な長寿だった。永く生きられる身体ではないのは、判っている。

――― 未来… 明るい未来の可能性がもしあるのなら。
――― 僅かでいい。それを目指したい…そんな未来を見てみたい。

その時。
ふと、誰かが通り過ぎた気がして、リディアはテラスの端に目を向けた。
「あれ?」
一人小さな影が、自分の脇をすり抜けて行った気がした。

―――誰?

一瞬見えた、薄い碧色の髪の幼い少女と、それを追う小さな銀髪の少年。

「待って…」
「リディア様…?」
立ち上がって後を追い、回廊の角を曲がった。
少年と少女は、テラスに立っている男の方に走って行く。

―――エッジ?

逆光の様な視界の中にいる男はエッジに似ていた。
優しい目をして子供たちを見下ろす表情に、今にない柔らかさが宿っている。

―――誰?

その脇に控えた女性の姿が、おぼろげに見える。碧色の長い髪の女性。ふと、エブラーナに留まった、初めての朝を思い出す。
あの日、夢に見たもの。 エッジと、誰かがいた。それを見ていた自分。

―――あなたは誰…?
―――どこかで…会った…

問いかけに答える様に女性は振り向いた。が、顔をこちらに向ける前に、その姿はかき消す様に消えて行った。
「待っ…」
目の前にはバルコニーの手すりとエブラーナの山々の緑が広がっていた。
「…」
後を追ってきたカレンも辺りを見回した。
「どうされたのですか?」
「え…」
やはり目の前には何もなく、はるかに西の山が見えるだけだった。

「…夢を、ね。」
リディアは手すりに近寄り、身を乗り出す。
「エブラーナに来た日、夢を見たって話したっけ―――」
「ええ…エッジ様が結婚する夢って、確かお聞きしました。」

あの朝。何か夢を見ていた様な気がして目を覚ました。
この国に留まる事になった日から始まった様々な出来事の中で、時折記憶にも薄かったその夢の片鱗が、リディアの心によぎる事があった。
散歩に出た女官達に、エッジの恋人と勘違いされていた時。翡翠の姫の歌。エッジに跪かれた時。その刀を受け取った時。何よりも、その無事を願った時。全てが、一つの方向に向けて自分を動かしている様な感覚―――

翡翠の姫の歌は王子の嘆きで終わるが、その続きは緩やかな時間の流れの中、確実に未来を作り上げていたのだろう。

「夢って、日が経つと忘れちゃうけど、不思議だな…時間が経っても良く覚えてるの。 ―――夢の中で私、ほら、城門の所にあるバルコニーの下にいて。エッジが奥さんと一緒に、手を振っているのを沢山の人と見上げていた。よく見えなかったの。隣に居た女の人が…真下にいたから。」
「ええ…でも、今となってはただの夢、ですわ。だって…」
「思い出したよ。その人、碧の髪していた。今、ほんとたった今、その続きが見えたんだ。」
カレンは首をかしげて、黙ってリディアの顔を見つめている。
「大丈夫。私絶対戻ってくるから、心配しないで。約束するから。」

中庭の端からエッジが再び姿を現し、こちらに手を振っているのが見えた。リディアは笑みを浮かべて手を振り返し、再びテーブルへと戻って行った。
 
 
 

[101日目のプロポーズ 11]

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プロフィール
HN:
tommy
性別:
非公開
自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
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