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ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
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ほどなく傷もふさがったリディアは、王族のフロアの階から出ない事を条件に、一人きりの時間を与えられた。王族の居住区には安全面の配慮は完璧、女官や警備兵の往来など信頼できる人目も多く、城の最も安全な場所だ。

「この中で大人しくしてろよ。外に出るんじゃないぞ!!」

―――とは言われたけど…
女官二人は甲斐甲斐しく自分の面倒を見て半ば可愛がってもくれるが、結局の頭の中から、気になる事が消える訳ではない。

―――内乱は、どうなったんだろう…
―――城の中の人達は、どんな風に動いてるんだろう…

部屋にいるばかりでは判らない。カレンやアイネに尋ねて大きな動きがない事は判ったが、女官である二人が細かい事情までも知る由がなかった。

そんな中だが。今日は女官の二人、午後は別の用事がある、と言う。
「えっ?居なくなっちゃうの?…何か、あるの?」

昼食を持ってきたアイネが申し訳なさそうに言うには。
「いえ、少しだけですが…今日は午後から王宮の神殿掃除にかり出される事になって…小姓たちに御用はお申し付け頂けますか?」
どうやら難しい話ではなく、王宮内の神殿で、神職達が急遽国家安泰の祈祷をする事になったらしい。
「何も今やらなくても…既に事は起きそうなのに…第一、リディア様が…」
カレンが口を尖らせるも、リディアは首を振る。
「ううん、私なら大丈夫だよ。」

目ざとい女官たちが離れるのは、少々退屈していた中願ってもない機会だった。元々リディアは自分の事は自分でしていた為、必要なのは城の案内と護衛位だ。

「頑張って来てね!!」
二人が階段を下りるのを見計らい、それから更に数十分が過ぎた。

―――そろそろいいかな…

リディアは部屋着に持って来た簡素な服の上に布を組み合わせ、女官風にアレンジすると、碧色の髪を縛り布でまとめ上げる。服の下にエッジから客人の印代わりに渡されたエブラーナの印章の入った首飾りを隠すと、部屋を後にした。エッジは今日も遅くなる。ちょっとした息抜きだ。階段を降り、女官や兵士の間を潜り抜けるが、女官にしか見えないリディアを誰も気に留める者は居なかった。

城内では特に混乱した様子はなく、女官が、騒がしいけど何か起こるのかしら、と立ち話をしているのを耳にした位だった。

―――本当に、大きな事にはなってないんだ。良かった…

エッジの身が心配で残った事もあるが、本当に大事になっているなら自分から帰らなければいけない。フロアの奥の部屋の前を通った時、小さな声が聞こえ、リディアは足音を消して立ちとまった。女官が洗濯物の整理をしながら何やら話している。

「へ?エノールの事件がって、…つまり、ずっと前から仕組まれてたって事!?」

一人は年輩、もう一人はひどく大柄だ。小さな声だが、非常によく通っている。
「そうなんじゃない?何か、変なお金の流れが見つかったとか言って、昨日騒いでいたじゃない。そいつ、自分は王家の流れだ、とか馬鹿な事言ってんだとさ。」
「私達の払った税じゃないかい!?冗談じゃないね!!エッジ様にこてんぱんにされちまえばいいのに!!それで神職さんは急にお祈りって訳か!!」
「しーっ!声が大きいよ!!…って…何だい、あんた?見慣れないね。もう取りに来たのかい?…って言うか、新入り?」
太った女官が、リディアを見つけて声をかける。

「え、えっと…私はカレンさんの…」
不意に言葉をかけられ戸惑うリディアだが、本物の女官と勘違いされている様子。
「ああ、新入りね。ほら、エッジ様の分だよ。そのカレンかアイネに渡してきな。」
返事も聞かず、ぼんっ、とリディアに渡されたのは、抱える程の服の入った袋。
「あ、あの…」
「何だい?それ位持って行きな!」

「き、昨日皆が騒いでいたエノールの町の噂って…本当なんですかね?」
勿論リディアは初耳だが、女官は、ああそうらしいよ、と頷く。
「全く、あの町のお偉いさんだか何だかが、上手い具合に下っ端に騙されて、修繕だか何だかで色々国から貰ってた金、結構持ち逃げされちまったんだとさ。その金が流れたに違いないとか、家老のじいやさんが大騒ぎしてたじゃない?国でも作りたいのかねぇ。山奥ででも、やれって言うんだよ。」

女官達に見破られる前にと、早々にお礼を言って部屋を出るリディア。どうやら内乱の噂は相当広まっている様だ。とりあえずこれを、部屋に運ばなければ、と歩き出すと、後ろからまた声が聞こえた。

「変な娘だねぇ。中々きれいな子だったけど。」
「ああ。別嬪さんだね。エッジ様の“お手つき”になっちまうんじゃないか?あの人も、遊び人とか言われても、実際は結構散々だからねぇ…ハハハ!!」
「本当だよ!!あれは傑作だったねぇ、ほら、どこぞの貴族の娘にダムシアンの宝石をおねだりされて、お小遣い使い果たしたらしいって話!!」
次はあの話だろ、あそこでも振られてて、と女官達は次々にエッジのややもすれば『情けない話』を暴露してゆく。『エッジ様はモテモテなんだぜぃ!』と自称していたはずだけど、とリディアはそのまま聞き入っていた。

「まぁ…バロンに行ったあの貴族の娘は、最悪だったね…何で黙ってたんだか…」
「若いから格好つけたいんだろ。でもいい年だし、さっさと“翡翠の姫君”をお迎えすれば良いのにね!!」
「あの噂?会いに来てるってのは本当なのかねぇ…結構な事だけど。」

陰に隠れていたリディアは、耳まで赤くなってその場を走り去った。


予定より早く、昼過ぎ自室に戻ったエッジは、せがまれるままにリディアに事の大まかな流れを話していた。
エノールの街広場に反乱勢力は本陣を張っているものの、大きな流れや混乱、また破壊行為は無いと言う事。山岳部少数民族の独立を求めての蜂起、と言っている事、話し合いによる解決を向こうが求めている事…少なくとも、今エブラーナ城下に徒党を組んで入って来る事はないだろう。

「えっと…それって、お金が消えてた、って話なのかな?」
エノールの街で、多額の国家給付金が消えた。それが資金源と判明したが、リディアがその話を知っている事にエッジは驚く。
「何か、家老さんが大騒ぎしてたって…」
「ったく!じいのおしゃべり!!まだカミさんでもねぇのにんな事聞かせて!!いや、もう数年も前の話らしくてさ。証拠がねぇんだ。知事のヤツ、一切の証拠を始末しちまった。その分、勝手に港の入港金を取ったり民から金を集めたりして穴埋めしてた様だ。」
ふう、とエッジはため息をつく。

相当用意周到な輩。統治者としては不甲斐ない思いだろう。余計な事を言ってしまったかも、とリディアはうつむいた。
「まぁ、山岳部少数民族っていってもさ、まともな税も取れない様な場所だから、色々考えてはやりたい。ただ反乱の落とし前はつけてもらうし、ニセ者王族も…」
「大丈夫なの?話し合いって…」
「ああ。後日、互いに少数精鋭の護衛兵だけを同席させて、街の施設に交渉の席を設けるって事になった。何かしてきたらのろしを上げる様に言っておいたし、近くまでもう1部隊出発させたから、いざ衝突になれば人数で押し切る。」
いかに反乱勢力の護衛が優れており、暗殺を企てていても、少数同士ならエブラーナの精鋭忍者が引けを取る事はない。反乱勢力も総隊長ではないと言え、自分の陣営の責任者クラスがいる場を席ごと破壊したりはしないだろう。魔導師を同席させれば、国側が席に着く事はなく、制圧する。

「早くカタを着けて、あいつらの―――セシルとローザの戴冠式、行こうな。」

「うん…」
エッジは立ち上がり、リディアの頭をぽんと、軽く叩くと、頬に口付けた。リディアは目を伏せて、素直にそれを受ける。しかし一瞬の後、下から唇に軽く触れる布の感触に、目を丸くしたのだった。
「―――!?ち、ちょっと!!」
「元気出たぜ!じゃ、頑張ってくるからな!!」
「ちょっと、エッジ!!」
「昨日の夜の仕返しだ!今度はお預けしねーからな!」

仕返し、と言う言葉に首をひねるも、エッジに口付けられたのは、初めてじゃない。おやすみのキスはする。そうでなくても、時々からかう様に、唇を寄せてくる。エッジはいつも、口元を布で覆っている。だから大丈夫、これは数に入らないと、よく判らない理由でいつも納得させられていたが。
最初はエブラーナの挨拶なのかと思った。でも、そうでない事位今は判っている。懐かしい感触だった。



かすかに、弦楽器のの音が聞こえた気がして、窓の外を見た。
敵の侵入を防ぐ為、格子を付けられた窓。外には、昨日の様に子供たちが居たが、今日は一つ所に固まっている。歌い手が、中庭で何かを歌っていた。腕のいい旅の詩人や歌い手が、王宮に出入りを許されて歌を披露する、と言うのは何処の国でもある事だ。
恐らくはダムシアンあたりから流れて来た詩人なのだろう、リュートを抱えていた。

「ねぇねぇ、次は翡翠の姫の歌を聞かせてよ!」
子供達のせがむ声に、歌い手は静かに弦をかき鳴らし始める。


翡翠の髪と瞳の乙女
幻の国の姫君よ…
王子の嘆き如何ばかり…


リディアは耳を澄まし、その声に聞き入っていた。
翡翠の姫と、王子の恋物語。どこか寥々とした響き。かつて、詩人と呼ばれた王子と旅をした事があった。彼が奏でるリュートによく似た繊細な旋律。

―――そうか…だから私を、その翡翠の姫と勘違いしたんだ

これが、昨今のエブラーナでのはやり歌なのだろう。
「翡翠の姫君が、エッジ様に会いに来たんだって!!」
エルと名乗った少年の声。
「嘘だ~!」
「あ、僕も会った!!」
楽しそうに話す子供達の姿を見ると、しばらく、その姫君の振りをするのも良いかもしれない。少なくとも今、城の外で起きている事が片付くまでは。勿論自分が何か出来ると言う訳ではないし、客人としてここにいる以上、とかく関わる事でもないのだけど。

反乱勢力との交渉は明日の昼過ぎと決まった様だ。上手く行けば、城下に混乱はないまま解決するかもしれない。


その時。
とんとん、と扉が叩かれたが、返事を待たずに入って来た影があった。
「あのう、リディア様。お話がありましてな…」
「はい…って、じいやさ…いやいや、家老さん!!」
数日ぶりに見る家老の姿だったが、疲れがあるのか、先日の勢いはない。しかしこの前、エッジの胸に包まれていた姿を見られた事を思い出し、リディアは一瞬、話、と言う言葉に身構える。

しかし、話は案外、平和なものだった。
「実は、ワシがおしゃべりだから午後は暇をやると、若様に怒られましてのう…リディア様のお付を命じられましたのですよ…お話をしろと…」
しまった、と心で舌を出すリディア。しかしエッジも怒っていたというより、家老の疲れを案じての事だろう。
「いささか、騒ぎがありましてな…このじいめの仕事はありませぬ。どうか、無事で済めばよいのですが…」
とは言え、エッジに疎まれたと思いっているのか、肩を落とす家老。
「…お、お茶にしませんか?家老さん。」
「ああ、お茶といえば先日、貴女様にとんだ失礼を…やはり若のお心に負担を…」

しょぼんとソファに座る家老に、リディアは手早く紅茶を入れる。昼の残りのお湯だが、十分に温かい。常にエッジの事を案じ、時に走りすぎてしまう家老。
「ありがたきお心遣いでございます…リディア様…貴女様のような方が、若様の理想の女性なのかもしれませんなぁ…」
「え…!?」
思わず、かしゃん、と自分のカップを落としかけるリディア。
「家老さんまで!あの歌の事ですか!?私、確かにエッジと旅をしていましたけど…エッジにはもっとこう、き、貴族の娘さんとか…私、あんなヤツ…じゃなくって!」
慌てて手に付いたお茶をぬぐう姿に、ほっほっほっと家老は声をあげた。
「あ、いやこれは済みませぬ。久々に若様の嬉しそうな顔を見て、ついつい…」
「いじめる相手が出来たから喜んでるだけですって!!エッジは…何処の街でも女の子ばかり見て…は、早く貴族のお姫様と身を固めちゃえばいいのに!!」
早口になるも、自分の頬が赤くなって行くのは判る。

家老は、ふっと顔付きを変え、いささか真剣な面持ちでリディアに向き直ったのだった。
「いえ…王家への輿入れが最高の名誉だったのは、わが国ではもうとっくに昔の話ですじゃよ…」
「へ…?」
自虐的な響きがある言葉に、思わず首をかしげる。大体の国では、王家との婚姻は名誉であり、他国よりも一族や血統を重視する気風のあるエブラーナでは尚更ではないのだろうか。

「今のエブラーナ貴族の娘達は、大陸の貴族に嫁ぎ、自由で華やかな生活を送るのが夢…エブラーナ王家は、金の棺おけ、と申しますとな…嘆かわしい…先のルビガンテとの戦の時も、真っ先に逃げたのがそう言った大貴族。国と心中しろ、とまでは言いませんがなぁ…何もあの最中、アガルトの島に病気の温泉療養に大挙して出かけなくても…」
「そ、そうなんですか?」

アガルト。ミシディアに近い島で、かつての火山のお陰か、良質な温泉が湧いている、と聞いた事がある。そういえば、あのルビガンテとの戦の時洞窟に居たのは、平民と身分の高くない貴族ばかりだった。

大きな家の貴族達は、さっさと自家用の船で外国に逃げ出していたのだ。


[翡翠の姫君 7] へ



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tommy
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自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
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