忍者ブログ
Admin / Write / Res
ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
[23]  [22]  [20]  [18]  [17]  [16]  [15]  [14]  [13]  [12]  [9
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


国は自分達を搾取する存在。その認識は未だに貴族の中には根強い。
何故なら、エブラーナは国単位、と言うよりは家単位での繁栄を基軸に発展してきた国であり、どの一族が上に立とうとも、国全体を安定させる為に調整をするのではなく、他の有力な家の力を削る事で王家だけの地位・権力を守ろうと、諸侯を互いに争わせる様な事をしてきたのだ。

その為に、大陸よりも乱世が長く続き、権力は王家にあつまったものの国は衰退した。そこまで来て初めて平和的な国政へと方向を変えたのだが、未だその歴史は浅い。わが身惜しさに逃げ出すのも無理はない。

「確かに、かつてのエブラーナは戦が多かった為血なまぐさい歴史もございました。ですが、今となれば昔の話…。しかし悪評と言うのは中々消えませんでな。中には、エッジ様との縁談の話がありながら、バロンの大貴族へ輿入れした娘も…」

エッジが青年にさしかかると、恩恵に預かろうと不謹慎にも、寝所に娘を送り込む貴族が絶えなかったと言う。
「む、娘を送り込むって、そ、その…贈りこむ、って事ですか!?」
「あ、いやいや!!そこは聞き流して下され!!」
しかし国が開くにつれて、エブラーナでも貿易商人の娘たちが他国の資産家や貴族と結婚する、と言う事も増えてきたのだ。その娘達の華やかで自由な生活ぶりにエブラーナ貴族の娘たちは大陸貴族の生活に憧れ、その親達も他の国と縁を持てる事に魅力を感じたのだろう、王家への縁談は急激に価値を落として行った。
実際、大陸の貴族は、王家よりも資産を持つ家は幾らでもあるのだ。

「それは…でも、王子様を振ってまで他国の大貴族に…?」
リディアは首を傾げた。貴族がお金や名誉が好きなのは判る。それが自国の王よりも上なら、そちらを選ぶまでの事。ただ、あのエッジが振られる姿は思い浮かばない。
街の娘たちから憧れられ、きれいな女性に片っ端から口笛を吹いていたエッジが。
「信じられないなぁ…そんなの…」
エッジは、王子と言う事抜きに男性としてもかなりの魅力があるとは思う。
それなのに、それを受け入れてくれる女性すらいなかったのだろうか。

「…4、5年前の事ですが…エッジ様とある貴族の娘とご縁が出来ましてな。婚約と言う運びになった事がありました。」
「婚約…ですか?していた事があったんだ…」
「ええ、しかし…まぁ、結果から言うとお流れとなりましたが。その娘は客人で訪れたバロンの大貴族の子息と恋仲に…まぁその方、こちらに謁見にも見えましたが、エッジ様とはまた違い優雅な方で…しかもバロンでも裕福な家の方であり、政治中枢にも縁が深かったとか。」

娘の両親はすぐにそれを察した。
“金の棺おけ” に娘を入れるよりも、娘が好いたのなら尚更、大国バロンのゆかりの人物に嫁がせたい。元々、大貴族の婚姻は本人の意思、と言うよりは家の利害の問題である事が多かった。
そしてバロン大貴族の家は、数代前から統治者となったジェラルダイン家よりも長い歴史があり、資産も桁が違った。王家への輿入れ自体が家の繁栄を願われての事で、娘はエッジを愛してはいなかったのだ。

そして娘の貴族家は一計を案じ、女官に扮した女の忍びをエッジに近づけ、篭絡したのだ。
婚姻の自覚も薄かった頃、エッジはあっさりと陥落し、噂は瞬く間に広められた。正式な婚約を目前にした醜聞は、身分ある貴族の娘が縁談を破棄するのに十分だったし、王家も承諾せざるを得なかった。公になる前の事で、せめてもの王家の威信を保ったのだ。

その忍びはすぐに姿を消したが、後にその貴族の領内に身を潜めている事が知られ、王の兵に捕えられる前に自害した。当然貴族の家は、無関係と言い張り証拠も無かった為、忍びの娘の単独行動と言う事で決着したのだ。

この件でエッジは、自分の立場を否が応でも実感せざるを得なかったのだろう。
婚約破棄以降再び送られる様になっていた夜の 『貢物』 を受け取る事もなくなった。女性との関係の裏に他者の思惑を読み取る様になり、軽薄な振舞いの様子だけは相変わらずだったものの、一切の深入りはしなくなった。

年若い女官を身辺から遠ざけ、身の回りの世話は小姓や年輩の女官が殆どで、エッジに直接関われる女官の中では、幼い頃からなじみのあるカレンとアイネの二人が一番若いと言う。

「それ以来、若は変わられましてな。軽薄な真似事も、おそらくはあの事が…しかしこう言った事が起こると…先のルビガンテの戦でも、生きてお帰りになったから良かったものの…」
「エブラーナ王家の人は、今はエッジ一人なんですか?兄弟は…」
リディアは首をかしげる。
「先代のお子は若様お一人。叔父と叔母、従兄弟にあたる方々も先の戦で討ち死にをされ…いずれもお子様はありませぬ。ただ、公の外交はなかった中でも、先の代には権力争いを避ける為に他国に出られたり、嫁いだ方も幾人か居たらしいのですが末裔となると縁がなく…エブラーナに王族は若様お一人なのですよ。このじい、若様には早く身を固めて頂く事を願うばかりです。」

本当にこの人はおしゃべりなのかもしれない。
エッジを案じるのは判る。老婆心とはこの事だろうか。でも、こんな事まで聞く事になるなんて。

男と女の事ほど知らないものはないが、『寝所に娘を送る』と言うニュアンスは判る。子供の頃、セシルとローザが隣のベッドでひそひそ話をしながら静かに微笑みあっているのを、寝たふりをしながら少し心躍らせて聞いていた。でも、そんな暖かい物ではないのだろう。

―――王子様は一人には決めらんないし、決めちゃいけないの!!

いつか、エッジがそう言った時。軽薄な人、と本当に軽蔑しそうになった。落ち着いた愛情を持っているセシルとローザを、子供の頃から目にしていたから尚更。しかしそこまで思わなかったのは、やはり何処となく彼の言葉や所作に感じる所があったのだろう。

次々に寝所に送られた、と言う貴族の娘達。あのベッドで眠りについた娘は、自分だけではない。エッジが『女好き』と呼ばれる事は知っていた。けど、その理由や細かい事を聞いてしまうと、何かが胸に詰まる。
そんな話は、聞きたくない。

「…リディア様?如何しましたかな?」
「えっ…いえ、エッジの周りには、何時もキレイな人がいんだな、って。」
「いえいえ。リディア様も、負けずにお美しい―――いや、可憐な方です。ですから、その様なお顔をなさりません様に。」
目を丸くするリディアに、ほっほっほっ、と再び家老は笑い出す。何故か、エッジの昔話でリディアの機嫌が明らかに斜めになった事を、心配するのではなく安堵した様な表情。
「どうか案ずる事なさいませぬな…今の若は、貴女様を頼られている様にお見受けいたします。どうか何時までも、エブラーナにお留まり下さいませ。」
家老は丁寧に礼を言い、部屋を後にしたのだった。

―――その様なお顔をなさいません様に。

一体、どんな顔をしていたと言うんだろう。扉が閉まると同時に、リディアはエッジのベッドに駆け寄り、軽く飛び跳ねた。
「…えいっ…!!」
ぼふっ、と音がして、身体が沈む。

―――エッジ…

何時の頃からだろう。エッジに対して、セシルとは違う感覚を抱く様になったのは。
エッジと知り合ったのは遅かったものの、彼と馴染むのは早かったかもしれない。大人になり、バロン出身の三人に対して無言の『気遣い』と言うものの芽生えたリディアに対して、いつもエッジはリディアの側についてくれていた。
最初は同じ、外の育ちと言う立場だから…と思っていたけど、それを差し引いても、真っ先に自分を気遣ってくれるのは嬉しかった。

でも、何時の頃からか。いつでも側にいてくれるエッジに、何故だか少しだけ違和感を覚える様になっていた。嫌だ、と言うよりは時々怖い、と言う感覚。それが何なのかは、判らなかった。
ただ、幻界に帰った時に無くなったのは、セシルとローザのマネだ、と頬にされるおやすみのキスや、人ごみの中で危ない、と身体を引き寄せてくれる手。それを無くしただけで、帰って来た『故郷』が、こんなにも地上とは遠い所だと実感した。

何故そう思ったのか、それは判らない。
幻界で、エッジに会いたいと強くは思わなかった。セシルに呼ばれ地上に来た時も、エッジ一人より、地上の仲間達を懐かしむ気持ちの方が大きかった。
だけど、セシルにお使いを頼まれたあの時―――エッジに会いに行って、と頼まれた時に何故か感じた激しいためらい。

―――まだ、何が怖い?
―――答えてあげて欲しいんだ。どんな答えでも、君から。

何を?と問いかけても、セシルは微笑んで、何も答えなかった。

「…そうだ。連絡…しておかないと…」
リディアはしばらくその場に佇んでいたが、ふと、紙とペンを取り出し、見慣れない魔導師の文字で手紙を書き始めた
―――

そして。
夜半に自室に戻ったエッジを、リディアはまたベッドの中で出迎える事になった。一応、起きている様にはしていたのだが、ベッドで眠気を堪えるのは無理な事だ。それでもエッジの帰りを察し、フモフモと寝ぼけながらお帰りと答える。
「明日は寝ていろよ。帰って来れねぇと思う。城下の軍事施設に行くからさ。」
「エッジ…」
明らかに寝ぼけたリディアの声。
「なんだぁ?」
今日もまた、リディアのベッドに行こうとしていたエッジは振り向く。
「…今日はね…」
「お、おう。」
「…色々…な…人に会…」
「ん?」
「ん~…何でもない…」

リディアの不思議な言葉に、あれやこれやと色々な想像を膨らませるエッジ。遂に、大きな咳払いをしてリディアに向き直ったのだった。
「リ…リディア。お前判ってないだろうけどさ…きっと明日俺がいなくなって寂しいんだよな?つまりお前、その気になっ…いや、何も言わなくていい。そう言う事だ、そうだよな!?」
エッジ、もさもさとものすごい速さで夜着を脱ぐ。あられもない姿となり、背中を向けるリディアから一端離れ、1人四股を踏む様にストレッチを始めたのだった。
「別にほら、俺の都合は全然、今が今でももぅ全然構わないぜ!?明日はいねーし、こればかりはその気になった時でないと…」
「…フゴ…」

ぐうううう~、と、リディアの鼻から抜ける空気。

「…玉砕…」


[翡翠の姫君 8] へ


拍手

PR
プロフィール
HN:
tommy
性別:
非公開
自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
PR
メールフォーム
ブログ内検索
P R
RSS
Copyright ©   FF4散文ブログ (=゚ω゚=) All Rights Reserved.
*Material by Pearl Box  *Photo by Kun  * Template by tsukika
忍者ブログ [PR]