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ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
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「リディア」

どれ位時間がたっただろう。エッジはベッドの縁に座っていたが、先ほどとはうって変わり、穏やかな口調で臥せるリディアに語りかけた。
「エッジ…?」
リディアは身体を起こし、恐る恐るエッジと目を合わせる。そしてその表情からも怒りが
消えているのが判り、胸を撫で下ろしたのだった。

「お前にとって家族って、どんなもん?」
「家族?」
「ああ。オヤジとお袋がいて、子供もいて…」
「?う、うん…えっと…」
不思議な問いだ。母の亡くなった理由を知っているエッジがこんな事を言うなんて。
 
「…私は…お父さん…召喚士の血が濃くて…早く亡くなったの。お母さんとはとても仲が良かった。幸せだったな。」
「そうか…俺もだよ。親父とお袋、仲良かったな。色々言う連中もいたけどさ。いいよな。親父とお袋が仲いいって。」
そっと、頬にエッジの手が触れるが、優しい感触を伝える指先。
「俺…国の事は大切だし、心配かけてんのも判るけど…その為にいい所のお姫さんと結婚してお世継ぎどーのとか、ムナクソ悪くてさ…やっぱ、段取り踏んで行きたいじゃん。」

自分の立場と、召喚士の歴史と重ね合わせた様なエッジの言葉だった。家老の行動を節操が無い、等思えないかもしれない。
リディアはふと、自分の生い立ちを思い出していた。自分もまた、血統維持の為に血族結婚を繰り返し、不妊と短命へ走る召喚士の血筋なのだ。
 
かつては、将来婚姻させるために、引き離して血縁を隠し育てられた兄妹や姉弟も珍しくなかった。それが、召喚士の使命と周りに教えられていた。村には召喚の血筋とそうでない者がおり、差別と言うものはなかったが、それでも召喚の血を持つ者は特別な存在だった。
今は流石に血族婚はなくなったものの、少し前まで、召喚士としての才能を発揮しはじめた子供は、それ以外の血筋のものとは、個人的に深く心を通わせない様に仕向けられていたのだ。
それはいずれ、濃い血を交えると言う前提の為だった。
 

しかし幸いにも自分は、村を出てセシル達と世界を周り、幻獣達の愛情に包まれて成長する内、それが様々な思いや理に反する事だと気がつく事ができたのだ。大切なのは心が通う事。それをないがしろにした故郷の村が、抱えるものに固執するあまり、衰退の道をたどったのが、外から見れば良く判る。

「うん。私も…そう思う。王族の血統が、どれ位すごい事なのか私…判らない。でも…エッジと私は、心…繋がっているんだよね?」
「当たりめーだよ。それでいいじゃん。」
「うん。血筋だからって…私はお母さんが魔法を教えてくれたから、召喚も出来る様になったと思っているよ。エッジもそうでしょ?それに、私…大きくなったら、えーっと…確か…30位上の叔父と結婚する事になっていたんだよ。そんなの嫌だったもん。」
「30上…って…?そんな話があったのかよ!?」

幼い日、若い叔母が亡くなった。父の弟の妻は、まだ20才にもなっていなかった。
そしてある夜、近所の年長者達の話し合いを盗み聞きしてしまったのだ。

―――子も産まずに死んでしまったな。後妻は誰にするか。
―――リディアはどうだ?子供が産める様になるには、5年もかからないさ…
―――しかし時間が長くはないか?純血でなくても、早く後添いを迎え子を…
―――いいじゃないか。あいつは若い娘が好きだし…
―――ならば決定だな。今のうちに、懐かせておかなければいかんな…

親類の情は、男女の仲とは全く違う物など知りもしない頃だったが、生理的な嫌悪感を、男達の話に覚えたのは鮮明だった。

「お母さんは絶対させない、って言ってくれたけど…どうなってたか…だから私、子供が出来たら、召喚魔法を教えてあげるの。きっと召喚士とは違う人との子供でも、頑張れば出来る様になる。もうミストに戻ることは無いだろうけど、それが知られれば、皆血に頼らなくなるから、そんな不幸もなくなるかな、って。」

父と母は遠い血縁の夫婦だった為か、リディアは純血の召喚士であっても才能は最初から非凡、と言える程では無かった。その代わりに、召喚士としては比較的健康な身体を持つ事ができた為、周りの将来への期待は大きく、血を保つ為に近親者を配偶者にと言う動きは、幼いリディアにも感じられる程だったのだ。
 
それを自然として育って来た。だが、今は違う。
家老の言葉に拒絶反応を示したのは、その記憶にもあるのかもしれない。

「…エッジ…どうしたの?何か悪い事…言ったかな?」
覗き込んだエッジの表情は、怒りとは違っていたが、再び険しいものになってるのに気が付き、リディアは首をかしげる。
だがその視線を逸らし、別に、と息をついたのだった。
「もう村を出たんだろ。だったら、そんな事気にするな。お前はお前で、一人の召喚士でいいじゃねぇか。聞きたくねぇよ。30も年上のジジィと結婚?冗談キツイだろ。」
「…あ…ごめん。変な話だよね。そんな事言われた位だから…家老さんの言葉、気にしてないって事なの。」

しかし言葉の途中で、ぐい、と今度は強めに頬が引き寄せられた。
「いいからやめろ。聞きたくねぇ。口ふさぐぞ。」
「え!?鼻はふさがないでね…」
近づきかけたエッジの顔が、ため息と一緒に一気に下へがくっ、と下がる。
「…そうじゃねぇって…あのなぁ…ガキじゃねぇんだ。ベッドルームに男なんか、間違っても入れるんじゃない。俺が悪いヤツだったら、お前ひどい目にあってるよ?ジイじゃなくたって、誤解するよ?何されても、言われてもおかしくねぇよ。全く…」

僅かに、頬にかかった手に力が入った。
「…一回だけ聞いてもいいか?お前が受け入れてくれるなら―――俺は…その、お前とそうなるのは…」
「ちょっ…!!そんな事言わないで!!」

思わぬ大きな声に、エッジの手が一瞬、驚きで震えたのが判った。意識はしていなかった。自分でも驚く程の勢いで、制止の言葉を叫んでいた。
「ご、ごめん…その…エッジが嫌い、とかじゃなくて…」
頬にあてられた掌から熱が伝わって来る。言葉の意味が、判らない訳ない。頑強に拒む程、いやな訳じゃない。そしてエッジを嫌いな訳じゃない。でも。

それなのに、自分を間近に包むエッジの眼差しは柔らかく、そのまま、その胸に身体を預けてしまいたい衝動にかられていた。

―――なんて我がままなんだろう…

「そうか。残念だな。だったら、ベッドで男に顔なんか触らせちゃいけないだろ?」
「…意地悪。」
意地悪は、どちらだろう。わざわざ会いに来て、からかっていると思われたのだろうか。

「お使い…でも私もエッジに会いたいと思ったから…だから来たの。ごめん。そんな事…考えてなくて…」
「ばか。そんな事…二の次だ。でも俺、ちょっと幸せかも。ありがとな。」
小さな額に柔らかく、唇が触れた。もじもじ、と肩をすくめるリディア。その腕を両方からぽんと叩き、にかぁ、と笑みを浮かべる。

「大丈夫。野蛮な事はいたしません。さ、メシにしよーぜ。まだ食ってないんだろ?」

外に出て部屋の灯りを幾つか灯すエッジの指先には、微かに火遁の動き。ワゴンに添えつけの小さな火鉢にも火を落とすと、金属の器に入ったスープを温め出す。懐から取りだされた袋から、皿にぼたぼたとパンやらドライフルーツやらが落ちてきた。
「ほれ、穀類とらねぇと腹持ち悪いだろ。お前、肉あんまり食わねぇよな。その皿頂戴。」
「エッジ…それ、何…?」
「ああ、台所にあったから貰って来た。余り物ってのは、こうやって持ち出すもんだぜ!」

エブラーナ城では、食べ物の無駄は一切ない様だ。今朝の事を思い出し、くすくすと笑みがこぼれたのだった。
「何だぁ?」
「ううん、何でもないの。」

「…あ、あの~う…」
まるで頃合いを見計らったかの様に、扉の外から、遠慮がちに強い方の女官の声がした。
「お加減よろしい様でしたら…エッジ様の夕食も、お持ちいたしますが…」
「ああ、俺のあんの?わりいな、急に帰ってきちまって。余ってんのでいいよ。」
おそらく、オルフェから次第を聞いて来たのだろう。
それを知ってか知らずか、何であいつら、そんなに用意がいいんだ?等とつぶやきながら、エッジはパンをかじる。何やら思う所もあるのか、俺もヒトがいい~、等とボソボソ呟く声と共にパンの欠片が床に落ちていった。
「って!!ちょっと!歩きながら食べないでよ!」
「おお~怖いお母さん!」
食べかけのパンはそのまま、リディアの口に押し込まれた。
「んむむ~!!」
それでも出す訳にはいかないとばかり、もぐもぐと必死で口の中にパンを閉じ込めるリディア。
「うっわ、ガキみて~~~~!!!」
「むむむむむ~~~~!!!」
必死の抗議も『リス顔』と一笑にふす表情からは、先程の面持ちはすっかり消えていた。

「おうカレン!早かったな!」
扉を開ける音に、リディアは慌てて後ろを向いて、パンの最後を口に閉じ込めたのだった。
「すみません。もう火を消してしまったので、こんな物しか残ってなくて…確かドライフルーツもあったのですが…」
扉の外に立つ二人もリディアを案じていたのだろう。安心した様な表情を浮かべている。

「そうそう、ドライフルーツが無くなってしまったのですわ。パンと一緒に。」
「まったく、人が夜食に取っておいた…も、もとい大切なお城の食べ物を…見つけたらタダじゃおかないわ!!」
さっと、袋から出したドライフルーツを乗せた皿の前にエッジが立った瞬間ちらり、とアイネの眼鏡がこちらを見た気がした。
「あ、いいって!!いいからいいから!!ゆ、許してやれ、な!!」
噴出しそうになるのをこらえるリディア。
「…もふッ…二人ともごめんね。ちょっと寝すぎちゃって。」
まぁ、お客様の為なら、と言う空気を醸し出しながら、アイネが首を振る。
「いえいえ、お疲れになりましたでしょう?今日は泊まりで下のフロアにいますので…御用ございましたら、何時でもお呼び下さいね。」
恐らく話は聞いているのだろう。なんでもない、と言い訳をする気にもなれずにいたが、女官の方もそれは察している様で、あえて心配している様子は見せない風だった。

素っ気無く立ち去ろうとする二人に、エッジが声をかける。
「あのさ、お前ら、これから本格的にリディアの面倒頼みたいんだけど…どうよ。」
「へ…?私、十分面倒見てもらってるよ!?」
十分過ぎるほどこの二人は仕事をしている。エッジも判っているはずだ。それなのに。
「…私達はそれが仕事ですわ。ねぇ、カレン。」
「ええ。命を助けられたからには、荒野でも戦場でも、リディア様に付いて行くつもりです。」
「荒野戦場は勘弁してくれよな…ま、ありがと。」
女官二人は一瞬顔を見合わせた。すたすたと、エッジは二人の方へ近づくと、小声で何か話しかけている。
「…エッジ?」
リディアも近寄ろうとするものの、三人は円陣を組むように頭をつき合わせる。

「ちょっとさ、お前ら下の部屋で仮眠だろ?後で行っていい?」
「はぁ。って、何故ですか?リディア様を置いて…?」
「おめーらを見込んで頼みたい事があるのよ…俺の…いやお国の為に、力かしてくれ、なっ!!」
「…どうせ私たちが何を言っても、思う様にしかなさりませんでしょ。」
ひそひそ話をしていたと思えば、クックックッ、と漏れる声。
「…で、今回は…根回し・書類偽造・事後伝令のどれになさいますか?」
「お二人に反対する方々を大人しくして頂くとかもOKですわ…ホホホッホホ…」
「ばか!!声でけぇよ!!とにかく後で行くから!!」

漏れる言葉からすると、穏やかな話ではないのだろう。リディアは聞かない様に背中を向けて、スープをかき回していた。
 

 [廃位の王 3]  へ

 
 

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tommy
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非公開
自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
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