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ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
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―――――――――― ―――― ―――


何か夢を見ていた気がする。
騒がしい、でも心地よい。大勢の人の声、湧きあがる歓声。

急激に頭を冷やされる様な、あの感覚。
これは夢だと理解できる瞬間。

―――エッジ・・・?

何かを言おうとしていたのかもしれない。
だけど、目が覚める事はもう判っていた。

大きなベッドの中。見慣れたバロンの調度とは違う、色みを抑えた部屋。エブラーナの2日目の始まりだった。

「よ、寝ぼすけ。」
エッジは、と言えば。とっくに起き上がり、軽装の忍服に着替えていた。
「…自分がいつも、朝早いんじゃない…」
早朝の散歩ついでに修行でもしていたのだろうか、一仕事終わらせた様子のエッジは、せかせかと小さなテーブルを部屋の真ん中に出している。
「さっさと起きろ、朝飯だ朝飯。卵ごはんと焼き魚と味噌汁でいいな?」
そのテーブルがエッジの『食卓』と気が付いた時、リディアも慌てて椅子を運ぶのを手伝った。

―――エブラーナのお城って…食堂無いのかな…

勿論ない訳がないだろうが、エッジの事、おおかた『面倒くさい』と言う理由だろう。顔を洗ってくる、と急ぎタオルを持って扉を出る。確か、階段を下りた所に小さな水場があったはずだ。

廊下で番をしていた兵士に挨拶をしながら進むと、皆驚き、敬礼して道をあけた。
寝癖の付いた少女がひょこひょこと王子の寝室から出てくる様子に、皆心配そうに後姿を見送る。

―――あの方…若様の…?若様自ら、卵を取りに行かれた様だし…
―――あの歌の…翡翠の姫か?随分イメージが違うな…

記憶の通りに角をいくつも曲がってたどり着いた小さな水場にいたのは、先日の女官二人。

「うぉぉぉおおおっ!!やっぱ二枚しぼるのは厳しいわね!!」
朝から全身を使って、大きな布を洗っている黒髪の女官。
脇では小さな眼鏡をかけた女官が、穏やかに幾つかの布を捌いている。
先日、家老と一緒に大騒ぎしていた二人だ。

「おはようございます…えっと、カレンさん、アイネさん…でしたっけ?顔洗っていいですか?」
「はいは~い…って…リ、リディア様!?」

女官たちは王子の客人の突然の訪問に驚き、揃ってリディアの足元にひざをついたのだった。
「おはようございます。もう少しお休みになっているかと…申し訳ございません!」
「え?あ、あの…」
リディアが慌てて立つように頼むと、女官たちは立ち上がったが、共に小柄なリディアより背が高く、威圧感の様なものさえある。
「顔を、洗いに来たんです。」
やや気おされ気味にリディアが答えると、女官二人は顔を見合わせたのだった。

「こちらは、我らの仕事用の水場でございますので・・・エッジ様の私室脇に、王族の方用の水場がありますわ。」
穏やかに微笑むのはアイネと呼ばれていた女官。
「ああ、判りづらいですよね…でも、この様な場所を使って頂く訳には参りません!」

黒髪の女官・カレンは有無を言わさずリディアの背中を押す。先ほどのアイネより更に大きく、体格や身長は細身の男性程だ。
「王族って…私、そんな身分のある者じゃないし…あの、…ダメ…かな…」
「エッジ様とご一緒に、お顔を洗われませ。姫様。」
にっこりと微笑むアイネの腕の力は、意外にも強かった。

女官二人に再び王族居住区に戻されたリディア。
よほど驚いた顔をしていたのか、エッジはその姿を見てけらけら笑い出す。
「いいだろあいつら。頼まなくても色々教えてくれる。しかも少々手荒に。ま、女官兼身近な護衛みたいなもんだ。」

それもそうだったが、リディアが驚いたのは、あの二人の気迫だけではない。
バロンに滞在していた時、セシルとローザの友人兼補佐としてそれなりの身分として扱われていたものの、さっきの女官ほどの礼を払われた事はなかった。

「エッジ…私、そんな王族とか姫とかじゃないってば…お使いの魔導師なんだよ!?女官さん跪いてくれたんだけど、そんなんじゃ…ちゃんとそう言ってよ!!」
「まーそれもお仕事というやつです。はい。」
エッジははいはい、とリディアの肩を叩いてなだめると、隣にある水場へと案内したのだった。

扉のない、通路に面した小さな部屋。白い陶器に、控えめな光を放つ何色もの金の模様が施された、小型の噴水の様な蛇口。花の飾りをひねると、水が注がれ器に満たされた。
「この金の飾り、これは、遅効性のも含めてあらゆる毒に反応する様に、色々な金属で作られているんだぜ。一つでも変色したら、水に毒が入っているかもしれないって事だ。」

ふうん、と素直に感心するリディア。
確かに王族の身の回りは細心の注意が払われるが、食事は毒見できても、一滴の水まで及ばない。
「この色…きれいね。大陸の金色と違うわ。」
大陸では、豪奢な黄色に近いイエローゴールドが飾りの主流であるが、エブラーナでは銀に金を落とした様なシャンパンゴールドや、輝きを抑えた装飾が、調度を彩っていた。
「うちの国は、ゴテゴテって飾り付けるのはあんまり好きじゃないからさ。お国柄かな。」
色を変えない金の飾りを指で撫で、エッジは言葉を続ける。
「俺、こう言う風に頭使って仕掛ける、って言うの結構好きなんだよ。まぁうちの国は小さいくせに昔ごたごたしてたから、逆に知恵を絞って色々考え出してきたんだよな。」
「そうなんだ…」
エッジは堅苦しい事は苦手ではあるものの、この国が育んできた文化そのものは非常に愛している。常に口ぶりからそれが伺えた。

「ああ、昨日お前の言った事も気になってさ。周辺、調べる様にしたから、心配するなよ。」
「エッジ…ありがと…」
「…って、濡れた顔で見るな!!全く朝っぱらから!!」
されるがままに、顔をタオルでつかまれ、ごしごしとこすられる。

「さ~て!早く食事にしよう。王子様は午前のご公務に出かけたいからな。お前は女官と城を回ってな。禁止事項はナシ。いきなりバハムートとか呼ぶ以外はな。」
「はーい」
珍しく素直な返事をしたリディアに、エッジは一瞬拍子抜けした様な表情を見せたが、背中を押し再びリディアを部屋へ連れて行く。

「なーに?」
「ん~ん、何でもない。でも何か、お前がここにいるのが何かすごく不思議。」



『―――   セシル

おつかいは無事終わりました。エッジも喜んでいるみたいだよ。
少し滞在させてもらって、帰ろうと思います。

でも、流石に増強装置も無しに、エブラーナからテレポ―トするのは辛いかな。
シドおじちゃんが長距離飛行したときでも、立ち寄ってくれないかなぁ。

エッジは、戴冠式まで居ろ、っていうの。それはさすがに悪いなぁ…
久々にエッジに会えて嬉しいんだけど、迷惑にはなりたくないんだ。

あ、都合がつかなかったら、一人でも帰れるからね。
船とかでもいいし、どうにでもなるから心配はしないでね。


                           ――――      リディア   』

食事も終わり部屋に一人になったリディアは、荷物整理とセシルへの手紙を書きながら、時間を過していた。午前中は忙しいだろうから、城の案内は午後に頼むのが良いだろう。エッジは夕方まで公務で城を空けると言っていた。

エブラーナ城は外観は石造りの地味な姿だが、城壁の中には小さな町もある。
一つ目の門までの間に、低めの木々や泉を配置した小さな中庭があり、女官や小姓、庭師が午後の仕事に取り掛かっているのが見えた。

海に近い為、砂に近い地質の庭。その先にまた、城下町へと通じる門がある。簡単な作りではあるが、立派な一国の城だ。

―――何処を見ようかな…エブラーナにも魔導師が居るって言ってたし…

城内を見回ってよい、と言われても、小国とは言え十分な広さだ。

「姫様、ご用意が整いました。」
女官の一人、アイネがドアをノックした。
続いて、もう一人、カレンも姿を見せる。先日の彼女のホホホ、と言う大声が一瞬浮かび、再び汗が出そうになる。
「さ、お召し変えいたしましょ、リディア様。」
そんな事は露知らず、カレンは脇に抱えた袋を解き、手早く持ってきた服を広げてゆく。どことなく荒っぽい動作だが、さばさばした気性を感じさせる振る舞い。

「どちらがよろしいでしょう?」
アイネは緩やかに波打つ亜麻色の毛を二つに縛り、肩口にたらし、調和している茶色の瞳が美しい。穏やかな表情と口調で、賢しげな印象を受ける女性だった。二人とも女忍者、と言う訳ではなさそうだが、少なくともか弱き女性ではないだろう。

外出用の衣装は貴族用のもので、リディアにとっては華美な物が多かったが、その中でシンプルな魔力耐性のある素材で出来た淡い色のローブを、シャンパンゴールドのブローチで止め上げる。

「見てみて!やっぱり姫様、お似合いだわ!!御髪の色がとても映えるわね!!」
自分達のチョイスが正解だったと、女官達は嬉しそうに頷いている。
「あ、あの…」
何でしょう!?と元気良く同時に答える二人。
「わ、私…姫とかそんなじゃ…身分で言えば、女官さんにも及ばないんです。だから…」

「なりません!!姫様!」
と、答えるやいなや。カレンは何故か細身の刀を取り出し、腰に差した。やや小型ではあるが、青龍刀と呼ばれるものによく似ている。
「へ、へ!?あの、何処へ行く…んですか…」
リディアは目を丸くするが、アイネの方も背中に、棒に刃のついた武器を背負っている。
「あ、これは薙刀と言うんですよ。女性でも扱いやすいんです。」
「あの…どうして二人はお散歩に刀とかナタを…」

黒髪のカレンが振り返る。
「我ら2人で、エッジ様の大切な方ををお守りする為です。忍者には及ばずながら、我々は王宮内で武器の携帯を許されております。貴人をお守りする為です。」
「あ、ありがとうございます…」
エッジの大切な客人、と言われるなら判るが、響きがどうもおかしい。大体、ナタを持ってまで守る程の立場だろうか。

「浮名を流したエッジ様ですが、心底ご寵愛されている方は今までおりませんでしたのよ。そうよ、結局何処の方も、エッジ様のお手を煩わせるだけで…」
いよいよ、その言葉に首をひねるリディア。
「へ!?ち、…寵愛って…あの…」
思わず2、3歩下がるも、迫り来る女官。
「そして、その方をお守りするのも女官の仕事でございます。さぁ、参りましょう!」
「カレン、そんなに強く引っ張ったら、小さなお体には負担よ。」
リディアの両脇についた二人の女官は、そのままずるずると小さな身体を引きずって行く。

―――寵愛って…確か…

「え、わ、私寵愛とか…そんな…待ってぇええ!!」
どうやら、自分はエッジの恋人と言う扱いらしい、と言う事に初めて気がついたもののすでに時遅く、回廊の兵士達の敬礼に複雑な表情で答えながら、リディアは表に出たのだった。


「おはよ~!!アイネ!!」
すれ違い様に、女官たちに声をかけてゆく子供達。城の中庭には貴族の子供達が、所狭しと駆け回っていた。

エブラーナ城の中庭では来客が来る時以外は、貴族の子供が遊び回るのを黙認していた。貴族と言っても小さな国だけに、大貴族以外は、城の仕事を持つ位で平民と変わらない。中には両親共に王宮使えの家もあり、子供は子供同士で遊んでいる事も多かった。

バロンに比べて王宮らしからぬその様子に驚いたものの、バブイルの洞窟で初めて会ったエブラーナの民、子供達はこんな風に思い切り、外を駆け回る日が来る事を願っていたっけ、と思い出す。何処の国でも子供は元気だ。

おねーちゃん何処の人ぉ!?髪の毛綺麗だね!と、親しく声をかけてくる子供も居た。
幾人かはリディアの事を覚えている様だったが、『碧の髪のお姉ちゃん』と呼び、名前を覚えている子供まではいない様だった。

しかし、中庭の小さな噴水にたどり着いた時、リディアの名前を呼ぶ声がしたのだった。
「―――リディア様!!僕の事、覚えている?」
「こら!!控えなさい、大切なお客様よ!!」
カレンが少年を制しようとしたが、リディアもその姿に見覚えがある。

「あ、確か・・・!!」

―――お母さんは僕が守る!お腹に、弟か妹がいるんだ!!

バブイルの洞窟に居た、身重の母を気遣っていた少年。
あの頃に比べて小奇麗な身なりをしているが、確かにその面影が見て取れた。

「あの時の!?えっと、確か・・・」
「そうだよ!覚えていてくれたんだ!!じゃあやっぱり、リディア様だよね!?ねぇ、セシル様とかは一緒じゃないの!?ねぇ、翡翠の姫様!!」

エル、と名乗った少年。子供達のリーダー格である様で、次々にまわりに仲間が集まってきた。
「!リディア様、こちらはそろそろ…」
女官が袖を引くも、既に10人近い子供達に周りを固められている。
「ええーっ!!翡翠の姫様!?」
「本当だ!!歌そっくり!!!」

口々に自分を『翡翠の姫』と呼ぶ子供達。
その中の一人が、立ち尽くすリディアのローブを引っ張って大声を上げる。
「姫様ぁ!いつ、エッジ様と結婚するの!?」
一人の子のその言葉に、子供達が色めき立った。

「うわー!!!ケッコンだー!!」
「結婚式では“ちゅ~”するんですか!?」

―――へ!?

「お黙りなさい!!お客様に失礼な事、言うもんじゃありませんよ!!!」
大声で騒ぎ出す子供達に、ついに控えていたカレンが乗り出し、大声で言い放ったのだった。
「うわー!鬼婆カレン!!!逃げろ~!!!」
「怖いよ~!!!早く結婚しろ、鬼ババ~!!!」
逃げ腰の子供達の言葉に、カレンの表情が一変する。
「何ィ…この小童どもが!!!」
エブラーナの娘は20位には結婚するのが一般的らしい。見た目カレンは十分若いが、エッジよりも半年ほど年上と言うのは周知の事実だった。

「いきおくれ~!!獰猛女~!!人間戦車~!!!人間大砲~!!!」
「黙れガキども・・・いえいえ、早く帰りなさい!!」
カレンの剣幕に、子供たちはちりぢりになり走り去ったのだった。

―――――け、結婚!?翡翠の姫って…何の事?

そう言えば。農家の庭先であった男の子も、何だか似た様な事を言っていた様な。
「参りましょう!リディア様。」
こめかみに青筋を残したカレンが振り向く。
「あ、あのぅ、あの子達が言ってた結婚とか、姫とかって…」
「何でもありませんわ。ホホホホホ!!!さ、参りましょ!!」
足を早める女官。待って、とリディアも駆け出した。
「姫様、カレンは、結婚ネタは耳が痛いんですよ。すごく周りがうるさいらしくて。」
アイネがこっそりと耳打ちしたのだった。

そして程なく。
「ご覧下さい。ご覧になりたいと言われてた魔道師ですわ。あちらに。」
j少し先を指す指先、石垣に囲まれた一角から、一瞬火が上るのが見えた。火花や閃光が飛び、小姓達が群がって歓声を上げている。

「オルフェですわ。いわゆる宮廷お付の魔導師です。魔法の練習中の様ですね。」
アイネがリディアの目線を追って答える。
「エブラーナで、宮廷魔道師がいるの?意外だな。」

小姓にまぎれて石垣の中を覗くと、細身の青年が杖を手に取り、呪文の詠唱を始めている。お付、と言うには年若い魔導師。黒髪、というには色の薄い蒼髪。清楚に整った顔立ち。袖の長い袷のローブは、どことなくエブラーナ風だ。

「ファイラ!!」
ひときわ大きな火柱が上がり、小姓たちには堪えたかひゃあっ、と叫んで飛び退った。しかし力の制御を誤ったか炎の広がりが乱雑になり、魔道師慌てて、小姓たちに声をかける。

「大丈夫か!?」
皆しりもちをついた程度で、小姓達に怪我はない。
「貴女様は…お怪我はございませんか?!」
男はリディアを見つけ、こちらに近寄って来た。エッジとはまた違い穏やかな物腰。
「オルフェ!ご無礼を・・・こちらは・・・」

「リディアと申します。…バロンから来ました、一介の旅の魔導師です。」
言葉をさえぎる様に、即答するリディア。
「炎の魔法は、制御が難しいですよね。」
オルフェが手にしていた杖は、主に白魔法で用いられる木製の杖だ。エブラーナで魔法の専門道具をそろえるのは、難しいと言う事だろう。
その言葉に、魔道師の青年はリディアが魔法に造詣があると察した様だった。
「お恥ずかしい限りです。宮廷付魔導師と名を頂きながら、制御もままならないとは…」

一行が散歩の途中だと知ると、魔道師は同行を申し出た。他国の魔導師と接する機会は滅多に無いこの国、無礼を承知の事だろう。

彼は幼い頃よりの王宮仕えをしており、エッジとも幼なじみだという。幼い頃から大人しめの性格故か、従者の立場をわきまえていた彼が聞き役に徹していた為か、エブラーナでは異端の魔道師ながらエッジから信頼され、側に置かれているらしい。

庭園から中庭を出ると、林道を抜け、城壁近くには将校の宿舎が立ち並んでいる。瓦で葺かれた佇まいは昔は『武家屋敷』と呼ばれていた、と女官が説明した。『魔道師舎』と書かれた建物は、若干外国の建築を取り入れた小さな洋風の家。
窓から顔を出した魔道師らしきが、四人に礼をした。

「この国に、魔導師はどれ位居るんですか?」
「この城で、見習いを含め10人程度です。あの者の様に、直接軍事に関わる者は宿舎に。」
「軍事…エブラーナで、魔法がですか?」
リディアは魔道師の顔を見上げる。
「防衛の研究です。忍術は一種の技術。白兵戦は無敵ですが、対魔法は未知数ですから。」

エッジの使う忍術は、魔法とは根本的に違う。
火遁の術を使う時、着火はエッジの手元でされている様だ。それを広げるのは気の力や色々あるようだが、動作は一瞬のうちに終わってしまう。
「えっと、火をつけるのは技術、後は気力…って言ってたかな。でもすごく早くて。」
「・・・良くご存知ですね。エブラーナへは、エッジ様を訪ねて?」
オルフェは、リディアがエッジの仲間だと言う事に気が付いていない様だった。曖昧に頷くリディアの横から、カレンが声を上げる。

「ちょっとオルフェ!!こちらはエッジ様の奥方候補・・・うげッ!!」
その横腹をすばやく突いた、亜麻色の髪の女官。
「ご友人ですわ。ね、リディア様。」

「は、はい・・・その通り・・・です。」
青くなったカレンの顔色を目の当たりにし、リディアは思わず敬語で答えていた。


そして、一行が城の裏手の馬屋に近づいた時。
一頭の馬が張り巡らされた柵にそって近づいて来るのが見えた。
「ハヤテ!!」
カレンが驚いて声を上げる。薄い銀色の毛並みの馬は、リディア達の前で止まった。その名前にも確か、聞き覚えがある。

―――この馬、確か・・・

エッジの愛馬。優秀な軍馬だったが、先のルビガンテとの戦いで負傷し、引退したと聞いた。
「全く、馬屋係は何しているの!?」
カレンは横腹を押さえながら、ハヤテの手綱を引っ張る。しかしハヤテは、手綱を引かれても小屋に向かおうとはしない。駄々をこねる様に鼻をならし、その場を動こうとはしないのだ。
「こんなに聞き分けなかったかしら。馬屋係を呼んでくる。二人とも、リディア様を。」

馬小屋の方に歩いてゆく女官。ハヤテはそれを見て、その場で足を踏み出す。
「どうしたんでしょう…?軍馬とは言え穏やかで聞き分けの良い性格です。それが一頭で飛び
出してくるなんて。」
「ええ・・・迷い犬でも入ってきたのかしら・・・」
皆で馬小屋の方を見るが、別段変わった様子もなく、誰も居ないようだ。
「馬小屋係!!誰もいないの!?ハヤテが、外へ―――」
入り口から馬屋係を呼ぶ声はこちらまで届くも、返事はない。
「え・・・何これ、閂も壊れている。一体どうしたの!?誰か!!」

女官が中に足を踏み入れた瞬間。
「きゃあああっ!!!」
ドン、と言う短い音と、悲鳴が馬小屋に響いた。
「何!?」
一瞬地面が揺れ、アイネとオルフェが驚きながらも、リディアを守る様に前に出た。

―――この流れ…魔力?

かすかに周りの空気の流れが変わったのを肌で感じるリディア。
「カレンさん!!」
「リディア様!!」
馬小屋に入った時。軍馬は皆力なく座り込み、首をもたげてリディア達を見上げる。全員が、呆然として僅かの間立ち尽くすしたが、我に帰ったオルフェはうなだれる馬達を覗き込んだ。

「この傷・・・血を抜かれている様です・・・」
「カレンさんは・・・あっ!!」
通路の奥の方に、カレンが片膝をついて身をかがめているのが見えた。側には壁が焼け焦げている。この範囲攻撃は明らかに魔法の炎、間一髪直撃を避けた様だ。

「アイネ!!リディア様をすぐ外へお連れして!!―――いえ、後ろ!!」
「えっ…きゃああ!!」



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プロフィール
HN:
tommy
性別:
非公開
自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
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