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ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
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それは、初級白魔法の呪縛術。
幾重もの円状の拘束は振り向くよりも早く、四人の身体にまとわり付いていたのだ。
しかしリディアには到底及ぶ魔力ではなかったのか、一瞬の痺れは小型の杖を腰から抜いた途端、消え去った。
「魔法…なぜ…!?」
追撃をする様子は無いが、三人にかけられた呪縛は解かれていない。身構え、魔力を溜めながらも、ぴりぴりとした緊張が、リディアの身体に走っていた。

「ちょっと…何これ…!?」
「くっ…これは確か、白魔法の…」
それなりの力をもつであろう魔道師であるオルフェも、呪縛を解くのに苦心している。明らかな敵意の上の拘束、いたずらの類ではない。

―――何がしたいの…?
―――この国で…こんな所で…魔力を使うなんて…

誰がこんな事を、と言う疑念。外れとは言え城壁の中。何もない馬小屋。そして馬達や、身分も金目の物も明らかに持たない一行にこんな事をして何になるのか。 兵舎も近い城壁の中だと言うのに。
そしてあまりにも不自然なのは、忍の国で何故魔法を使い攻撃を仕掛けるのか。

「運のよい方だ。二人掛りの呪縛でも、封じられぬとは…」
声は上から聞こえた。
「誰!?」
顔を上げると、薄暗い向かいの梁の上に人影が見える。前に1人。左右の梁には魔道師のローブに顔を隠す者が2人。
「刀は頂き損ねたが…王族直属の侍従殿とは、思わぬ収穫だな。」
「だ…誰だ!?」

侍従、と男は3人を判断したが、女官達はその男を知らない。 切れ長の目に、細身の身体。何処と無くエッジを思わせる銀髪、地に飛び降りた身のこなしは、エッジにも匹敵する程の軽やかな物。険しい表情をした、壮年にかからない男。

―――誰?何をする気なの…?
銀髪の男は、リディアを一瞥する。
「そこの娘。動ける様ならば行くがいい。貴女には、私が現れた事をエドワード殿下に伝えて頂こう。」
「一人では嫌…皆を放して。貴方は誰なの?」

首を振る。そんな甘い言葉には乗らない。
何者かは判らないが、この男が3人を無傷で帰すとは思えない。既に身動きのとれない侍従達には、魔道師らしき男2人の杖が向けられているのだ。 背を向けた瞬間、自分が焼かれない保障は一切なく、エッジを殿下、等と呼ぶ言葉の裏には、明らかな敵意が見て取れる。

「…炎に焼かれる事になるが、それでもよいのかな?」
男がなおも問いかけるが、リディアは口を開かなかった。
「早くお逃げください!リディア様!!」
「そんな事できないよ…」
冷たい光を湛えた男の瞳は、リディアをとらえたまま、微かに細まった。

「ならば引導代わりにする事だ。このウォルシア・ジェラルダインの名をな!!」
「え…?」
次の瞬間、視界の端に炎の影が走る。
「!!リディア様、早く逃げて!!」
侍従達の顔が恐怖に引きつる。脇の二人の魔導師が、ファイラの魔力を向けている。直撃すれば無防備な三人の命は無い。

だが、その炎が轟音とともに発されると同時に、リディアは呪縛の解けない侍従の前に躍り出た。
「―――ファイラ!!」
唱えたのは、同じ炎の魔法。しかし吸い込まれる様に、魔道師の放った力はリディア一人に方向を変え、その身体は炎に包まれた。

「な…んだと!?」
「リディア様!!」
ウォルシアと名乗った男と、女官の叫び声が響く。
しかし魔力の渦の中心にいたリディアは力をそのまま上へ放ち、炎は上空へと放たれた。
「魔力の…相殺?!馬鹿な、詠唱も無く…」
炎の魔法の変形だった。ファイラの魔力を渦の様に巻き、それを呼び水にして魔力を全て引き寄せる。動きに変化を出す為に、あえて詠唱をせずに魔力を内側で練っていた。 一瞬で出来る事ではない。身構えて準備していたからぎりぎりの所で発動できたものの、間一髪の所だった。

上空に放たれた魔力は馬小屋の天井を突き破り、火柱を上げる。それ程の魔力を向けるのは、敵意を越えた殺意があると言う事。
「くっ…まずい…ウォルシア様!!城の者に気づかれます!!」
「待ちなさい!!こんな事―――許さない!!」

魔道師らしき男達は、すばやく指笛で合図の様な音を鳴らし、移動魔法らしき詠唱を始めるが、渦に引き裂かれ、全身に傷を負いながら三人の男に向けたリディアの表情は、既に戦いの時のそれだった。
「ば、馬鹿な…お前は一体…」

男達はたじろぎ、リディア一人に向き直ったが、次の瞬間、杖を引いて飛び退った。
「狼藉者!!リディア様から離れろ!!」
リディアの背後から、自由になったカレンが抜刀し、銀髪の男に飛び掛ったのだ。
「女官風情が!!」
銀髪の男は一撃目をいとも簡単に払うも、刀は二撃、三撃と繰り出される。他の二人も武器を構え、魔道師を威圧した。完全に不意を撃たれ無防備となった侵入者達に、リディアは再び詠唱する事なく、その指先から魔力を放出した。
「スリプル!!」

いよいよ男達は驚愕の表情を見せた。
初級魔法とは言え、詠唱も杖もなく即座に魔力を発動する事は、強大な力を持つ魔導師と言う事。銀髪の男は間一髪その力を逃れたものの、後ろにいた魔導師達は途端に膝をついたのだった。
「―――役に立たぬ奴らめ!!!」
男は女官を武器ごと弾き飛ばすと、魔道師達に刀を向け、躊躇いなくその身体を次々に貫いたのだ。

「きゃあああ!!!」
敵とは言え、あまりの無慈悲な行為にリディアのみならず侍従たちも一瞬、思わず目を逸らす。だがその隙に、銀髪の男の姿は一瞬閃光に包まれ、その姿を消した。

「な…に…」
移動魔法の余波だったが、初めて目にする侍従達は目を見開く。
だが、リディアが驚いたのは勿論その事ではない。今のは男が発動した移動魔法ではなかったのだ。外からの力が、男を移動させた。それが示す事は。
「仲間…が…いるの?」 
リディアは無意識に、オルフェのローブにしがみつく。
「リディア様…」
だがそれよりも、全身に傷を負い血をにじませたリディアの姿に驚愕する侍従達。 オルフェが回復の魔法を唱えるが、浅いものの数が多い。騒がれない様静かに部屋に帰り、手当てをした方がいいだろう。幸いにも、魔法耐性のある布を選んだお陰か、服はひどく破れている所はなかった。

「この二人、もはや…報告し、埋葬してやらねばなりません。」
慎重に倒れている男達の様子を伺い、アイネが首を振った。
二人の魔導師に、身元を表すものはなかった。ローブも杖もいびつで見よう見まねで作り上げた感がある。明らかに魔力の保護や増強には不完全な物。そのお陰で、二人がかりの魔法を跳ね除ける事が出来たのだろう。
「…皆さん、ここを出ましょう。大事かもしれません。」
オルフェはしがみつくリディアの手を柔らかく解き、自分のローブを脱いでその姿を隠す様にかけた。
「目立たぬ様に城に戻り、直接家老殿にお話をした方がいい。」

一行が馬小屋を出ると、一人の若い兵が走ってくるのが見えた。その後ろから数人の庭番の兵士が走ってこちらに向かってくる。カレンはその姿を見て、声を上げる。
「トマス…近衛兵が…城にまで、聞こえていたの?」
「カレン!!アイネ!!リディア様はご無事か!?」
「…ええ、お命には…でも…」
リディアはアイネとオルフェの影に身を隠していた。客人を怪我させたとあっては、侍従達が罰をうけるかもしれない、と思っての事だが、どうやらこの青年は親しい仲間の様だ。
「リディア様のお怪我は?いや、君もすごい怪我じゃないか!?」
「…私は大した事ないよ。トマス…ごめんなさい。駆けつけてくれて悪いけど…直接、家老様にお話をした方がいい事かもしれない…」
「え…でも…」
戸惑う近衛兵。カレンはアイネとオルフェに向き直ると、二人もその言葉に頷く。

「兵を下げて頂けますか。トマスさん…申し訳ございませんが…」
オルフェが頭を下げると、トマスはためらいながらも頷き、背後に控えた兵達に下がる様に告げたのだった。 若い近衛兵とカレンが武器を持って先頭に立ち、一行は城に向かった。既に敵の気配は消えていたが、リディアの姿はしっかりと、アイネとオルフェに隠されていた。

「あ…これ、かぶるかい?」
近衛兵が頭に巻いていた布を外し、カレンに差し出す。
「あんたの頭巾なんて…目立たない方がいいのよ、こっちは!」
「目立つって…カレン、鼻血すごいじゃないか…」
男の剣先を捌いたものの、突き飛ばされた女官は顔面から柱に打ち付けられ、鼻血が出ていた。いくら戦いの末とは言っても、女性が鼻血の跡を残しているのはあまりいいものではない。
「私が目立つ分にはいいのよ!!リディア様…っと、いいから気にしないで!!」
「いや、でも、また子供達に色々言われるよ?」

トマスと言う青年は、近衛兵と呼ぶには若い男。カレンよりも年下だろうか。 二人のかけ合いを見るアイネとオルフェの顔からは、険しさが抜けていた。

それにしても、とリディアの脳裏を、先ほどの男がよぎる。
「あの人…ジェラルダインって…」
王家の名を名乗る者の襲撃。おいそれと、広めない方がいいのかもしれない。その言葉が嘘ならば恐らくは死罪に値するだろう。男の名乗った名は、本当なのだろうか。
「ご心配に及びません。私の方から、すぐに家老様にはお伝えいたします。しかるべき処置が取られる事でしょう。リディア様は、お部屋にお戻りになり、手当てをお受け下さい。」

「オルフェ…あの話の事?王勺…廃位の王…ただの噂話では…」
「ええ。廃位の王の名をかたる…だけのもの、でしょう。」
オルフェに続いたアイネの言葉に微かにこめられている恐れ。

―――皆…あの人が誰だか知っているの?

やっと緊張がとけたのか、今になって切り裂かれた腕の傷が痛みだしている。 城内に入るとすぐ、オルフェと近衛兵は家老を探しに駆け出し、三人はなるべく人目に付かない様に、エッジの自室へ戻ったのだった。


「リディア様。お腹がお空きでしょう?こちらをお召し上がり下さい。お怪我の手当てが終わりましたら、改めてご用意いたしますから。」
アイネはサンドイッチをソファの横のテーブルに乗せ、傷の手当てを始める。
「ありがとう…」
一つだけサンドイッチをほおばる。おそらくは、彼女達の昼食。 幸いにも傷の数は多いがそれほど深くは無く、オルフェが血止めをした大きな傷以外は、薬を塗って済むような物だった。
「カレンさんも、大丈夫?顔色が…」
「い、いえ…私、あんなへんな力を使う敵とはまだ戦った事はなく…情けないんですが、その、震えが止まらなくて…」
この国では、大仰に刀を振り回す度胸の持ち主ですら、魔法と言うものは初めてなのだろう。

「カレン…リディア様は、こんなにお怪我をされたのよ。私達の至らなかったせいで…」
「そんな事ないよ…皆無事でよかった。」

―――エッジ… 大丈夫かな…

先ほどの男の、エッジへの明らかな敵意。
エッジは今、何処にいるのだろう。 あの男は、エッジを狙っているのだろうか。

そして、一通り手当てが終わり、三人が胸を撫で下ろした途端、乱暴に扉が開いたのだった。
「リディア!!おい、何があったんだ!!」
聞きなれた声に振り向くと、エッジが息を上げて部屋に駆け込んできた。遅れて背後から、先ほどの若い近衛兵が後を追ってくる。

「エッジ!お帰りなさい。早かったね。大丈夫?息が…でも、怪我なくてよかった!!」
珍しく、肩で息をしているエッジ。
「早いって…あたりめーだろうが!!俺が何で怪我するんだよ!?」

エッジは今日は海上運搬の視察で、近くの海岸の集落まで大臣と出向いていた。 トマスは早々に急を知らせる為に走り、事の次第を伝えると、大臣に全ての事を任せ、急いで城へ戻ると馬に乗り駆け出した。

城門に馬を置き、兵士の迎えも全速力で突破した為、何事が起きたのかと玄関は騒然としたらしい。リディアの怪我が軽いと判ると、安堵したのか大きくエッジの肩が落ちた。
「って…いや、一体何があったんだよ!?」
「も…申し訳ございません!!私達が…」
女官の声は、エッジの耳には聞こえていない様だった。リディアの肩をつかんで、じっとその顔の傷を見つめたままだ。
「お前ら、ちっとも悪くねーよ…悪いけど、二人にしてくれないか?」
「は、はい…」
リディアは、サンドイッチを目で差して、持ち帰る様に伝えたが、女官二人は気付かず部屋を後にした。

「エッジ…重いって…」
エッジは、リディアの額に唇を乗せ、その身体を胸にすっぽりくるんでいる。
その胸に顔をうずめると、まだ早鐘を打っているエッジの胸の音が響いてきた。

「―――帰ってきてくれたの?ごめんなさい。心配かけちゃったね。」
「本当だよ。こんなぴんぴんしやがって…」
「ああ…」
肩の力が抜け、大きな息が漏れる。

「ごめんな…怖い思い、さしちまって…」
首を振り、更に深くその胸に顔をうずめると、横目で扉の外に、薬箱を持った家老が慌てて姿を消すのが見えた。



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自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
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