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ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
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前夜 ~side C
 
 
「セシル~!!本の片付け終わったよ。次はこの書類、分ければいいの?」

う~ん、頼むよ、と本の壁の中からの声。
リディアは大きな箱に『大切』『お金』『秘密』『その他』『判らない用』と書いて、次々に書類を分け入れて行った。

「すまないね、リディア。」
「この本…法律、って言うんだよね。国の決まりって。掟とおんなじなのかな。」
リディアも時折ぱらぱらと分厚い本をめくって、へぇ~、あ、そうなんだ!と言う声を時々漏らしながら、法律の文言に目を通している。
王になる為の最低限のたしなみとは言え、僕は今一つ、机での勉強と言うのは好きではない。

「…本が好きだったね。そう言えば。でも、ここの本じゃつまらないだろう?僕、ちょっとその回り
くどい表現が苦手でさ。ローザは辞書引きながら、すごく勉強してるんだけど。」

ようやく本の一列がどけられ、その顔が見えてくる。

――― セシルが執務室にこもると、後がすごいのよ!それがここずっと!
――― リディア、セシルが遭難しない様、頼むわね!!

ローザの言葉通りだね、と広いはずの狭い室内を見回すリディア。3日間執務室にこもりきりな僕は、あわや本と書類の中で遭難しかけていた。
「うん。でも、幻界の図書館でも、こう言う難し~い本がたくさんあったの。あそこで勉強してたから、何だか懐かしいなぁ」
「すごいね。これが出来る位なら、リディアもいい王妃になれそうだね。」
「へ?王妃様?」

「あ、えっと…いや、何でもないよ。」
 
これじゃ、切り出し方が悪すぎるな・・・
 
リディアがバロンに来て1ヶ月程になる。
バロン屈指の力を持った老黒魔道師の急逝で、魔道師隊の残務処理の為、強力な魔力を持つ黒魔道師の手が必要になった。

リディアにお願いした所、快くその申し出を引き受けてくれて、老魔道師が残した封印や結界を解く手伝いをしてくれた。しかし仕事は終わったものの、数ヵ月後に戴冠式と結婚式を同時に控えた僕とローザの身辺は慌しく、その手伝いをしている内にバロンに居ついてしまった、と言う所だった。

「あ、もしかして、近くで王子様がお嫁さんを募集しているの?行っちゃおうかな、なんて!」
「い、いやちょっと遠いけど…、いや、そうじゃなくて…」
 
―――何とかこの機会に、エッジをバロンに呼べないかしら?
―――あなたが寝込んだ…位じゃ無理そうね。
―――リディアに3日間スリプルをかけて、病気って言えば…
 
いや、待ってくれローザ。
僕も色々考えてはいるんだが…この忙しさじゃ、リディアがバロンに来ている事を不自然さなしにエッジに知らせるのも難しい。リディアが来る少し前、シドに使いを頼んじゃったばかりだし…あそこまで手紙を送る口実もない。

大体、何日も魔法で眠らせるのは危険だよ。

ばたん、と、いやドカンと言う音と共に扉が開いた。
 
「おおセシル!!って、セシルはおらんのかリディア?」
聞こえてきたのは、最もこの場に似つかわしくない声。
「おじちゃん!!えっと、セシルは…その、右奥の方に居ると思うんだけど…」
いや、今僕が居るのは君の後ろだ。かまわず本を掻き分けようとする来客の姿が隙間から見えて、慌てて飛び出す。
「シド!!何か用かい?」
シドの手は、仕事柄いつも油まみれなんだ。一応、貴重な本もあるんだから。

「おおセシル!そんな所におったのか。探したぞ。いや、例の飛空挺の小型化じゃがな、あれ、結構簡単に出来よったわ。」
「え、本当かい!?」
「本当じゃい。まだ細かいテストはしとらんが、しっかり飛びよる。後は船体の調整と、長距離飛行をクリアすれば良いだけじゃ。」

「な~に?何の話?おじちゃん、セシル~!?」
リディアは目をぱちぱちとして、僕とシドの顔をかわるがわる見ている。後で説明するよ、と目で伝え、資料を取り出すシドの言葉を待った。

「飛空挺をあのまま小さくするのは難しいからの。大きさ10分の1、積載量を一家族分にして、全く違う動力を使ったんじゃ。この程度なら、外国に出しても軍事には転用出来ん。」

ぱらぱらと資料をめくり、説明するシド。実の所、僕も飛空挺の理論は判らないのだが、ともかく小型の飛空挺は実現できるらしい。
「前から、小型飛空挺があればと思っていたんだ。緊急用とかに小回りが利くほうがいい。」
「そう思うとは、さすが時期国王じゃなセシル。あのナマクラ王子もたまにはいい事言うの。」
言わば兵器である飛空挺は、見た目の派手さも大切と言う事もあり、大仰に作られ過ぎている所もある。これが例えば2、3人が乗ってちょっと移動する程度の物ができれば、いいなとは思っていた。

「エッジ…?」

資料を覗きこんでいたリディアが顔を上げる。
やっと、その名が出てきた。

「戴冠式の招待状を、シドに届けて貰ったんだ。エブラーナまで。その時色々、ね。」
「あ、そう…なんだ。」
それでも前々から小型化の研究だけはしていたものの、実用化が不透明な事から試作とまでは行かなかった。ところがシドの乗って行った大型飛空挺を見たエッジが、

―――これ、もっと小さくならねぇの?

と、言ったのが始まりで。シドのプライドに火をつけてしまった様だった。
若干、リディアは気のない返事をしたけど、シドはお構いなしにしゃべり続ける。
「大変だったんじゃぞ!!このワシが公式の使者をやったんじゃ。もう堅苦しい正装やらポマードで髪はべたつくわ、ゴーグルは眼鏡になるわ、難しい文句やら…普段の使者ならツナギで良いが、公式の使者となればそうは行かんからの。」

ポマードで固められた髪形を手で再現するシド。リディアは口を押さえてころころ笑い出した。

「済まなかったよシド。でも、お陰で助かった…その飛空挺、完成のめどが立ったらすぐに教えてくれるかな?」
「勿論じゃ。さて、ワシはもう行くぞ。お前達、そろそろ茶でも飲んだらどうじゃ。このままじゃ本に遭難してしまうぞ!!」
来た時と同じ様に、ドカン、バタバタと部屋を出てゆくシド。ちょっと油の匂いが凄い。
その言葉通り、時計の針は、昼食を取らないままとっくに15時を回っていた。
 

  
「…どうしたの?リディア。」
リディアの手が止まっている。スコーンを片手に持ったまま、スプーンが宙に浮いていた。サンドイッチも減っていない。
遅すぎた昼食。お腹が減ってないのかな。それとも、減りすぎたのかな。
「えっ…ああ、あのね、どのジャムをつけようかな、って思って!」
「このマーマレード、美味しいわよ。」
素直にローザの差し出すマーマレードをスコーンに塗り、ほおばっている。

「ああ…リディア。さっき、エッジの話が出ただろう?彼は、元気にしているよ。」
さっきより、ちょっとは自然に出せただろうか。
 
「そうなんだ。近くだったら会いに行っても、良かったんだけどな。残念。」
ローザの耳がぴくり、と動く。
「いーえ、心配は無用よリディア!!魔道師隊の棟に、魔力増強装置の魔法陣が新設されたわ。あなた程の魔力があれば、移動魔法でエブラーナはひとっとびよ!!」

魔法陣でワープ?ああ、魔導師隊が研究している,デビルロードの技術の・・・って、何時の間に、そんな所まで手を広げたんだ、ローザ・・・

リディアは少し、興味を引かれた様だった。
「ふうん。機会があれば…使ってみたいな。結構すごい技術らしいよね。」
「別に飛空挺で…」
「早いほうがいいわよね。」

・・・ここは、ローザのリズムに合わせた方がいいかな。

「まぁ、家老さんにお見合い話ばかり持ってこられてうんざりしてるみたいだね。リディア、遊びに行ってあげたら?」
「え!?だ、だって用事ないもん!!」
リディアは首をふりながら、スコーンの残りを口に放り込んでいるが、ローザの目は更に光を強く放つ。
「ねぇセシル、エブラーナに用事、無かったっけ?何かあった様な気がしたけど…」

いや、そんな急に言われても・・・
 
リディアがバロンに来てから、はっきりとエッジの話が出たのは、これが初めてかもしれない。忙しい、と言うのもあったけど、言い出せなかったというのもあった。
 
幻界に帰る時、じゃあまたね、バイバイ、と言う感じで遠い世界へ帰ったリディア。
エッジは彼女を遠まわしにエブラーナに誘ったらしいが、それは本気とは取られなかった様で、その時の落ち込み様ったら無かった。
勿論本人は平然とはしてたけど言葉も表情も、笑い声も冗談も、全てが気が抜けた感じだった。リディアもリディアで、さっきもそうだけど、何故か若干エッジの話題には構えてしまう様だ。

「皆に会えるのは嬉しいよ。でも…エッジは国の建て直しで忙しいだろうし…それに…」
「だから、励ましに行ってあげるとか。ねぇ、セシル。」
「でも…」
 
ふとその時、扉がノックされた。
「失礼します。ローザ様は、ご在室でしょうか。」
「あ、ちょっとごめんね。」
ローザが慌てて席を立つと、白魔道師隊の女性が顔を見せる。ローザの片腕とも言われる、優秀な女性魔道師だ。
「実は、先日の魔術兵器密輸の件、情報が入りまして…」
「本当に!?判った。すぐに行くわ。」
席に戻り、紙ナプキンで口元を拭きながら手早く食器を重ねだす。
「ごめんなさい、しばらく外すわね。」
じゃあ後ほどね、とローザは足早に扉へ向かい、魔道師と共に姿を消したのだった。

「エッジかぁ…元気だったら…いいんだ。うん。」

リディアの性格を承知の上で、ローザが少々強引なのも訳がある。立場も住む場所も違う二人。そして、過ぎる時間さえも。エッジは勿論、もうリディアだって子供ではない。でも―――
 
―――リディア。君は、何を考えているの?
―――エッジの話、聞きたいの?聞きたくないの?
 
「リディア…よかったら、戴冠式まで地上に居ないかい?」
「え、うん…迷惑じゃないなら、何か手伝う事があるのなら…いいよ。」
そう、と頷くと、残ったスコーンをリディアの皿に移した。
「ちょっと先だけど、用事を頼むかもしれないんだ。」

僕なりの賭けだった。上手く行くかは、シドにかかっている。
 

そして、1ヵ月後。
飛空挺テスト成功の知らせは、思ったより早くやって来た。しかもかなり。
 
「エブラーナに、お使い?私が!?」
「うん。シドの小型飛空挺、完成のめどが立った様なんだ。完成したらまずはエッジにプレゼントしたいんだけど、いきなりは何だしね。連絡係。」

大きなプレゼントを伝える、エブラーナへの非公式使者。リディアにとってはいきなりの話だろうけど、もうここまで来たら勢いでお願いするしかない。クッキーに歯形をつけたまま、リディアは手を止めてしまった。

「エッジは遠くから戴冠式に来てくれるし、そのお礼の手紙も出したい。君が適任なんだよ。リディア。」
「でも…正装とか、ポマードとかって…大変なんでしょ?」
「非公式だから、そんなじゃなくていいよ。」
かちゃかちゃ、と紅茶のカップの柄をいじる指。
せめて、ドレスって言って欲しかったな・・・

「・・・まだ、何が怖い?」
「え」
 
「答えてあげて欲しいんだ。どんな答えでも、君から。」
「セシル・・・」

―――何を言っているのか、判らないよ。

うつむき加減なのは、赤くなる頬に気が付いたからか。
「気が付いてない訳じゃ、ないんだろう?」
「違う、多分そんなんじゃないよ。セシル…エッジは…」
リディアは下を向いたまま、消え入りそうな声で答える。
 
「大丈夫。これはお使いだから。お願いするからね。」
 

******************* 


『―――エッジ
 
お返事届きました。戴冠式に出席してくれると言う事で、ありがとう。
エブラーナの名もこちらの近隣諸国でよく聞くようになりました。
君が来てくれる事で、各国の友好関係にも発展があると思います…



エッジ。今回のお使いには、驚いたかい?
彼女の帰国期限は、戴冠式まで先延ばしても問題ありません。
その後、更新できるかどうかは君次第だと思います(にっこり)
 
どうか、ずっと、大切にしてあげて下さい。帰りたくない!!って、言う位にね。
そうじゃないと僕も、ローザに怒られてしまうからね。
 
これ以上素敵なお嫁さんは、これから先に見つかりそうかい?


                              ―――セシル  』


*******************************
 
数日後。
バロン魔導師隊の魔力増強装置から、リディアはエブラーナへ旅立つ事になった。帰りの便を考えたら飛空挺で行かせても良かったんだけど、強固な反対があった。
「その間に、見合いが決まっちゃったらどうするの!善は急げよ、今すぐよ!!帰り?勿論、帰って来させないわ。エブラーナに永久就職よ!!」

・・・すまないエッジ…またすぐ手紙を送るからね・・・

補佐役の魔導師が、移動魔法の詠唱を始める。
「じゃ、行ってくるね、セシル、ローザ!!」
「ああ、行ってらっしゃい。エッジによろしくね。」
「か、帰りは飛空挺を送るから、ね、心配しないで!決して、移動魔法で戻らないのよ!!」
「・・・ローザ、心にも無い事を・・・」

まぁ、リディアが、その懐に抱えた書簡。本当はどうでもいい内容なんだ。

―――だから、今度こそ、絶対に離すなよ。

エブラーナの方角に、僕はそっと目配せをした。 


[前夜  sideE] へ


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HN:
tommy
性別:
非公開
自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
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