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ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
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 8


 「リディア様~」
中庭の噴水でたたずんでいたリディアの耳に入って来た子供の声。
昼はだいぶ過ぎて、城内つとめの親御さんたちの元へ行ったのだろう、もう子供は誰も居ない中庭。
傍らの茂みから、少年は姿を見せた。
「エル?!どうしたの?一人で…」
顔なじみの少年は、辺りに誰も居ない事を確かめるとリディアにしがみつく。
「リディア様も一人!へへっ。嬉しい~!最近、お会いできなかったから!!」

相も変らずの元気な声。
一人で遊んでいたのか、少年の服にはそこらじゅうに土の汚れがついていた。リディアがその汚れを手で払うと、エルは満面の笑みでありがとう、と答える。
「エル…一人なの?王宮とは言えこんな所で…」
「母さんが…いや、お母様がまだ用事終わらないから、待ってるんだ!!」
そう言うや、差し出された大きなカエルに、リディアは思わず小さく叫び、後ろに下がった。
「だからこいつと遊んでたの。」
「もう!びっくりさせないでよ!!」

貴族の子供、というには素朴な少年。
エルの家は中流の貴族だったが、ルビガンテとの戦で父親を亡くした。戦の最中にエルの妹を産んだ母は家を維持する為に、王宮勤めだった亡き夫に代わり、自ら王宮内の様々な用事をこなす事も多いと言う。
「ねぇねぇそれよりさ、リディア様はそのう…」
ちぐはぐなエルの言葉に思わず吹き出す。
「どうしたの?エル…二人だけだし、お友達みたいにしゃべろうよ。」
「ね~!リディア様、いつエッジ様と結婚するの~!?」

「…え…」
子供らしい質問ではあるけど、今一番、それは答えに困る。
そうだなぁ、と口元をまげて言葉を捜すも。
「け、結婚かぁ…う~ん、出来たらいいな、かな…」
「どうして!?だってエッジ様もリディア様の事大好きなんでしょ!?」
「う、う~ん…でも私ね、その…」
諸般事情は子供に説明するには難しい訳で、言葉に詰まる。
噴水に置かれた大きなカエルもまた空気を呼んだのか、脂汗を流している。
「えっと、私は本当はバロンの外れの村の生まれなんだ。幻界で育ててもらったけど…元々お姫様、とかじゃないの。だから…皆反対するわ。」
「え?エッジ様ってそんな事気にするの?うるせ~って言っちゃいそう。それに~、戦争だ~って逃げてった、大っきなお屋敷の人達よりすごいじゃん!!」
「う、う~ん。そうなんだけど…」
「そうだ!じゃあ僕のお姉ちゃんになってよ!そうすれば、エブラーナの貴族だよっ。僕んち、お金…ないけど…」

エッジの性格が判っている上に、最後は妙に現実的なくだり。確かに大貴族と言われる家以外は、生活は裕福と言う訳ではないだろう。そう言う意味ではエルの周辺は身分のこだわりはない方なのだろうが、相手が王子ではそうもいかない。
「それに…あと…そう、魔法の国のお父さんとお母さんが心配してるの。だから、会いにゆかないと、ね。それと…ほら、私、エブラーナの文字もまだまともに書けないし、あと…」
「え?漢字ドリル僕も20点。リディア様、エッジ様の事好きなんでしょう?」
一切の言い訳を絶つように、顔を覗き込む少年。
「勿論…好、き、だよ。」
「そう!!よかったぁ。じゃあさぁ、あとはお父さんとお母さんに、元気って言えばいいんでしょ?ね?」

―――確かに、その通りなんだけど…

「じゃぁいいじゃん!!結婚式見た~い!エッジ様とキスしてる所みた~い!」
「エ、エル!!!何言ってるのよ!!!」
耳まで真っ赤になり、思わず出る大声。少年は笑いながら駆け出したが、どん、と誰かにぶつかってしまった。
「前を見て走りなさい、エル。母上が探していましたよ。」
穏やかな声でたしなめるのは、懐かしい声の宮廷魔道師。
「いっけない。じゃあねリディア様!オルフェさん、お母さんどっちにいた?」
少年は立ち上がり、リディアに手を振って走って行った。

「もう、エルったら!!元気な子だなぁ…」

そういえば、と魔導師に向き直る。オルフェの顔を見るのも久しぶりだ。
彼はあの内乱以来、ミシディアとの連絡役の様な立場になり、リディアの傍にいない事が多かった。
「久々だね、オルフェ。仕事は忙しいの?」
「長らくの不在、申し訳ございません。魔導師の引渡しが色々、区切りがつきまして。後は急用はございませんので、御用があれば申しつけ下さい。」
「ううん。何も。でもそうだな。散歩に、付き合ってくれるかな…」

人々が避難していた庭園は、今では手入れされた姿を取り戻していた。
リディアはオルフェを従え、ゆっくりと林道を歩いていた。人々を隠した大きな木が程よく立ち並び、さわさわと気持ちの良い風の音を立てている。
「自然っぽいけど手入れされてて、素敵な所だね。やっと、ゆっくり見られたな。いいね、エブラーナの庭って。」
岩で作られた大きなベンチに腰かけ、足を伸ばして伸びをする。こんな姿勢でのびのびするのは本当に久しぶりかもしれない。オルフェはそうですね、とうなずき、リディアが四肢を伸ばし、ベンチに寝転がる姿を見ていた。
「リディア様…リディア様には、本当にお力を尽くして頂きました―――」
「…どうしたの?」
「いえ…いくらお礼申し上げても足りません―――エッジ様もご不在がちですが、そう言った事を申し上げあぐねている様で―――」

「え…?」
その言葉に思わずリディアは腰を上げた。
「エッジが?何か言ってたの?」
そういえば、とはたと今更エッジの事を思い出すも。戦の後始末の為に、ずっと城をあけていて顔を数日見ていない。
「私がご同行したのは魔導師の処分に関する場所だけですが…いつも、お気にかけておられる様でしたよ。」
「そうなんだ…そう言う事、言ってくれないんだよ。エッジって。」
「まぁ…言葉の至らない所もある方ですから。」

エッジは反乱を鎮めた日から、ほとんど休みなく働いているらしかった。
まず城下の軍事施設に寝泊りし、街の復興の手はずを整えたと言う。派遣されたバロンとミシディアの私兵魔導師達には、国としての礼は出来ないので、エッジ私人の財産を充てた礼を半ば強引に渡したらしい。
エノールの街にも視察に赴き、反乱勢力の残党である盗賊達をこの機会に根絶やしにする為、情報収集に明け暮れている、と。

―――後始末してくるわ。おめーはゆっくり休んでろ。

その言葉だけで何一つ、リディアには知らされていなかった。
「…城を守り通したリディア様の心を煩わせたくない、と言うお気持ちですよ。」
――― 妃を迎えるなら、国の片付けくらい俺がしねぇとな。
――― そうそう、あと幻界にも挨拶行きてぇし。

「妃を、って、そんな…妃、って…」
「リディア様。あなたの事ですよ。あなた以外に、誰がいるんですか?」

「…でも、私エブラーナの人間じゃない…何もないよ。エッジは王子様だよ。だから―――戦が終わったし、ちょっとこのまま居ていいのかな、って。」

その言葉に一瞬、オルフェは目を伏せたが、そんな訳ないでしょう、と独り言にようにつぶやいた。
「いや…大臣達の中には、リディア様には王妃になって頂かないと困る、と言う意見もありますよ。『他国の魔道師』に城を守って貰ったとあっては体裁が悪い、と。しかしそれも賛成の言い訳でしょうがね。」
「そう…なの?」
「ええ…正直な話、エッジ様の真摯なお姿に戸惑いを感じる者もいる様です。殊更女性には軽薄な振る舞いの真似事をしていた方、エッジ様を良く知らぬ方から見れば一体何が、と思うでしょう。まぁエッジ様は元々、思う様にしないとどうにも気が済まない方でしたが…」
畏敬という所ですよ。
その言葉をつぶやき、オルフェはふぅ、と息をつく。大仰にならない様に、慎重に言葉を選んでいるのだろう。
「エッジ様の今のお姿は、ただ思うまま突き進むと言うものではありません。何人も今のあの方をお止めする事はしないでしょう。皆が道をあけております。例え住む国も、流れる時間も、身分も違う恋であっても。ですから、どうかこの国へお留まりください。」
「私が…エッジと一緒に…」

自分が、この国でエッジと共に生きる事。
それを皆がうなずいている。阻むものはなにもない、でも。
「で、でもエッジはなぁ…ほら、オルフェさんも言った様にわがままだしっ…」
「ええ、それは重々承知です。何せ幼い頃からもう筋金入りの」
「おう、何だ。」
いつの間にか背後に立っていた影。
勿論よく知った声だが、恐る恐る振り返る二人。

「エッジっ!!!」
「エ、エッジ様っつ!!!何時、お戻りになられたのですか!?確かまだ…」
やや疲れた表情をしつつも、何処となく無愛想に二人を見下ろすエッジの姿。とりわけ、オルフェに対しては不機嫌な視線を投げかけている。
「ま~あのウォルシアのヤツ、結構金持っててさ…お陰で資金面がカタ付いたからなぁ、早めに戻ったんだよ!!さっさと戻って来て良かったぜ…」

「で、何、オルフェ君?おめ~人のカミさんにさ~あ…こんな林の中で何しようとした訳よ?おっまけに、ぬわにが “幼い頃から我がまま”だぁ~!?ぜーんぶ、聞こえてたんだよ!!」
「ちょっと!!エッジ違うってば!!」
リディアが割って入るも、オルフェの胸元をつかむ。
 
「てめ~まさか…俺のイメージを落とす為に、俺の超恥ずかしい話とかを…まずあれだ、てめーのウラミと言ったら5歳の頃、てめーの妹に…マリーちゃんに無理やりキスしようとしまくった事とか、さらにお嫁に貰う~とか言っててめーと噛み付き合いの取っ組み合いになった事とか、更に13の時に悪いお友達との賭で、一日一回女に告ッてやるとか言うのに乗ったが、しまいにゃ猫のみゅーちゃんにまでふられて30連敗したとか、そんなこっぱずかしい話を吹き込んで挙句の果てに、その喧嘩の歯型がこれだとか言って服脱いで腹の痕見せて、そのままリディアを食っちまう気だったんじゃねぇだろうなぁ!?!?!?」

「全部事実ですが、その様な事言うわけないでしょう!私は若い頃のあなたの様な、そんなセンスもヘッタクレもないヘタレ手段で女性を篭絡しようとは思いません!!」
胸倉をつかまれつつ、意外なまでの反論。
「てめー、俺が女ったらしみてーな言い方すんな!!昔の事、一言でもばらしたらぶっ飛ばすだけじゃすまねーぞ!ばらすなよ!?絶対ばらすなよ!!」
「ええ、例えば言い寄った貴族のお嬢様に、ダムシアンのすっごい宝石を買わされてしまった事とかですね!!言いませんよ!!!その後、王妃様に罰として野良仕事させられてたとかなんて絶対ね!!!」
「言うなよ!!言うなって言ってんだろ!!てめぇ、ま、まさか俺の最大の黒歴史…夜遊びで目立つ為に、電飾付きの羽織と馬の飾りをバロンから特別に仕入れたなんて事は…」
「そ、それは…言ったらさすがに…」
「いや、ちょっとアレはマジで言うなよ…20前のほら、やんちゃだし…」

―――まぁ…いいのかな。何か、仲よさそうだし…

確か、2人は子供の頃からのつきあいのはずだ。
「エッジ様っ!!この際言わせて頂きますが、いっつもご自分が慕われた女性が私に近寄っただけで、何故にこの様な扱いを何時も受けなければいけないのですか!?」
「おめーが魔法なんて言うちゃらちゃらしたのしてっから、エブラーナでは目立ってんだろーがっ!!俺もこの際言うがなぁ、なまじっかいい男だからムカつくんだよ!!この上リディアにも取りいろーってのかっ!?もういい、消えろっ!!」
そう言うとエッジは、リディアの身体をひょいと担ぎ肩にかけ、すたすたと来た道を歩き出す。
「ちょ、ちょっと!!!」

―――オルフェ、ごめんね!!

リディアは遠ざかるオルフェに、両手を合わせて合図した。
「リディア。アイツとあんまり話すな!!あいつは悪い虫だ!!」
身勝手な言葉だったが、旅をしていた頃の様な懐かしさが、何とも心地よい感触だった。エッジの背中に手のひらをあて、小さな声でささやく。
「エッジ―――お帰りなさい。」
エッジは、リディアを担いでいる方の肩に顔を傾け、ただいま、と答えた。
 
 


[101日目のプロポーズ 9]

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HN:
tommy
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非公開
自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
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