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ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
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一夜明け太陽が昇ると、想像以上の城下の惨状が浮き彫りになったのだった。

負傷した民は林の中に日よけやテントをはっていたが、何処も負傷者で溢れていた。その家族や街の医者達が懸命に活動するも、救護の手は追いつかない。辺りには血の匂いや、負傷者のうめきが充満していた。
リディア達は、中庭に作られたテントに運び込まれた負傷者を目の当たりにし、言葉を失っていた。

「何てひどい…」
「闇に紛れていましたが、これ程とは…」
かつて、ダムシアン、ファブールでも戦の惨状を見た。人の居なくなったエブラーナの城も。
そしてまた、このエブラーナで…

町の女たちだけでなく城に残った侍従、女官達が救護に参加した為、リディアも家老の反対を押し切って加わったものの、手が足りない。城の外にも負傷者がいるのだ。

―――エッジ様は…生きておられるのか…
―――敵の奇襲を受けて足止めされたと言うのは…まさか…

不吉な噂が流れている様だった。小競り合いと思った隣町の反乱は、城下への攻撃となった。無事な者も皆、予期しない攻撃にさらされ、怯えきった表情で座り込んでいる。

シルフの力を使い、回復を手伝うものの力が及ばず、泣きながらこの世を去った子供もいた。しかし、泣いている暇はない。今度は痛みに呻く老人に睡眠の魔法をかけ、苦痛を和らげる。泣き声とうめき声が、城の庭には響いていた。

「家老殿!!薬はもうないですか!?」
「地下倉庫の物で最後じゃ!!今運ぶ!!」

家老や宰相も始めこそ、ただでさえ少ない城の備品が使われる事に難色を示していた物の、目の前の惨状に自ら薬や荷物を運ぶ、と言う状態だった。城に残った兵士は少ない。しかし、城の外では、今しも敵が再び攻撃を仕掛けるかもしれない、という緊迫状態だ。

―――どうすればいいの…

城壁の外では敵が攻撃の準備をし始めたとの情報が入った。オルフェは将校たちと共に城下町の軍事施設に赴き、少年達も15才を超えた者は全員召集された。家老、少しの兵や女官侍従、宰相達が城に残るのみだ。
城下町にも兵は配置されている。が、この状態でもし城下に敵が入れば一たまりも無い。何処まで通じるか判らないが、自分が行くしかない。だが、今は目の前に死に掛けた人達すら助けられない。

―――私、どうすればいいの?

水を汲みに行きながらも、流れる涙がずっと止まらない。
世界を救った英雄の一人、しかも魔導師でありながら、何て無力なんだろう。ローザ程の白魔法の腕があれば、どれだけの人が助かったのか―――
「エッジ…早く帰って来て…」
本当はそんな時間はないと判ってはいても、桶を沈めたまま座り込み、立ち上がる事は出来なかった。

「あれ?あんた、リーア…だったよねぇ。」
野太い声にふと顔を上げると。全身に包帯を巻いた大柄な女性らしき人物が、たらいを手に自分を見下ろしている。
「ゴモラ…さん?」
全身包帯を巻いた巨大なミイラの様な姿で立ちはだかっていたのは、門の前で会った巨体の女官。
「ああ、あんたも無事だったの!!良かったよ。いやぁ、ウチの実家なんて爆発しちゃったからさ。おかげでこの怪我さ。全く、ジィさんが芝刈り行ってて良かったよ!!」
足を引きずりいつもの迫力は無かったものの、爆発したにしては達者な様子だ。

「爆…発?」
「いやあ、何かウチの裏手?妙な落書きがしてあって、変な箱が薪ん所置いてあったからさ、何よこれと思って持ち上げたら、いきなりつむじ風みたいな火が出たんだよ!!」
「落書き…って、あの、円みたいな…?」
そうそう、と巨体女官は頷く。どうやら、『仕掛け』のそばに居たらしい。
「本当、驚いて箱投げ捨てなかったら、絶対オダブツだったよ。投げた途端そいつが屋根の上で爆発して、実家全壊しちゃったのよ。これで命があるんだから運がいいってヤツだよ!やっぱり、薪は地下か中に入れとかないと駄目だねぇ。」
「爆弾投げ捨てたんだ…つ…強いんだね。ゴモラさん…」

だが、リディアの泣き笑いに、ゴモラは眉をひそめたのだった。
「アンタ、誰か亡くしたの?」
「ううん…だけど、私、何も出来ないからさ…情けないんだ。外国のお友達にね、すっごく腕のいい白魔導師がいるの。私もその人みたいだったら、って…」
言葉が終わらぬうちに、ゴモラはリディアの背中を軽く、いやリディアの感覚としては思い切り叩いたのだった。ふらふらとよろめいたが、ふと気負いが緩んで、ゴモラの大きな姿を見上げた。
「ご、ゴメン…そうだよね。私が泣いてる暇ないよね。ゴモラさん、そんなすごい格好しているのに。」
「格好だけじゃなくて、これでも結構痛いんだよ。まったく…」

ごめんごめん、とリディアは久々の笑い声を上げる。しかしふと、自分は新人の下働きという風に思われてたっけ、と思い出し、あわてて首を振った。
「っと、ご無礼すみませんゴモラさん!!」
「ははは!!そうそう。あたしは近衛兵隊長の妻だから偉いんだよ。」
その言葉にリディアは一瞬、訝しげにゴモラの顔を見つめる。

――― へ?
――― 近衛兵隊長…って…確か…

エブラーナの城を訪れた時、門前でエッジに取り次いでくれたガーウィンは、近衛兵隊の隊長だった。と、言う事は。だが、近衛兵隊長の奥方と言えば、それこそそれなりの貴族級の立場。だが、あまりに目の前の洗濯女官とはかけ離れている。
「どっちが無礼してるんだか!!私なんて大層な身分じゃない。まったく、隊長の奥さんなのにこの国は、洗濯仕事辞めらんないんだからねぇ――― 本当、おかしいでしょ?リディア様。」
「え…」
思わぬ所で名を呼ばれ、リディアはゴモラから一歩下がるも。
 
――― やっぱり…ガーウィンさんの奥さん…なの!?
 
「ああ、リーアだったね。出来ない事、ああだこうだ言ったって仕方ないでしょ。」
その手で、リディアの髪を覆っていた布を引き剥がしたのだった。
「ま。アンタはこうしてた方が、よっぽど助けになるんじゃない?―――ほら!!翡翠の姫様!!」
途端にリディアの翡翠色の髪が流れ、ゴモラの声に振り返った皆が一瞬、息を呑む。

――― あれは…翡翠の姫様!?

驚いて振り向くと、ゴモラは深々と頭を下げ、足を引きずりながら立ち去ったのだった。
「ま…待って!!ゴモラさん!!」

「あっ!!リディア様―――!!」
遠間にリディアを見つけたエルが駆け寄って来た。
「エル!!」
怪我をし、呻いていた人までも、一心にリディアの方を見つめている。その眼差しの多さに、リディアは息を飲んで立ち尽くした。
「皆…」
幾つも自分の身に向けられた、助けを求める目。エッジの言っていた言葉。

―――エブラーナの民が、希望を失わない様に。

「良かった!!リディア様も無事だったんだね!!」
腰に抱きついた少年は、怪我を負いながらも満面の笑みで自分を見上げていた。リディアはそれを優しく見下ろすと顔を上げ、人々に向けて声を張り上げたのだった。
「皆…エッジは焼き討ちにあったけど…生きているわ。怪我もしていない―――!!」
人々は顔を見合わせる。エッジ負傷の噂は城下にも流れており、兵の一部が帰還した事で民はその話を悪い方に信じていた。
「それは敵を欺く為の噂―――すぐにエノールへ向かったの。だから必ず帰って来る。それまでこの城を…守らないと…!!」
一瞬の沈黙。しかしそれはすぐに歓喜の声に変わった。

―――エッジ様は…ご無事だったのか!!

エッジの消息が判らない今、『妃』であり、エッジの武勇伝の象徴でもあるリディアは、エブラーナ国民の希望と言っても良かった。
「リディア様…頑張りましょう…私達も。」
「うん…」
負傷者の救護は過酷を極めたが、悲壮な雰囲気は和らぎつつあった。
リディアは再び髪をしまって手伝いに明け暮れていたが、自分を呼ぶ声にふと顔を上げると、中庭の方から宰相が駆け出してくるのが見えた。
「リディア様!!どうぞ、どうぞこちらへ―――」
宰相は相当慌てている様で、用件も告げずにリディアを中庭へ連れてゆこうとする。
「ど、どうしたんですか!?」

「な、中庭に急に使者の方が…バロンとミシディアの使者の方が突然現れ…いや、いらっしゃいまして…!!」
「大勢!?現れた、って…いきなり…?」

半ば引きずられる様にリディアが中庭に入ると、中庭噴水の横に使者、というには大人数の、白いローブをまとった一団が居るのが見えた。

―――バロンと…ミシディアの使者!?

何処から入った、と言うのは愚問だろう。しかし、緊急事態中の他国の城内に移動してくるのは、あらゆる方面での想定外。何が起こったのだろうか。
戸惑うリディアに、一人の白いローブを被った女性が近づき、跪いたのだった。
「あなたは、確か…」
その顔に見覚えがあった。確かに、ローザの片腕と目される、バロン白魔導師団の高等魔法の使い手だ。
「お久しぶりです、リディア様。ローザ・ファレル様の私兵白魔導師隊として派遣されました。リディア様に従い、エブラーナの皆様をお助けする様に、と―――」
「ローザが!?」

軍事同盟を結ばないエブラーナにバロンとして直接兵を送る事は出来ない。だが、未だ戴冠前のローザ個人の、あくまで救護目的の私兵組織であれば話は別だろう。
「この事は、非戦闘員の方々の負傷者と、ご友人であるエッジ様とリディア様をお助けしたいという、ローザ様の独断であり、バロン国家の意はございません。私どもも人道的な援助、と言うローザ様個人のご意思に賛同し、こちらへ参じました。国際的な規則の事に関しましては、事後に話合いの場を設けて頂ける事を望む、と。」

エブラーナに内乱の知らせが入った時、ローザはリディアの身を強く案じていた。リディアがエブラーナに行く事を誰よりも喜んだのは他ならぬ自分、是が非でも助けに行く、と自ら魔法陣に飛び込みそうになったのを、白魔道師隊総出で止めに入ったのだ。

さらに、一人だけ黒いローブを被った男性が進み出て、跪く。
「ミシディア長老の命により参りました。同じく、長老私兵の魔導師隊でございます。お初お目にかかります。リディア様、家老殿、エブラーナ宰相殿。」
宰相は、腰を抜かさんばかりに驚いて、頭を下げる。魔導師は丁寧に礼をした。
「実は、私どもの国より得た魔法を悪用し、恐れ多くも一国を手に入れんと図るものが居る、と証拠をつかみました。魔導師を統括する国として、見逃す事の出来ない暴挙にございます。その者を拘束させて頂きたく、参上いたしました。」
何かしら、ミシディアが情報をつかんだ、と言う事だろうか。

「あ…ありがとうございます。でも、そう言った事は家老さんとかが…」
「…先ほど城下の軍事施設にて、あくまで非公式、後方支援に徹するという事を条件に将校方よりお許しは頂きました。魔導師隊はすでに城下におります。」
幾ら私兵の派遣とは言え、セシルとローザの、バロンの意思があるのは明らかだ。リディアはちらりと宰相を見る。とても自分が口を出す事ではないと、宰相は首を振った。家老も、二つ返事の表情を見せ、リディアに返事を促した。
「お願いします―――どうか、エブラーナの人達を―――」
リディアの言葉に魔導師は強く頷く。
「白魔道師隊、中庭と城下に分かれ救護活動を開始します。」
女官達は魔道師隊の案内を申し出た。すぐにでも城の庭に、街の中に救護の手が差し伸べられるだろう。

「よかった―――」
リディアが安堵から息を付いた時、向こうでどすん、と大きな音がした。
「ゴモラおばちゃんが!!!エルが下敷きに!!!だれかぁ―――!!!!」
振り向くと、ゴモラが倒れ、その腹の部分からエルの小さな手がばたばたと暴れている。
「ゴモラさん、しっかりして!!」
駆け寄り、何とか傷だらけのゴモラの大きな上半身を抱き上げるも。
「…」
手は力なく垂れ下がり、返事は無い。
「ゴモラさん!!ゴモラさんってば!!!」
「―――おばちゃん!!こんな所で寝ないでよ!!!」
「…へ?」

―――グゴゴゴゴオ~~~~

その瞬間。 ゴモラの鼻から、大きな息が抜けた。もう、とエルは体を叩く。
「おばちゃんが木に寄りかかって居眠りしてたからさ、大丈夫かな~って見に行ったらいきなり寝返りうつんだもん。死ぬかと思った。」
「な、な~んだ…ははは…ばかぁ…こんなになるまで、皆を…」
腰に巻いていた上着をゴモラの腹にかけると、その場にへたり込み、目を閉じたのだった。



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HN:
tommy
性別:
非公開
自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
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