忍者ブログ
Admin / Write / Res
ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
[42]  [41]  [40]  [39]  [38]  [37]  [26]  [28]  [36]  [35]  [34
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。



怪我人の救護のめどが立った時、リディアは中庭の東屋で家老と共にミシディアの黒魔道師隊長の話を聞く事ができた。

「あの…反乱軍の魔導師は、ミシディアの出身だったのですか?」
「…元々は、と申しましょうか…先日、アガルトの村より魔導師が渡航して来ました。彼は数年前まで、魔導師としてミシディアで修行をしていた男でした―――」
「あっ…ローザが言っていた…」
 
エブラーナ領内エノール北、バブイルの塔への洞窟より更に北にある小さな港町の出身のその男は、幼い頃船乗り達から聞いた魔法の話が忘れられず、10歳の頃ミシディアへ家出同然で密航し、数年の見習いの後魔導師の修行を許された。
厳しい修行を積み魔法を習得した男は、エブラーナでも魔法の研究が本格的に始まった事を知り、仕官を志し十数年ぶりに帰国したと言う。
しかし、故郷に帰った彼が見た物は、海賊に荒らされた町の姿だった。

「その頃は、海賊どもの横行に頭を痛めておりました。しかしその様な者がいたとは…」
家老が頷く。大規模な掃討作戦が後に行われるものの、辺境の村までは手が回らない状況だった。
国家に頼れない、と悟った彼は各地で魔力で賊を追い払い、禁忌とは知りながらも自衛の為に、素養のある人間に魔法を教えたり、武器を流す様になったのだった。

少数でも強い武器を、魔法を扱える者がいれば、賊はその村には手を出さない。皮肉だが、男は恩人として近隣で敬われ、それを聞きつけた小数民族の長と名乗る人物に言葉巧みにそそのかされ、彼の元で国の目に触れぬよう魔法を利用した自衛団を作る事になる。
元々魔法を信じないものもいるこの国で、外部に話が漏れる事は無かっただろう。

しかし数年が経ち、実はその長は自衛団ではなく、山間の少数民族のみならず、海賊や山賊を支配し内乱を起こす為に、そして世界各国をエブラーナの配下に収める為に力を欲している、と知った時、男は強固に反対を述べた。

ミシディアで魔導師界のルールを学んだ彼は、その様な事をすれば国際的な規律の違反であり、組織自体がどれほど危ない立場になるか、また、正統な方法で魔法を習得していない者が大きな魔力を使う事の危険、世界には忍術にも劣らない強大な力を持った国家は沢山ある事、全てを言葉の限り説いたが、聞き入れられる事は無かった。
 
男は長に捕らえられたが何とか逃げ出し、アガルトの村へ渡る船に潜り込み、そこからミシディアへ向かった。
そして長老の前に身を投げ出し、己の犯した罪を告白し、どうか自分共々、魔力を悪用する輩を処罰して欲しい、と懇願したという。ミシディアはエブラーナの監視を始め、魔道師拘束の準備を着々と進めていたのだ。

しかし、ただ内乱と言うだけでは手を出す事が出来ないとこまねいていた所、バロンからの詳細な情報が入り半ばローザの独断に便乗する形で介入に至った、と言う所だった。

「その長の名は…ウォルシア・ジェラルダイン―――『獅子軍の乱』にて廃位したウォーレン王の血を継ぐ反逆の徒です。廃王ウォーレンの思想を数代に渡り受け継ぎ、彼自身もまた、非常に閉鎖的な思想の持ち主。国を閉ざし、エブラーナ国民の血を純粋唯一の民族とし、かつての様に軍国化し、世界へと侵攻するのが理想と―――」
「そんな…平和に向かう世の中の流れから逆行するのに…」

「彼は、先の大戦で世界各国に乱れが出た事、エブラーナでは、ルビガンテとの戦で精鋭部隊が壊滅的な打撃を受けた事、王族の末裔がエドワード殿下のみになった事を知り、行動を起こしました。妃も子も居ないうちに彼を亡き者にし、王家の血を理由に自分がこの国の王になる事が目的だと言う事です。全く持って身の程を知らぬ者。エブラーナを足がかりに、次は隣国であるミシディアまでも手中に収めんと図っていたと…」

世の中から取り残された者が、どれ程まで本気でそんな事を図ったのか判らないが、魔導師を騙し力を得た上、エブラーナの王位後継者の暗殺を企てたのは確か。いずれは自国へ攻め込むと口先だけでも出したのなら、ミシディアが他国の内乱に介入する大義名分が出来たのは明らかだった。

そして、家老からすれば。あまりにも恥ずかしい話ではあった。
王族の血を引く者が示した事は、あまりの無知であり、無恥。エブラーナの国力は、独立国としては非常に低い。そのレベルで世界を捉え、隣国までも”制圧できる場所”として認識していたのだとすれば、正に井の中の蛙。これでは、本来の王家の者が国際的な感覚を持っているのかすら、疑われ哂われてしまうだろう。

「ああ…若様お一人であるばかりに、その様な騒擾の徒が…」
その言葉に一瞬、リディアは胸を貫かれるが、家老は慌てて首を振ったのだった。
「いや、どの様な状況であろうと、今その者を除かねば未来まで持ち越しますな。」
「…そうですね。早く戦を終わらせないと。」
抑揚の無いリディアの声。

「リディア様…それは、我ら重臣の非でございます。―――若様お一人に王家、いや国家存続のご負担を全てかけてしまった報い…何と、狭い了見だった事か―――そんな事よりも、国自体の存続と言う危機を招いてしまったのですから…」
だがリディアは静かに、エッジはきっと帰る、と声をかけるのが精一杯だった。家老の様々な後悔はわかるが、今はこの国を守りたい。

―――『王子様はいつでもおめーを愛してるよって…あ、これは言わなくていいや。』

―――仕方ないなぁ、私もだよ、って伝えておいて

焼き討ちの場から届いたシルフの伝言が、リディアの胸に優しく染み渡っていた。


一方。
エッジが到着した後エノールの街は、一時間かからぬ速さで制圧された。
反乱勢力の隊は圧倒的な力の差に殆どの抵抗なく投降したが、首謀者の影はなく、隊長格の人物への尋問で明かされたのは、この街を制圧したと思われた反乱勢力は、実際はこの街で雇われた人間で組織されていた、と言う事だった。
 
「何だって…」
騎兵隊長の報告に、エッジは言葉を失う。エノール反乱勢力の頭は、街に暮らす港のごろつき達の頭だった。
国家に盾突くつもりなど、毛頭ない。
自分達はただ、海賊の襲撃が来る、と言う情報に備えていたと―――

少し前、裏に精通した商人から兵を集める様に頼まれたと言う。商人が話した事は 『裏の社会で勢力争いがあり、海賊がエノールを襲う計画があるから備えるように。』 と言う以外の事情を聞かされなかった。そして事実、最近、エノール近辺で見知らぬ船の往来が増えていたと言う。
大きな港を持つが故に、海賊の脅威と戦いながら発展していった街。国の掃討作戦で、海賊は殆ど姿を消したが、その話は港町の住人を不安に陥れた。その商人から支度金として渡されたのは破格の金だった為、詮索はしなかった。
情報の漏洩を防ぐため、ごく限られた人間で常に話し合いは行われ、港の書類は改ざんされ普段と変わらぬ様に港も使われた。

しかし陣を構え、戦う相手は海賊のはずが、エブラーナ国軍が街を包囲し始める。動揺が広がった矢先、兵を集めた商人が国軍との話し合いに赴いたが、建物は爆破され、一団はエブラーナ軍に包囲された―――

犠牲となった商人が全ての統率を取っていた為、それから街の一団は、大人しく国軍に包囲されるままになるだけだったのだ。
「裏の争いだと!?そんな話、あったのか!?」
「―――いいえ。恐らくはその商人が兵を集め、ならず者達を騙し切る為の言い訳でしょう。あの交渉の席では、少数民族自治の話しか出なかった様です。国軍・街の一群ともに、偽りの情報が流されていたと…」

街に陣を構えた事が外に広まれば、誰が内乱が起きたという言葉を疑うだろう。

「その商人の独断じゃないな。ごろつきや国軍相手に1人で大芝居を打った所で、生きて帰れねぇ事位判る。兵を集めさせる為に、この街で身の安全を保障していたのは…」
「…それ以上の事は判らないと言い張っております。この者は恐らくは、商人以上の接触はないでしょう。ただ―――」

騎兵隊長が言葉を濁らせる。
「エノール知事の遺体が、館の庭より発見されました。喉を切られており、死後日数が経っているものと。恐らくは、交渉の時には既に―――」
「畜生!!!完全にこの街の奴らは、全員捨て駒扱いって事か!!」

エッジは拳で壁を思い切り叩きつける。
まんまとはめられた、と言う事か。知事ですら、手中に収めていた存在。
兵を集め、内乱の噂を流したのは、王族を名乗る男か。商人・知事が二人とも消された今、真実は判らない。
もう少し時間をかけて調べれば、街の一群の事情は判ったかもしれない。だたエッジを含め城の皆が、あの男の城内への襲撃で『焦らされていた』と言う事だ。

「また、水夫の話によりますと、最近は物資輸送の往来が多くなった、と…数日程前にも船が10隻、北西の方へ向かったと言う事です。書類上は北方のバロンへの海上運搬と言う事ですが、どうもその様な形跡は…」
港の補修。王族用の兵器。他にも確か、何かがあった。

「バブイルの洞窟を海上運搬と漁業用に改造したと言う話があったな…」
断崖と海。城には近いが、目は届きにくい場所だ。
「はい。書類によりますと…桟橋を作ると街から多額の補助金が出た様です。それは、国家から支給されたものとなっております。」
「バブイルの洞窟…」
敵の目的。船。バブイルの洞窟は相当広く、かつてエブラーナの民が避難していた為、設備もある。ここから向かうのに半日もかからない。そこにいるのか、それともすでに逃亡したのか。
「敵の計画では、エッジ様を街に着く前に焼き打つ事になっていたとすれば。無事を知り首謀者、或いは近い人間が慌てて逃げた所で、そう遠くには…」
ガーウィンの言葉にエッジは頷く。

「…調査の為、密偵一隊は洞窟へ向かってくれ。歩兵隊はここで情報収集、知事の足元から首謀者にかかわる情報を洗い出せ―――本隊は、エブラーナへ戻る。」
「エブラーナ…で、ございますか?」
主力がここにいる今、直接バブイルの洞窟を叩くしかないと予想していた将校たちは、戸惑いの色を浮かべた。

「…今、エブラーナは…相当な手薄だ。あんな小細工までして俺をおびき出して―――」

「まさか…エッジ様の命もろとも、城までも奪いに!?」
「そうだ…街一つ、陽動に使うとはな…」
少数の反乱と思って侮った。この数日の間に急激に事を進め動揺させ、王家の名を出し、国軍を貶め、自分を城からおびき出す。そこを強大な武器―――ボムの指輪を使い、たった1人の味方を犠牲にして焼き打つ。しかし、なぜたった1人を向かわせたのか。命だけが目的なら、万全を期す為に主力が動くだろう。

だが、同じ価値のある物が他にあり、そちらを手に入れるのに人手が必要なら。例えエッジの命を奪い損ねても、そちらを手に入れる事で何か得られるなら。

それは、王の権力の象徴―――エブラーナ城。

戦で城主が不在ならば、どこの国でも例外なく正妃、あるいは子や血縁が変わりとなり、王と変わらぬ権限を持ち城を、国を守る。
どれほど優秀な側近が居ようとも、王族と対等の権威を表すのは難しい。だが、王族が不在の城を落とすのは容易。唯一の王族であるエッジの不在のエブラーナ城には、寄る辺となる者はいない。少なくとも敵の目には、そう映っているはずだ。

敵の本体がもし、エブラーナに今その10隻の船で向かっていたとしたら。
エノールの方角からエブラーナへ向かうのは、海流の関係で陸路よりも時間がかかる為、荷物を運ぶ大きな船しか往来しない。その為、監視が元々手薄な場所だった。手はかかるものの少し陸を離れれば、見つからずに海路で進む事は可能だ。

「エッジ様!!」
近隣の偵察に向かっていた兵が、遠眼鏡を手に駆け込んできた。
「エブラーナの方角…東の山ののろし台より、のろしが上がっております!!!」

「何!?」
エッジが兵から遠眼鏡を取ると、確かにのろしが上がっている。急を告げる花火の音。エブラーナに何か変化があったら伝える様にと兵を残してきた。まさか、とは思ったが。
「本隊、出動だ!!俺と近衛兵隊は今すぐ出発する!!騎兵隊長、すぐに準備を始めて出来次第、追って全兵出発してくれ。俺達は先に行く!!!」
エッジは騎兵隊長に本隊出動の指示を出すと、近衛兵十数人と共に馬に乗って出発した。

その日は月の見えない夜で光はなかったが、夜が更けてからも可能な限り進み、山の近くまで来た時、のろし台に付いていた兵の一人と合流した。兵は、エッジに直接報告する為のろし台を降りてエノールへ向かう途中だった。

「エッジ様―――エブラーナ城から、夕刻火の手が上がりました!!その後は…幾つもの光と―――爆発の音が、風に乗って微かに…」
「そ…そんな…もはや手遅れという事か!?」
近衛兵達に動揺が走る。
「…落ち着け!!城に居る奴らだって腰抜けじゃねぇ!!」
目の前の小さなはずの山は、夕闇に沈み不気味なほど大きくそびえていた。夜目の利く忍達、そして慣れた地形ではある。しかし―――

―――だめだ…危険すぎる。
 
先ほどの様な襲撃があるかもしれない時、闇夜に山を越えるのは危険。
相手もまた、同じ忍びの心得のある者達だ。夜目が利くと言う事に甘んじれば、相手も全く同じなのだ。斜面でたった一匹の馬の足元をすくわれれば、隊は総崩れになるだろう。しかし、ここで馬を下りるわけには行かない。
3数時間後に出発すると指示を出すと、黙って簡易テントに入っていった。

―――何でまた―――国が焼かれなきゃいけないんだよ!!

リディアを帰さなかった事、いまさら大きな後悔が胸に迫る。火の手の中にリディアがいたら。じいも、女官達も、そして城下の民達も。あの炎に巻かれた兵士達の様に―――

―――頼むから、持ちこたえてくれ!

「…?」
一人きり、祈るように胸に手を合わせた時。金色の光が目の前を横切った。
「シルフ…?」
一瞬、最悪の伝言を想定したエッジだが、告げられた言葉は。
「…判った…判ったよ。ありがとう…」

エノールの街では、エッジの出発より1時間遅れて本隊が出動する事になった。敵が城下へたどり着いた以上、もはや一刻の猶予も許されない。本当ならたった一人暗闇の中でも動き出したいと、焦る気持ち。ただ、シルフが伝えてくれた伝言が、エッジを支えていた。城はまだ無事だ。リディアは、生きている。そして家老たちも―――

―――私もだよ、と伝えておいて…

この戦が終わったら、語り合う事は沢山ある。何としてでも、国を守る。リディアの言葉が、その決意の背中を押していた。

 

  廃位の王  完


comig soon…




 

拍手

PR
プロフィール
HN:
tommy
性別:
非公開
自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
PR
メールフォーム
ブログ内検索
P R
RSS
Copyright ©   FF4散文ブログ (=゚ω゚=) All Rights Reserved.
*Material by Pearl Box  *Photo by Kun  * Template by tsukika
忍者ブログ [PR]