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ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
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先程とはうって変わった態度に、リディアは目を丸くする。
「私に出来る事があれば協力します…皆、親切にしてくれてるんだもん。雇われ魔導師になってもいい。出来る事があるなら―――」
だが、その言葉には、家老はそっとかぶりを振ったのだった。
「若様は、あなた様をお慕いしてございます。そして―――先の戦で多くの命が失われ、今や王家の血を引くのは若様お一人―――」
「え…」

確か先日にも、家老からこの部屋で聞いた事だ。家老は頭を悩ませていた。エッジの命が関わるかもしれないこの一大事に、またその不安が頭をもたげたのだろうか。
「大丈夫ですよ!だって、少人数の反乱だもの…」
先ほどの男の事が脳裏によぎる。
城まで乗り込んだあの男がこの件に関わっていれば、確かに単純ないさかいでは済まないかもしれない。だが、エッジが引けを取る程の相手には思えなかった。

しかし、家老が続けたのは、思いもよらぬ言葉だったのだ。
「…欠片程の可能性でも良いのです…若の子を、宿して頂けませんでしょうか―――」
「―――え!?」

一瞬、その言葉の意味を図りかね、リディアの思考が止まった。
「何を…何を言っているんですか?!」
「可能性で良いのです。そう言った希望を持たせて、若様を足止めして頂きたい。若様が命を惜しく思う様に。待つ者がおれば、若様とて身を無駄にはいたしますまい。」

一歩下がった身体がテーブルに当たり、がたん、と音を立てる。
 「何で!?何でそんな事を!?」
 思わず口をついて激しい言葉が飛び出していた。内乱が起きつつある時に一体何を言い出すのか。リディアは、恐怖にも似た動揺を覚えていたが、家老の言葉の続きを待った。

「先ほどは濁しましたが…王家としては昔から秘密裏に、廃位の王の末裔を名乗る存在は、噂だけのものではないと確認していたのです。定住の地を持たず足取りの掴めぬ者達ですが、リディア様が見たその男の面、まさに末裔の人相そのもの―――」

―――廃位の王?何を言っているの…?

そうだ、とその言葉を思い出す。あの馬小屋で襲われた時の、女官の言葉。廃位の王、と言う噂を、存在を3人は認識していた。
「その者は刀を奪いに宝物庫へ侵入したとの事。わが国の王は即位の時、王家に伝わる刀を儀式に使います。その者がそれを狙って来たと言う事は―――」

―――刀は頂き損ねたが…

男は確かにそう言っていた。廃位の王の末裔。王位を追われた者の末裔と言う事か。

「その者の蜂起ならば、結局の狙いは若様の命である可能性が大きい、しかしそれを知れば若様のご気性、自ら出向くと言い出すでしょう―――もしこの戦で、いやこの後も、若様にもしもの事があれば―――エブラーナは…若様をみすみす、出陣させる訳には参りません…ですから…」

―――王位を追われた王族が…エッジを狙っている?

「だから…」
だが。だから、何だと言うのだろう。あまりにも唐突で身勝手な物言いに、リディアの声は震えていた。確かに力にはなりたいと思った。だけど。
それはあまりに、自分を、そして大切に扱ってくれているエッジを踏みにじる様な言葉。
 「エッジを城に閉じ込めたい!?…それで…私に…エッジの子供を作れなんて言うんですか!?ひどい―――!!」

全身が徐々に意味を理解したのか、指先が震えだし、足元から揺れる様にリディアは身体を崩して行った。
「私、エッジとそんな事1度もない!!本当に何も無いんです!!別に恋人って訳じゃない、それなのに―――!!」
「な…んですと…?」
意外な言葉に、家老は目を見開いたのだった。幼くも見えるリディアに対し、エッジが慎重になっているのは判っていた。だが、2人の間には既に、通じているものがあると思っていたのだ。
「本当に…エッジは…別に…」

「リディア様!!」
不意に倒れかけた身体を支える手が伸ばされ、後ろからオルフェの声が激しく家老を叱責するのが聞こえた。彼が入った事も気が付かない程、切迫していたこの部屋。
「家老殿、あなたは―――あなたは、何という事を言われたのですか!!」

―――何で…?
―――何で、そんな事言うの?

意識が次第に朦朧とし、瞳から、とめどなく涙が溢れ出す。
「…大丈夫…大丈夫だよ。大丈夫だから…」
だが、オルフェに支えられ、リディアは目を閉じてソファに倒れ込んだのだった。
 
一方その頃。

「ねぇ、カレン。」
「な~に?伝令ならちゃんと別館にも伝えて来たわよ!」
騒ぎなど露知らずの女官二人。カレンは衣裳部屋を占領し、貴族用の着替えの中から、小さい物を見繕っている、
「…随分の、張り切り様ね。面倒な事大嫌いなあなたが。あの紙も…」
アイネが通った王族フロアの幾つかの仕掛けに、『触るな危険』と張り紙がしてあった。明らかに、最も無骨な女官の手書き文字。
「王族フロアはお怪我も命の危機もないものばかりでしょう?まったく…大体あなたの字、見本になる様なものでもないわ。本当、お習字をやりなおしなさいな。」
「いーじゃないのよ!!書くもんはあんたが全部やればいいのよ!!どの道、リディア様はしばらくいらっしゃる様だし…着替えを幾つか用意しないとね。仕掛け扉の位置も覚えて頂いて…お肉が苦手と聞いたから、台所番に伝えとかないと。」

やれやれ、とアイネは床に放り出された用済みの大きな服に手をかける。
「リディア様は、エッジ様とはどう言う仲なのかしらね…」
「…どうって…何よ??」
「あ、いえ…そんなに深い関係がある様には見えない、って事よ。」
「見て判るじゃない。何だかもどかしいわね。ったく、初恋でもあるまいしねぇ。」

リディアがこの国を訪れた日。
『恋人』が来た、と先走って余計な用意をした女官2人は、こっぴどくエッジに叱られる羽目になった。

―――俺とアイツはそーゆうケガラワシイ関係じゃねぇ!もうあんな事するな!!
―――ジィの勘違いは治らねぇ。おめーらがアイツの面倒見るんだぞ!!
―――この国にいる間中、ずーっと、ずーっとだ!!

何が汚らわしいだ、と小さく鼻を鳴らす。
「15の誕生日の夜から、貴族の娘取り替えて、楽しく過していたのはどなただか…」
「それは全く持ってその通りだけど、言葉が過ぎるわよ。そうじゃなくて、心配してるの!!あの方が、エッジ様の事をどう思っているのか気になって。足止めにお困りだったら、悪いわ。」
まぁねぇ、と息をつく黒髪女官。
「…私は命を助けられたし、エッジ様を応援したい、それだけかな。」
「同感。恩のある方にお遣えするのはこの国の流儀よね。」
真剣な様だからね、とにやり、笑う女官達。
「満場一致。あなたと意見が違っちゃいけないからね、カレンお姉さま。私、台所手伝ってくるわ。」

1人になった部屋の中、カレンが窓の外を眺めると、城下の軍事施設に明かりが灯っているのが目に入る。あの建物に活気があるのを見るのは、いいものではない。
「それにしても…エッジ様が結婚、ねぇ。」
リディアがエッジと通い合うものがあるのは判る。けど、まだ形のある物ではないだろう。

散歩の途中、リディアはこんな事を言った。

―――この国に来た夜ね、エッジが、結婚するって喜んでいた夢を見たの。
―――でも、夢って話すと正夢にならない、って言うから、エッジには黙ってたんだ。
―――だからきっと、いいお嫁さんが来るんだよ。きっと―――

その夢、が本当かどうか判らない。
『恋人』と勘違いされている空気に耐えかねたのだろうか。

―――嫌な思いをさせてしまったかしら。いや、そんな事は…

「…エッジ様?」

目を落とした薄暗い中庭の隅で、大きな置石にエッジが一人腰掛けている。裏手から一人で帰って来たのだろうか。
一瞬、息をつく様にその肩が大きく下がった。

―――エッジ様…

エッジはわずかにそこに留まると、何時もの静かな足取りで表玄関の方へ歩いて行った。城の中からは、台所番の騒がしい声が聞こえている。女官達も早く帰る為、夕方の仕事に精を出し、駆け回っていた。何も変わらぬ、夕刻の光景。

たった一人になったエッジが、必死で自分を奮い立たせている。
誰にも伺い知る事のない場所で―――

また、戦が始まるのだろうか。
ルビガンテとの戦で意気消沈し、やっと立ち上がりかけたこの国を、一体誰がどうしようと言うのか。しかし、片付けるしかない。争いの火種は、始めは何時も小さい。だがそれに目をそむけ続ける限り、何処までも大きくなり追いかけてくる。父と母を亡くし、仲間とも離れ一人国を背負う王子。願わくばその片手だけで、払える火の粉であって欲しい。

しかし、むざむざと卑劣な手口を見せ付けた者を、侮る理由は何処にもない。

―――エッジ様一人では、国を背負うのには脆い…
―――隣に立てる方が、ここに来たのは…ただの偶然かしら?

どれ程大きな力を持つ人間でも、一人で何処までのものを背負えるだろう。
アイネが言った通り、エッジの期待だけなのかもしれない。リディアの心は判らない。確信など無い。ただ、小さな客人とこの国の王子は、やってきた嵐に既に手を取り合って互いを支えあっている。それがはっきりと見えるだけだ。

「翡翠の姫--――どうか、この国に希望を―――」

密かな忠臣の呟きは、一人玄関をくぐるエッジへ、そしてベッドで伏せるリディアへと願いとなって注がれて行くのだった。


  翡翠の姫君  完


 第2章 [ 廃位の王 ] へ


 

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HN:
tommy
性別:
非公開
自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
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