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ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
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第2章 廃位の王 

もう何度、身体の向きを替えただろう。その度に、シーツに当たる頬が、ただ、ちょっと痛いなあ、とだけ感じる。カーテンの奥に仕切られたスペースは自分1人だというのに、当たり前の静寂が、空気の音ですら。ベッドに伏せる自分に突き刺さる様で、顔を上げる事が出来ずにいる。

さっき、自分は何を家老に求められたのか。
では自分は何を望んで、ここに来たのか―――

 
 
―――エッジにお使いを頼みたいんだ。
―――まだ何が怖いの?リディア。

あの時セシルの言葉に、返す答えは無かった。
セシルの言わんとしている事が、全く判らなかった訳じゃない。

ただ、セシル達と城で暮している内、『王』と言うものがどう言う存在なのか、どれ程大きな役目を背負っているのかと言う事は、世間に疎いリディアでも感じられる程だった。徐々に『他国の王子』であるエッジには、単純に会いたいと思うことはためらわれた。

セシルの『お使い』が、言い訳に近い事も察してはいた。

―――国の使者なら、もしエッジの隣に未来の王妃様がいても…迷惑にならないよね…
―――でも…本当に普通の『国の使者』として迎えられたら?
―――玉座にすわったままのエッジに、近寄れなかったら?

それでも受けたのは、エッジに会いたいと思っていたのは、真実だったから―――

時間が戻ったかの様な再会に、どれだけ絡んでいた自分の心が解かれ、暖められたか。『もう帰さねぇからな!!』と言う言葉にはさすがに頷けなかったけど、許して貰えるなら少しでも長く、この国に留まりたいと思ってしまった。

―――なのに…

判っている。自業自得なのだ。
エッジの態度を見て、周りが先走らない訳がない。胸に抱かれている姿を見て、家老が誤解しない訳がない。使者としてきたのなら、国に騒ぎが起きたら真っ先に去らなければ迷惑になる。何処が安全か判らない、と言うのも、いざとなったら力になりたい、と言うのも、他から見ればここに留まる言い訳に過ぎないかもしれない。

―――家老さんがあんな事言ったのも全部…

カーテンの外でかたり、と物音がし、顔を上げる。

「…オルフェさん?」
カーテン越しに近づいてきた青年が声をかける。もう、夕飯の時間だった。軽食のワゴンを運んできた様で、微かにスープとパンの香りがした。

「目が覚めましたか?」
「うん…」
そうは言ったものの、ひどく気だるくて身体を起き上がらせる事は出来ない。身体にかかっていたローブがずり落ちたが、それを拾う気にもなれなかった。
時間はそんなに経っていないようだが、既に部屋には西日が差し込んでいる。

「…ごめんなさい。大騒ぎ、する事じゃなかったね。」

徐々に脳裏に、先ほどの家老の言葉が思い浮かぶ。

―――王家にはエッジしかいない、どうか、彼を留めて欲しい

ここに来た事を、そんな風に思われていたのだろうか。
同じ部屋で寝ている、という事は、周りから見ればそう言う関係に見えて当然なのだけど、今更になってそれを思い知る事になった。
「リディア様…先ほど家老様がお忘れ下さい、とのお言伝を…」
「うん…」

動揺と勘違いの上での言葉、と言うのは理解は出来る。それでも思い出すと微かな寒気が走った。
「ねぇ。」
それにしても、とリディアは首を伸ばしてカーテン越しのオルフェの姿を見た。
「どうして、オルフェさんはあそこにいたの?」
「は…その、魔導師の者達にはどの程度の伝令を、と思いまして。戦に関わる者もおりますので。それで引き返したら―――」
「そっか、みっともない所、見せちゃった。入って良いよ。ローブかけてくれたんでしょう?」

カーテンの外の陰は慌てて首を振った。
王子の客人の寝室に、おいそれと入る訳にはいかないだろう。そうとは気がつかず、リディアは首をかしげ、身体を引きずる様に起こし、床に落ちたローブを拾いたたもうとしたが、急いでオルフェはカーテンをくぐり、床に落ちたローブに手を伸ばす。

リディアに笑みがこぼれた。
「ありがとう!優しいんだね。」
「…リディア様。」
オルフェはリディアのベッドから数歩離れた所に跪く。

「先ほどの家老様のお話ですが―――あれは私にも、責はございます。」
「え…何で?」
「いえ、実は…私もよく、家老殿の話し相手をしておりましたので。その、先走りの助長を…」
ルビガンテの戦が終わり、月での戦いからエッジが帰還すると、エブラーナでは国の再建が始められた。周りでは、その為の援助を見込める有力な貴族や他部族の縁者をエッジと結婚させ、国の復興を早めよう、と言う話もあったという。
しかしエッジは、それは妻になった者に負担を強いる事になると頑として聞き入れず、戦いで得た人脈を活用し、自ら様々な所へ赴き民の士気を上げ、国を復興していった。
それによりエッジを支持する動きは他部族や近隣にも広まったものの、先の戦で王族がエッジのみになった事を、父王の代からの世話係でもある家老は非常に気にかけており、若様に良い方はおらぬのか、王家の遠縁の者を探さねば、と常に口にしていたと言う。

「…先の戦では、エッジ様を追い家老殿も自らバブイルの塔へ出向かわれた程―――残されたエッジ様をお気遣う気持ちは我らの比ではないのでしょう…」

ルビガンテを倒したすぐ後。
老いた家老が先頭を切って、兵士達と共に勢い良く乗り込んできた姿は、失礼と思いながらも微笑ましささえ感じる姿だった。しかし、かつては腕の立つ忍者であっただろう家老でも、老いた身に鞭打って塔を駆け上がって来たのだろう。

「で、その…じ、実は家老殿がよく、“早く若様のお子様が見たいものだ、しかし浮名を流した若様に今までお子が出来なかったのは、よもや若は種無しでは?!”…と言っていたのを、よく隣でハイハイ頷いていた物ですから…その…適当に。家老様が1人盛りあがっていたのはやはり止め様がなく…」
「な、なるほどね…」

リディアは目を丸くし、一瞬の後、思わず噴き出した。ここまで来れば、家老の杞憂も相当だ。
「私の個人的な考えから言えば…それは焦らされても、と言う感じなのですが…」
「う~ん、おじいちゃんってさ、きっとそんなもんなんだよ…ね。」

その時、幾人かの兵士が、廊下を駆けた音が聞こえ、扉の外が微かに騒がしくなったのを感じ、二人は顔を見合わせる。
「エッジ様がお帰りになったのでしょうか…」
「かも…顔…合わせたくないな…」

家老の杞憂は判ったものの、流石に、エッジと顔を合わせるとなると、刺激は強い。
「ご具合が悪いと説明しておきますね。」
「うん…ごめんね。お願い。」
オルフェは急いで開け放してある扉の近くに走った。

こつこつと響く足音がやたら大きく聞こえる。
エッジは足音を立てて歩く事は滅多にしない筈なのに、今聞こえて来るのは確実に扉に近付いているエッジの足音。無意識に、耳を覆う様に手が動く。

「ただいまっと。あれ、何だお前が出迎えかよ。」
エッジが扉に姿を現したとき、オルフェは既にごく自然にその場に立っていた。
「お帰りなさいませ。エッジ様。…家老様より、リディア様にご伝言があったのでお伝えにあがりましたが、お休みになっている様なので…」

急ぎ足で部屋を出ようとするオルフェに、エッジはふうん、と首をかしげた。
「って、リディア、どうかしたのか?寝てんのか?」
「う、うん。お帰り…」
エッジは中を伺うが、リディアがこちらを向いている様子もない。
「どうした?風邪でもひいたのか?」
「うん…ちょっとだけね。あ、ああそう、それより、エッジ…出陣するの?」
「…様子次第では、な。皆行くなって言うけど、俺は早くすませてぇし。」
軽く返事をし、部屋着に着替えつつも、様子をうかがわれているのが判る。
「そうなんだ…でも出陣したら、悲しむから…家老さんとか。」

室内には、軽食のワゴンが覆いをかけたまま、手付かずのまま置かれている。病気なら、女官達が放っておく様に思えない。
「お前、一体どうしたんだよ…何かあったの?」
しかし、城に帰ってから誰もリディアの異変を告げる者は居なかった。オルフェはまだ出てゆかず、扉の近くで二人の様子を気にかけている様だった。
「おい…」
「来ないで!」

二人の言葉は同時に発せられたが、既にエッジはそのカーテンを払いのけていた。
「エッジ…」
リディアは寝巻きではなく、部屋着のままベッドに臥せっていた。そしてその足元に落ちていたのは、オルフェがリディアにかけたローブ。エッジは足に当たったローブを見ると、見る間に険しく表情を変えて行く。

「…ここに誰かいたのか?」
リディアとオルフェは一瞬、エッジ越しに顔を見合わせる。気づいたエッジは明らかに険しく表情を変えた。
「だ、大丈夫だってば!!寝てたいの。お願い、閉めて!!」
とっさにリディアは、ローブを拾い上げようとベッドから手を伸ばしたが、その手首はエッジにつかまれ、引き寄せられた。
「その、エッジ…違うの!」
「違うって…何がだよ!?」
手首を掴む強い力に、リディアは身体を硬直させる。エッジは短気な所もあるが、こんな手荒な扱いをされた事は今まで一度もない。
「離して!!痛い!!」

「エッジ様!!」
「てめぇは黙ってろ!!」
エッジは近づいたオルフェを片手で突き飛ばす。その音と激しい口調に、リディアはますます身体を硬くして、同じ言葉を繰り返すだけだった。
「離して…私、疲れてたから…寝たいの…違うのよ。ちょっと嫌な事が…あったの。」
 
「嫌な事って何だ?じいが何か言ったのか?それとも、お前か?」
明らかな誤解とは本人も判っているのだろうが、背後のオルフェを一瞥する。だか蒼髪の青年は、下がりながらも動じることなく答えたのだった。
「いえ…リディア様へ…家老様の方よりお言伝を頂きました。それをお伝えに上がったのですが…ご気分が優れない様でしたので、私の上着を。」
 
うん、とリディアは頷く。彼の言う事が、先程ここで起きた全てなのだ。
伏せる客人の近くに寄るのは無作法な事だが、リディアの先程までの状態ならば、咎められる程の事ではない。
「…お前らの間に何かしらの問題が起きた、って事じゃなければ、俺はどちらも咎める事はない。つまり、他の誰かだな?じいか?」
「…家老さんは…」

家老が言った事。それは、自分が最も避けていた事。

「勘違いしただけなんだよ―――エッジがね、急な戦で出陣になるかもしれないから、心配になったみたいで…エッジに何かあったら、エブラーナはどうなるんだろうっていつも心配で…それで―――」
それ以上、告げる事が出来ない。どうしたんだ、と言うエッジの声は耳に届いている。
「だから…その…」

―――希望だけでいい…若様がその身を大事にする様に…

「その…その…」

口を開いたのは、背後のオルフェだった。
「家老殿は―――リディア様に、エッジ様をお引止めする様にと懇願され―――より深い仲になり、エッジ様がその身を重んじるようにと…出来れば、いずれは世継ぎを…と…」
「―――?な…に?」
その言葉に、エッジは目を見開く。
「じいが…リディア…お前…に…?」
一瞬、意味を理解できなかったのだろう。徐々にエッジの顔に浮かぶ狼狽と、怒りと、戸惑い。
「失礼いたします!」

弾かれた様に、オルフェは立ち去り、部屋には、エッジとリディアだけが取り残された―――


 
  

 
 

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tommy
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非公開
自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
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