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「勝った―――エッジが、勝ったんだね!!」
勝利を告げる城壁の鐘が鳴り響いた。兵達の勝どきの声を聞きながら、リディアは女官2人と抱き合って喜び合った。
「皆、本当に良かった!!」
「リディア様のお力あってこそですよ!!」
顔を上げ、身を翻して駆け出すリディア。二人は急いで、その後を追いかける。
「エッジを迎えに行ってくる!!」
「あ…お迎えの用意…ってそんな状況じゃないわ。行きましょカレン。」
「そーね!何してもいいって声が今、天から聞こえた、以上!!」
家老は回廊を猛スピードで通過する三人を必死で呼び止めたが、全く気付かず走り去る。中庭を通り過ぎ、街の人の避難場所となった城門までの庭園にたどり着くと、ここでも人々は手を取り合い、抱き合って喜んでいた。
途中、馬で城に向かってきたオルフェと鉢合わせ、やっとの事で追いついた家老と輪になって無事を喜びあった。
「リディア様―――エブラーナ軍、完全勝利でございます!!」
オルフェの目にも涙が浮かぶ。
「良かった!!本当に良かった―――!!」
「っと…リディア様…それは?」
しかしふと、オルフェはリディアの手に握られた杖を見て声を上げた。
そう言えば、とリディアも手にしていたものに目を落とすと、黒塗られた塗装ははげ落ち、所々亀裂が入っている。
「これ、玄関に飾ってあったのを借りちゃったんだ。壊れちゃったな…」
「リディア様…ではこれは、エブラーナ城にあったのですか…?」
オルフェの視線の先には、小さな杖には不似合いな大きな先端。そこもひびが入っていたが、よく見ると中から鮮やかな翠色がわずかにのぞいていたのだった。
「何かな、これ。」
手でひびの入った先端をつまんで取り除くと、握りこぶしほどもある、龍の模様の施された翠色の珠がリディアの手に零れ落ちる。
「こんなのが入ってたんだ。頭でっかちだと思ったよ。」
家老が目を見開く。
「リ…リディア様…まさかそれは…お…王位の宝珠では!?」
「へ…?」
手の平の中でそれは穏やかに光を放っていたが、やがて静かにその光を内に秘める様に収まって行った。だがリディアは驚く様子も無く、そうなんだと頷くと、家老にぽん、と鮮やかな宝珠を渡したのだった。
「じゃあ、大切なものなんだね!家老さんから、エッジに渡して下さい!!」
「ひ、ひぇええええええ~!!!」
リディアはかまわず駆け出し、女官もそれに続く。オルフェは笑いながら、家老に布の袋を差し出した。
「本当にエブラーナの王位の宝珠なら…リディア様のお手に戻られたのも、何かのご意思かもしれませんね。」
「まぁなぁ…ワシは判ってはいたんじゃよ。オルフェ…あの方と知り合われてからの若の変化に気がつかぬ程、ワシも馬鹿ではない…じゃが、老婆心ならぬ、老爺心でな…」
家老は少しだけ気の抜けた、ともすれば寂しそうな表情を一瞬浮かべたが、黙って頷いたのだった。
「参りましょう。エッジ様のご帰還です。」
王宮前の広場には、どこからともなく街の人が集まり、大通りを進むエッジの隊を待ち構えていた。
隊の中ほど、馬に乗せられ頭からローブを被せられた男に、人々は口々に謀反人、反逆者と罵声を浴びせたが、男の乗せられた馬には兵の警護がついていた為に暴動には至らなかった。
しかし、王宮の方から飛び出してきた一人の少女を見た者達から、にわかにざわめきが起こる。
―――やっぱり、あの方だよ!!
―――本当だったんだ…
隊列の先頭が王宮前の広間に差し掛かると、先頭の男は乗っていた馬をひらりと舞い降りて、真っ直ぐに駆けて行った。
「若様!!その…民の前ですぞ!!その辺は程ほどに…って若様!!」
控えていたガーウィンが申し訳程度の静止をするが、男は足を止めなかった。
「エッジ…!!!」
少女はその男の姿を見つけると、同じく真っ直ぐに駆け出した。二人は広場の中央で出会い、少女は涙で目をはらし、男は少女を抱き上げて再会を喜んだ。
「エッジ!!!エッジ――――!!!」
「リディア!!!」
それを見ていた人々のざわめきは大きな歓声となり、広場を埋め尽くしてゆく。
―――よかった、エッジ、本当によかった!!
エッジは歓声の中、リディアを抱きしめていたがその手を離し、小さな顔をまじまじと見つめた。
「な、何よぉ!!」
「いやぁ、おめーやっぱり、その方がいいわ!面倒くせぇ出迎えよりな!!」
エッジの刀を受け取った事を思い出し、それだってあんたの差し金じゃない、と言おうとした時。
「じゃ、おし、早速ご褒美を頂くぜ!!」
いきなり自分の唇に乱暴に喰い付きかけたエッジに、リディアは目を丸くする。
「ななな、何すんのよ!!こんな所で―――!!!」
全力の突き飛ばしに、ふらふらとよろめくエッジの身体。
「リ…リディア様…」
その場の皆が目を丸くするものの。二人は既にいつもの言い争いに入っている。
「いてーなてめー!王子様への反逆罪だ!一生俺の傍に拘束の刑~~!!」
「冗談じゃないわよ!!あんたの方こそずるいじゃないの!?」
「なにぃ~!?約束破りはずるくねーのかよっ!!」
間近に迫ったエッジの顔には幾つもの傷が残る。リディアは思わず手を伸ばしそうになったが、口をへの字のまげてその頬を押さえた。
「え、えええ、えーいっ!!!!」
気合と共に繰り出されたのは、固く唇を結んだリディアの口付けだった。鼻がぶつかり、いでっ、と声を上げたエッジは、途端に満面の笑みに変わる。
「うわ~!!俺もう死んでもいいわぁ!!!」
「わ…若様ぁ~…」
近衛兵隊長にも何者かが忍び寄る。その大きな影はいきなりガーウィンを背後から羽交い絞めにした。思わず兵士達は飛び退る。
「あんた!無事だったんだね!実家爆発しちまったよ!でもあたしは無事だよ!」
「ゴ、ゴモラ!!良かった…って、部下の前だぞ、止めてくれ!!く、苦し…い…」
半ば家来達は呆れ果てたが、にぎやかな騒ぎの波は、夜まで延々とエブラーナを歓喜の渦に巻き込んでいたのだった―――