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ちょっと待ってて下さいね…今ブログ生き返らせますので…(涙)
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翌朝は、何時もと変わらぬ朝。
初めての朝には違和感のあったこの城の天井も、すっかり見慣れてしまっていた。 いつも通り、かすかに庭先から女官や兵士達の声が聞こえる。一人部屋を出て顔を洗い、帰りにすれ違った夜勤の兵士達に礼を返す。
その兵達の様子から伺う限りでは、城内に混乱は無い様だった。
―――昨日…何て言われたっけ…
エッジに、王家の人間になって力を貸してくれと言われたのは昨夜。テーブルの置かれていた所に立った時、鮮やかにその時の様子が心に蘇った。

 

―――翡翠の姫。どうかこの国に希望をー――

「や、やだ…ひ、姫って何よ!!!」

途端に頬が熱くなり、自然に顔を震わせる。
確かに、エッジの面持ちは真剣なものだった。だけど、自分に何が出来るというんだろう。さすがにいきなりエッジの隣に立てば、女官達だって内心は面白くないかもしれない。

―――もしかして、エッジ…昨日は説得しに行ったのかな…
―――怒ってないかな…あの2人

扉がノックされる。女官達が来たのだろうか。

「おはようございます、リディア様。」
「おはよ…へ?オルフェさん!?どうしたの?」
意外にも、一番のりは魔導師オルフェ。
「エッジ様の命により、本日よりリディア様のお傍にお仕えする事となりました。」
「へ?そうなんだ…私、十分色々して貰ってるけど…」

―――二人はボイコット…まさかね…

しかしそれを打ち消すように、続いてカレンとアイネが姿を現した。
「おはようございます、リディア様。御召し替えの服をお持ちしましたわ。」
大きな袋を抱えたカレンは、殊更上機嫌な様子が見て取れる。
「おはよ~って…何だかいい服だね…!?」

大体は、リディアは自分で持ってきた簡素な服を着ていた。
しかし今日二人が持ってきたのは、シンプルなエブラーナ風のドレスに魔導師の薄い室内用ローブ。派手ではないものの気品があり、一見して貴族、あるいはそれ以上の身分を思わせる物だ。
「お国のドレスとは違うかもしれませんが…見た目より暖かいですよ。」

嬉しそうな表情でにじり寄る二人に、リディアは目を丸くする。
「ま、待って…ど、どうしたの二人とも!?」
「まだ余り、詳しいお話はご存じない様ね。じゃ、最初は穏やかに行きましょ。」
「…いいわよ。エッジ様が決めたんだし…ホホホ…」
ほくそ笑む女官2人を、オルフェがたしなめている。
「ち、ちょ…特にカレン!!こういった事には順序があるんですから!!」

三人は頭をつき合わせて、何やら相談事をしている様だった。どうやらエブラーナでは、仲間内の密談の際には円陣を組むらしい。
「ち、ちょっと!!オルフェさんまで!?どうしたの!?」
 一斉に3人が振り向く。
「今日より我らの事は、お呼び捨てて下さいませ。さん、とつけたらお返事いたしません!」
「そうですわ。今日よりエッジ様のお妃候補として振舞って頂きますので…」
「ええええ!?あ、あの…それって…」

―――確かに、そうと言われた様な…

力にはとは思ったが、返事もしていない今の今にいきなりとは思わなかった。しかし三人の目の色に真剣以上の輝きがある。先程の憶測が吹き飛んだのはありがたいが、若干の身の危険を感じるリディア。

「…勿論」
リディアの心を見透かす様にカレンが追い討ちをかける。
「この戦いが終わるまで、とかはナシでございます。ホホホホホ…」
「ホ、ホホホって…」
カレンの目は既に据わっている。明らかに本気だ。
「リディア様…”翡翠の姫”がエブラーナにお忍びでいらしている事は、城下の噂になっております。城内の者も感づいてる様ですわね。どこへも隠れられませんわよ。お迎えの刀受けも練習です…ホホホ。」
「迎えの?えっと、エッジが帰って来たら、刀もちすれば良いんだよね?」

ぴたっ、と女官達の動きが止まる。
「あ、ごめんなさい…刀って大切な物なんだよね。エブラーナでは…って、皆…?」
またもや3人は頭をつき合わせて、何か相談している様だった。
「お披露目兼ねてって事は存じてない様だね。二人とも、迂闊な事言っちゃダメよ!!」
一人の声だけは、こちらまで届いて来た。

「…エッジが王家の仕事を手伝って…って…言ったんですが…で、後の事は後って。その、皆…何隠し事してるの!?ずるいよ!!わ、私たち…仲間でしょ!?」
仲間、と言う言葉に、三人の肩が微かに震えた様だった。
「もう…笑ったでしょ…だって、一緒にお城抜け出したりしたじゃない…」
大柄な黒髪の女官は笑いを噛み殺した風で、ドレスを手にリディアに迫った。
「…フッ、後の事は後で?そんなの口から出まかせに決まってます。さ、お召し換えいたしましょ。この服の着方は…ご存知ないですわよね。では我々が。」
「ち、ちょっと待ってよ!!」
オルフェと言う男性がいる事も忘れ、リディアの服を引き剥がしに取り掛かる黒髪女官。

「きゃぁぁあああ~~~~!!!」
アイネが慌てて制止しようとしたが、オルフェは脱兎の如く扉の外へ駆け出していた。流石に服を着る位は自分でしたいものの、エブラーナ風の服の着方がまだ判らず、リディアはされるままに立ち尽くす。襟と身頃を合わせながら、カレンはかまわずに喋り続けていた。
「我ら三人、エッジ様とは幼少のみぎり…女官・侍従見習いの頃よりのなじみでございます。本当は誰よりも、エッジ様にふさわしい方を待ち続けてました訳で。」
勿論三人にはエッジに対し何の権限もないが、身近にいる分思う事もあるのだろう。そろりそろりとオルフェも戻って来た。

「た、確かに言われたけど現実は…ねぇ…ほ、ほら私、身分も無いただの…」
その迫力に下がっても、もはや後ろは壁。
「エッジ様に取り入ろうと寄ってきた貴族のお姫様方は、世の中ご存じないお美しい方々ばかりでしたの。部屋に小さなクモがいただけで失神される事が、皆さんお得意といいますか…どの様な訓練を積めばああなれるのか、優秀なくのいちよりもお芝居がお上手で。」
にっこりと笑うアイネの言葉には若干の毒。
「その様な方々が妃になったらと思えば腹切った方が…もとい、お暇を頂いた方がマシでございます。私は、ふさわしい方に全力でお仕えしたいのです。個人的に言えば、強い女性は大好きでございます。」
「あ、あの…カレンさん…嬉しいんですが、そのぉ、そんないきなり…」
 さん、をつけたせいか返事は無い。恐らくは、ハナから耳に入っていないのだろう。

―――全力で仕える…歓迎…されているのかな…

ともかくも、エッジの身近な人達には歓迎されているのは間違いない。さぁ、ご飯ですとカレンの全力でつかまれるリディアの小さな身体。抵抗は無駄だ。
 
―――私、どうなっちゃうのかな…

警備兵達が最敬礼する中、食堂に引きずられるリディア。それでも、城内の様子が平穏な事に、僅かに胸をなでおろしていた。


一方その頃。
城下の軍事施設、エッジの陣営では―――
 
「今入っている情報は…まだそんなもんかよ…」
若干の苛々をかもし出し、半ば頬杖をつきかけつつも、近衛兵隊長に向ける銀眼は鋭い。
エノールの街では、エブラーナ軍が街を包囲し反乱勢力は立てこもったままで、大きな変化は見られない。反乱勢力は街や住人に手を出す事もなく、平安を保っているが実質的には街一つ人質の様なものだ。しかし、王家の名を語る首謀者と言う者も姿を見せず、混乱させる為の偽りの情報ではないか、との空気も兵の間には漂っていた。

「少数民族の独立は容認できない。が、自治に関しては別に話し合いをするか…王家の話が嘘だとしても、首謀者は早く拘束したいな。示しがつかねぇし。」
近衛兵からの報告を受け、エッジは腕を組んで思案していた。
「しかし、その交渉の席があの様な事に…双方被害が出たとなると、その意図は…」
最も、情報が少ないのは当然の事ではある。それを持ち帰る為の者たちが、敵味方問わず全員爆発に巻き込まれたのだから。最低限の状況変化を知らせる狼煙と、通信用の鳩。
詳しい情報は追々という事になるだろうが、早馬でも1日ではたどり着かない距離。
 
「魔法とか、忍術とか…原因も判らねぇのか?とりあえず城内の兵だけで明日出陣する。いつまでも少人数程度にてこずってる訳にもいかねぇしな。で、俺も行くぜ。」
最後のエッジの一言に、控えていた兵達がざわめいた。
「若様!!それは危険でございます!!」
「ああ、確かにな。だから俺は街には入らねぇよ。」
将校達から安堵の声が漏れる。近衛兵隊長が進みより、エッジに資料を手渡した。
「街に陣を構える兵は確かに報告よりかなり多いようですが、我が軍には及ばない様です。港も運搬に関しては通常通り、王家を名乗る者の姿もありません。」
港が押さえられていないと言う事からすれば、兵力が少ない、と言うのは本当だろう。どうやら大きく争う気は無いようだ。
 
――― 一体、何があったんだ?
 
港を押さえない、と言う事は、街を占領してまで争う気はないと言う事だ。だが、何故。そしてその場で、何が起きたのか。相当の混乱があった事は伺えるが、武力衝突発生、沈静化している、と言う最低限の情報で止まってしまっている。

「ああ、ありがとうガーウィン。海から行く必要はないか…お前はどう見る?このまま膠着状態が続けば…まぁ俺一人乗り込みゃ済みそうな話だけど…」
今度は家老が顔色を変えてエッジに詰め寄った。やりかねない、と思ったのだろう。
「わ、わ、わ、若っ!!どうかそれだけはお控え下さいませ!!!」
「いや、もう無茶はしねーよ。何ていうかこう…今回は帰りを待ってるのもいるしさ。だから、くれぐれも!!よけ~な心配はすんじゃね~ぞ!!じい。」
その言葉は何時もと変わらぬ調子だったが、一瞬エッジの目線が鋭くなる。言わんとしている事を察し、さしもの家老も、黙ってうつむいてしまったのだった。

あまりに珍しい家老の反応に、何事かと、兵士たちはエッジと家老の二人を代わる代わる見比べる。

「…いや、今、俺に大事なお客さんが来てるんだよ!!」
一瞬場の空気が緩む。特に近しい近衛兵達は、その存在を知っていたのだ。
「それではやはりあの方が…」
「いや何もまだ言ってねーぜ!?お客さんとして来ただけだよ。こんな状態だし帰せなくてさ…この戦いが終わったら…なんつーか、正式にアレ…まぁ受け入れてくれると…いいけど…」

しん、と静まった一同。女官と親しい分、その”お客さん”の正体を良く知る近衛兵トマスが口を開く。
「…あれ、ですか。」
「アレだって!!だから、アレだよ!…その、ほら!!」

その言葉に近衛兵だけでなく、下々の兵士、果ては軍医までも色めきたった。
「是非この戦が終わりましたら、ご求婚されませ若様!!!」
「ここは一服盛ってもハイと言って頂きましょう!!」
「おう!そりゃ良い考えだ…って!!ばっ…バカかお前らは!!」

口々に近衛兵、将校達から激励が浴びせられる。
おおよそ戦の場には不似合いな空気だが、士気を高めるには一役買った様だ。その言葉一つで軍事施設が活気付き、にわかに兵達の動きが活発になっていた。
「若様の晴れ姿を見るためにも、我ら力を尽くさねばな!!」

―――おいおい…俺の為じゃねぇだろ…

狙い通りながら、いささかの気恥ずかしさも感じる展開。
 
エッジにとってこの一戦は、最高指揮官として初めての出陣になる。勿論、小規模の制圧に出陣した事はあるが、あくまで上には王である父がいた。不安がないと言えば嘘になる。勿論実際の指揮をとるのは将校だが、彼らは対魔法の実戦は無いに等しい。

国王と言う立場なら内乱程度の事に自ら出陣はしないが、今はまだ王子の身であり、王家の名を語る者とあれば内乱では済ませられない可能性もある。それだけに黙っていたくはなかった。唯一の次期国王に対する周りの心配は大きく、数倍の人数を制圧に当てたのも、エッジを案ずる意見あっての事だった。
失敗は、許されない。

―――いい機会、だったのかもしれなぇな。

ふと、控えていた兵士に向き直る。
「…昼に一度城に戻り、出陣の令を出す。将校達は王の間に集めておくから。」
「心得ました。では城の兵達にも、出陣の準備をする様伝令を。」
「あと、城の者に迎えの刀受けも準備させてくれ。ま、慣れてないから簡単に、な。」

はいと言いつつも、兵士は一瞬、首をひねった。

形式的な事を嫌うこの国。
わざわざ『出迎えの刀受け』をすると言う事は、刀が必要になるという可能性を―――非常事態が近い事を暗に城内に知らしめる合図でもあった。確かに戦が起きるこの時だが、『刀受け』の役目をする者は、王の刀を受け取れる程の格のある人物、非常に王に近い立場の存在がなければ成り立たないのだ。

王と同等の存在。
しかし次の瞬間、兵はあっと大声を上げた。

「…あ!!わ、判りました!!ではすぐにその様に伝令を!」
「そ、俺の部屋にいる人。近衛兵には伝えといたから、玄関の兵士に頼むわ。」
心なしか喜び勇んで、兵は部屋を出て行く。

ふう、と息をつくエッジ。ふと、バロン王に戴冠するセシルとローザの顔が浮かぶ。大国を任せられたあの二人。恐らく名君になるだろう。

―――負けてらんねぇ。

違った部分で高揚する心を、エッジは大きくなる鼓動で感じていたのだった。
 
 
[廃位の王 6]  へ
 
 

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tommy
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非公開
自己紹介:
FFは青春時代、2~5だけしかやっていない昭和種。プレステを買う銭がなかった為にエジリディの妄想だけが膨らんだ。が、実際の二次創作の走りはDQ4のクリアリ。現在は創作活動やゲームはほぼ休止中。オンゲの完美にはよぅ出没しているけど、基本街中に立っているだけと言うナマクラっぷりはリアルでもゲームの中も変わらない(@´ω`@)
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